都道府県・政令市 外郭団体 委託料・再委託料 アンケート調査結果
2006年9月16−17日
第13回全国市民オンブズマン福岡大会
1. 調査のねらい
 指定管理者は自治体が公共施設の管理運営に民間団体を参入させる制度であるが、公共施設の管理業務以外の業務についても自治体は外部団体との間で業務委託契約を締結することが行われている。これも自治体業務の「民営化」の一端である。
 ところで、自治体の業務委託先には私企業から自治体が出資した出資法人まで、様々な団体が含まれるが、このうち、自治体OBの天下り先になっている出資法人に業務を委託している場合などに、業務委託に名を借りたOB対策がなされているとしか評価できないこともある。たとえば、当該出資法人が委託された業務全体を第三者に再委託しているような場合には、わざわざ当該出資法人に業務を委託する意味はない。また、入札によらずに出資法人に随意契約で業務委託している場合に、入札手続きをとらないことの合理性に疑問が呈されることも多い。
 ところが、出資法人が自治体職員の天下り先とされ、長年月にわたって随意契約で業務委託がなされていると、自治体現場での取扱が慣行化し、実際に随意契約の必要性について検討されていない、という事態がほとんどである。このような自治体の中には業務委託に関する情報を統一的に把握できていないため、市民はもとより、自治体の支出権限者である首長も業務委託に要する公金支出の合理性を判断する情報を持たない、ということもあり得る。そうなると、汚職等の問題が発生した場合だけ、問題となった業務委託だけを見直すにとどまらざるを得ず、利権の構造を廃止する、という政策には結びつかない。しかし、市民を公金支出の情報から遠ざけたままにしておいて、問題が起こったところだけ部分的に見直す、ということでは、首長の姿勢として怠慢である。
 そこで、今回は、自治体の出資法人に対する随意契約の件数、再委託件数等について調査をすることとあわせ、業務委託に関する様々な問題を解決するために必要な、出資法人に対する情報や、出資法人との業務委託契約を随意契約で行う必要性を判断する情報を自治体が統一的に把握しているかを調査した。

2. 調査の内容
 以下の項目について47都道府県・15政令市の担当者に対し、2006年5月23日にメールで質問状を送付し全自治体からメールで回答を得た。また、集計した結果を同年8月9日に再度メールにて確認した。
(1) 当該自治体が25%以上出資している法人についての情報(平成18年4月1日現在)
@名称及び法人の種類(財団法人,株式会社等) A常勤役員数 BうちOB役員数 Cうち派遣役員数 D常勤職員数 EうちOB職員数 Fうち派遣職員数
(2) 当該自治体が25%以上出資している法人と,当該自治体との間における業務委託契約の情報(支出科目が委託料のもの)(平成17年度分)
@業務委託契約件数 A@のうち、随意契約件数 
B業務委託契約金額 CBのうち、随意契約金額
(3) 当該自治体が25%以上出資している法人との間における業務委託契約のうち、委託された業務を第三者に実施させている場合の、以下の事項の把握の有無
@出資法人と第三者間の契約件数 A@のうち、随意契約件数
B出資法人と第三者間の契約金額 CBのうち、随意契約金額
(4) (3)で(一部)把握していると回答した場合、その把握内容
@出資法人と第三者間の契約件数 A@のうち、随意契約件数
B出資法人と第三者間の契約金額 CBのうち、随意契約金額
(5) 把握していない場合の今後の調査予定

3. 調査結果
(1) 外郭団体についての把握
 ほとんどの都道府県が25%出資している法人(以下「外郭団体」という。)についての常勤役員数、OB役員数、常勤職員数、OB職員数を把握していたが、静岡県だけは役員や職員について把握していない、との回答であった。
 また、岡山県は県庁OBが外郭団体のどこに再就職したかについてのデータはない、と回答した。静岡県は今年秋にはデータを集約する、とのことであるが、岡山県からはかかる反応はなかった。しかし、外郭団体への天下りが問題になっているなかで、「データなし」ではすまされないだろう。早急な調査を求めたい。
(2) 業務委託についての情報の把握
 外郭団体への業務委託の随意契約についてデータなしと答えたのは宮城県、山形県、群馬県、千葉県、静岡県、島根県、岡山県、広島県、香川県、高知県、沖縄県の11県と千葉市・京都市・神戸市の3市であった。また、東京都は各局が団体を所管し、一元的には管理していないと回答があった。
 東京都を含め、これらの自治体では外郭団体への業務委託については各担当部署任せになっているばかりか、市民は業務委託情報を知ることがきわめて困難な状態に置かれていることになる。
 また当然ながら、これらの自治体では再委託についても把握していないか、一部しか把握できていない。これでは業務委託について自治体がチェックすることなど期待すべくもない。これらの15自治体では業務委託が天下り利権の巣窟になっていたとしても、これをチェックする術をもたない、ということである。
 これらの自治体に対しては、早急に情報を収集し、外郭団体に対する業務委託が不当な利権を生み出していないかをチェックし、市民に公開することを求める。
(3) 業務委託契約と随意契約の割合
 業務委託契約金額のうち、随意契約の金額の割合を「随意契約率」とし、随意契約金額が判明した35道府県、12政令市で分析した。
 35道府県の業務委託総額3974億4720万3千円中、随意契約が3751億3397万7千円で随意契約率は94.4%、12政令市の業務委託総額2792億65万9千円中、随意契約が2733億219万3千円で随意契約率は97.9%といずれもきわめて高い割合であることが判明した。
 また、件数で分析すれば、岩手県(298件中297件が随意契約)、福島県(638件の業務委託契約中632件が随意契約)、茨城県(201件すべてが随意契約)、栃木県(319件の契約中313件が随意契約)、新潟県(304件の契約中300件が随意契約)、石川県(203件全てが随意契約)、福井県(412件中411件が随意契約)、岐阜県(230件中209件が随意契約)、兵庫県(719件全てが随意契約)、仙台市(239件中235件が随意契約)、横浜市(422件中395件が随意契約)、大阪市(1115件中1108件が随意契約)、広島市(554件すべてが随意契約)は、外郭団体への業務委託件数が200件を超えるにも関わらず、その9割以上が随意契約によっていることになる。
 随意契約で業務委託をしたものの中には、外郭団体の設立目的自体が入札になじまない業務の委託をうけるため、というものもあろう。しかし、各自治体の外郭団体への業務委託金額は莫大である。そうすると、果たして委託額のうち道府県で94.4%、政令市で97.9%が随意契約に基づく委託契約によって支出されていることの合理性は疑問である。
 なお、政府は2006年6月13日づけで各省庁が所管公益法人、独立行政法人、特殊法人、天下り官僚がいる民間法人等との随意契約の実態調査を発表し、2兆1743億円(29631件)の随意契約があり、うち随意契約妥当な7160億円(6843件)以外について緊急見直しをし、競争入札や企画競争・公募にする方針を打ち出している。この政府の調査によると、随意契約の金額中、3分の2は随意契約とすることが不相当ということになる。
 そもそも随意契約による契約締結が許されるのは、業務委託の内容が専門性を有する場合など、ごく限られた場合である。業務委託契約のうち、9割を越えるものが随意契約によって委託しなければならないような特殊性を有するとは到底思われない。早急に再検討する必要があろう。
(4) 再委託を把握しているか
 青森県、福島県、栃木県、埼玉県、富山県、福井県、山梨県、大阪府、和歌山県、山口県、徳島県、福岡県、佐賀県、宮崎県、鹿児島県の15府県と横浜市、大阪市の2市が把握している、と答えた。再委託についてはほとんどの都道府県と政令市がその必要性を判断するために十分な情報を保有していない。しかし、再委託の情報は、随意契約の合理性を再検討する有力な情報である。随意契約で契約を締結した外郭団体が主要な事業を丸ごと再委託しているような場合には、そもそも随意契約を締結する合理性はない。そして、かかる場合には、外郭団体の存在意義もきわめて低いといわざるを得ないから、当該団体への公金支出のありかたそのものを再検討する必要があろう。

4. まとめ
 今回の調査は外郭団体に対する業務委託についての初めての調査であり、調査内容も概括的なものとならざるを得なかった。しかし、そのような概括的な調査内容ですら、自治体自身が、十分なデータを持っていないことが浮き彫りになった。
 外郭団体がOBの天下り先として、利権を貪っていた、という事件は目新しいものではない。にもかかわらず、外郭団体に対する業務委託について自治体自身が十分なデータを持っていない、という事実は、外郭団体に関する自治体の公費支出のチェックが長年にわたって、なおざりにされてきたことを意味する。
 今回の調査をきっかけとして、各自治体においてデータを収集し、随意契約の必要性や外郭団体そのものの存在意義についてチェックするとともに、市民が随意契約の必要性や合理性を判断できるよう、資料を公開すべきである。
 外郭団体等と国の機関との随意契約の見直しについては、現状において国が対策を発表している。都道府県・市町村に関しても、外郭団体との随意契約での委託契約締結の必要性をまずはゼロベースで見直すべきであろう。
 今回は全体の概括的なまとめの他に各自治体ごとの外郭団体情報と、当該外郭団体への業務委託に関する調査結果を資料として添付した。本調査の各論ともいうべき各自治体での問題点の指摘は各地域のオンブズにかかっている。各地の奮闘にも期待し、まとめとしたい。

以上