第2 外務省、在外公館及び外交の意義
1 外務省
 外務省とは、国家行政組織法3条2項の規定に基づいて設置された行政機関であり、その長は外務大臣である(外務省設置法2条)。

 憲法73条は、「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。」として、その2号において「外交関係を処理すること」、3号において「条約を締結すること(以下略)」と定めて、多岐にわたる内閣の事務のうちから憲法自らの例示するところとして、外交事務を取り上げ、その重要性を明らかにしている。

 外務省は、平和で安全な国際社会の維持に寄与するとともに主体的かつ積極的な取組を通じて良好な国際環境の整備を図ること並びに調和ある対外関係を維持し発展させつつ、国際社会における日本国及び日本国民の利益の増進を図ることを任務とする(外務省設置法3条)。

 外務省の所掌事務は、同法4条の定めるところであるが、これを例示すれば、
(1) 日本国の安全保障、対外経済関係、経済協力、文化その他の分野における国際交流、その他の事項に係る外交政策に関すること(同法4条1号)
(2) 日本国政府を代表して行う外国政府との交渉及び協力その他外国に関する政務の処理に関すること(同条2号)
(3) 日本国政府を代表して行う国際連合その他の国際機関及び国際会議その他国際協調の枠組みへの参加並びに国際機関等との協力に関すること(同条3号)
(4) 条約その他の国際約束の締結に関すること(同条4号)
(5) 日本国政府として処理する必要のある渉外法律事項に関すること(同条6号)
(6) 国際情勢に関する情報の収集及び分析並びに外国及び国際機関等に関する調査に関すること(同条7号)
(7) 日本国民の海外における法律上又は経済上の利益その他の利益の保護及び増進に関すること(同条8号)
(8) 海外における邦人の生命及び身体の保護その他の安全に関すること(同条9号)
(9) 本邦に在留する外国人の待遇に関する関係行政機関の事務の連絡調整に関すること(同条14号)
(10) 外交文書の発受その他の外交上の通信に関すること(同条17号)
などとなる。

2 在外公館
 在外公館は、国家行政組織法8条の3にいう「特別の機関」として、外務省に設置されたものであり(外務省設置法6条1項)、在外公館の種類の一つとして、大使館がある(同法6条2項)。大使館の長は、特命全権大使であり、外務大臣の命を受けて、当該大使館の事務を統括する(同法9条1ないし3項)。

 大使館は、外国において外務省の所掌事務を行う(同法7条1項)。

 在外公館として、アメリカ合衆団ワシントンに在アメリカ合衆国日本国大使館(以下「在米大使館」という。)が、フランス国パリに在フランス日本国大使館が(以下「在仏大使館」という。)、中華人民共和国北京に在中華人民共和国日本国大使館(以下「在中大使館」という。)が、フィリピン国マニラに在フィリピン国日本国大使館(以下「在比大使館」という。)が、それぞれある(在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律1条別表第1)。

3 外交事務
 憲法前文は、「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」と述べているが、国際社会は、それぞれに独立して最高の統治権を有する各主権国家等によって成り立っているため、主権国家が国際社会における基本的な行動主体、法主体となっており、そのほか国際機関等が国際社会において一定の範囲で行動主体、法主体として認められている。したがって、わが国の外交関係は、わが国と他の主権国家及び国際機関との関係にほかならない。当然のことながら、これら他の主権国家、国際機関にはわが国の主権は及ぶことがなく、これらとの関係は、すべて交渉・渉外という性格を帯びる。このような他国等との交渉、渉外の事務は、一元化しなければ適切な処理ができない。この見地から、わが国民の福祉を対外的な関係において保護し、増進させるため、外務省において一元的に外交関係を処理し、諸外国や国際機関等と接触・交渉を持ち、国際関係を主体的に処理・運営するという方針が採られている。

 そして、前記外務省の所掌事務は、このような方針の下に同省に一元化されたものであり、これを総称して外交事務という。
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