第7 本件不開示決定の適法性
1 本件各行政文書に記録されている情報
 本件の開示請求に係る開示請求書(甲第1号証ないし第5号証の各1)に開示を求める行政文書として記載されたものは、平成12年2月及び同3月に外務省大臣官房、在米大使館、在仏大使館、在中大使館、在比大使館で支出された報償費に関する支出証拠、計算証明に関する計算書等である。

 これに対応する行政文書としては、支払関係書類と称されるものがある.支払関係書類は、個々の報償費の支払ごとに作成されるものであって、個々の報償費の支払に関する、支払日、支払先、支払額、取扱者、支払の理由ないし目的等の、個々の報償費の支払に関する詳細な情報が記録されている。

 なお、これらの各行政文書は、報償費が、予めその使途が特定の使途に限定されたものでなく、その時期の状況に即して機動的に支払の目的、使途等に照らして必要な支払を決定するという性格の予算科目であることにもかんがみ、報償費支払に関する行政文書に、その支払の理由ないし使用目的の部分に、どのような情報収集、外交工作の必要から、どの国・国家機関のだれに対し、あるいはそれ以外のだれに対し、情報収集、外交工作等を行う目的、報償費を使用するのかということをできるだけ具体的に明らかにするため、それらにつき可能な範囲で具体的に記載することとなっている。

 そして、前述のように、情報公開法上の「情報」は、ある事象、事柄を伝達するものとして、社会通念上独立した一体的なものとなっているということができる範囲で一個の情報となると解すべきであり、これを、支払関係書類についていうと、これらの行政文書は、個々の報償費の支払の内容を記録するために作成されるものであって、その記載事項のすべてが、個々の報償費の支払の詳細な状況を記録し、伝達するために記載されるものであるから、個々の支払に関する支払関係書顛ごとに、支払日、支払先、支払額、取扱者、支払の理由ないし目的等が一体となって一つの意味内容を構成しているとみるべきであり、個々の支払ごとに一個の情報が記録されていると認められる。

 したがって、不開示情報該当性は、情報の構成要素にすぎない個々の支払日等の事項に細分化して微視的な判断をすべきではなく、個々の支払ごとにまとまって一体となっている独立的な一個の情報について判断すべきである。

 外務省における報償費は、既に述べたとおり、情報収集その他外交工作を行うことにより、諸外国との外交関係並びに外交交渉及び国際会議を有利に展開するために使用されているのであるから、結局、本件各行政文書には、このような性質を有する報償費の個々の支払についての、時期、相手先、目的等を示す情報が記録されているものである。

2 法5条3号該当性
 被告は、本件各行政文書に記録されている報償費の支払についての情報が、情報公開法5条3号に該当するかという点について裁量権を行使し、これが公にされることにより、情報収集その他の外交工作が阻害され、適切な外交事務を遂行することができないので、法5条3号に該当すると判断した。

 したがって、上記のとおり、原告において、不開示決定の取消しを求めるならば、被告の判断が裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったことを主張立証しなければならない。

 なお、付言するに、この情報は、これを公にすると、諸外国、国際機関が有する情報又は一般人が入手できる情報と照合され、さらには分析を加えられることにより、外務省の行う情報収集その他の外交工作の内容、対象、目的及びその協力者ないし工作対象者を推知され得るものであって、その場合、協力者に危害等が加えられることにより、その協力を以後得られなくなり、今後の外交工作活動が阻害され、ひいては外交事務の適切な遂行が妨げられるおそれがあり、さらには、他国若しくは国際機関との信頼関係にも支障を来すおそれがあるから、「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがある」とした外務大臣の判断が合理的であることは明らかである。

 これに対し、原告は、本件各文書が開示されても、「国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」がないという、主観的意見を開陳しているものにすぎず、何ら裁量権の逸脱・濫用に関する具体的な主
張をしないから、本訴請求は失当といわざるを得ない。
3 法5条6号該当性 その他
 本件各行政文書に記録されている報償費の支払についての情報は、公にされることにより、萎縮的効果が外交交渉等の相手方に生じ、あるいは、わが国の情報収集その他の外交工作の態様・手段が明らかになることにより、今後、他国に情報収集その他の外交工作を妨害されるおそれがある。さらには、その結果、外交交渉等の外交事務の前提としての十分な情報を収集し得ず、あるいはわが国の利益のための外交工作が不調に終わることにより、適切な外交事務を遂行できないおそれが高くなるというべきである。それに加え、他国及び国際機関からの信頼をも失うおそれがあり、信頼関係に基づいて行われる外交事務が適正に遂行できなくなるおそれがある。

 したがって、本件各支払関係文書に記録されている情報は、外務省が行う事務に関する情報であって、公にすることにより、外交事務の性質上、同事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるというべきであるから、これに関する被告の判断が正当なものであることは明らかであり、この点からも本訴請求は失当といわざるを得ない。

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