第8 原告の主張に対する反論等
1 原告の主張の不当性
 原告は、本件各行政文書に記載されている情報は、金員交付の相手方氏名や懇談会の参加者氏名など会合の外形的な事実にすぎないものであって、懇談会等の個別具体的な内容が明らかにされているものではないから、情報が開示されたからといって直ちに不開示通知書が挙示するおそれが生じるわけではないと主張する。

 上記主張は、大阪府水道部の懇談会議費に関する最高裁判所平成6年2月8日第三小法廷判決(民集48巻2号255ページ)を、本件各行政文書に関してそのまま引用したものにすぎず、不開示事由の根拠規定、不開示決定に係る行政文書の性質、内容、当該行政文書に係る事務の分野、性質等の一切を捨象した牽強附会の論である。公共団体の一部局の懇談会議費と主権国家間等においてわが国を代表し国運を担って他国等と折衝する外務省における報償費との性格の違いを全く無視したその主張が当を得ないことはいうまでもない。

 すなわち、公共団体の部局(水道局)の行う懇談会等の形式による事務と、わが国を代表して他国と交渉を行う外交官の行う事務には、その性質上大きな差異があることは明らかであり、しかも、自治体の水道局の行う懇談会等と、報償費を使用する外交事務に関してはその目的・意義という観点でも大きく異なるものであるから、両者を同列に扱うことは到底できないものというべきである。

 したがって、本件各行政文書に記録された情報が、外形的な事実を示すものにすぎないという前提自体が、そもそも先に述べたとおり誤りであるが、仮に、これをさておいたとしても、外交交渉等において接触する相手方の氏名、場所、日時等の部分すら、これを公にすることにより、外国又は国際機関が有する情報又はその他の者が入手することのできる情報と照合され、分析されることにより、外務省の行う情報収集その他の外交工作の内容、対象、目的及びその協力者ないし工作対象者を推認され得るものであって、その場合、あるいは協力者に危害等が加えられることにより、以後協力が得られなくなり、今後の外交工作活動が阻害され、ひいては外交事務の適切な遂行が妨げられるおそれがあり、さらには、他国若しくは国際機関との信頼関係にも支障を来すおそれがあるものであるから、法5条3号及び6号に該当することも明らかであり、原告の主張は失当というほかない。

2 目的外使用の主張について
 原告は、公費の無駄な支出を監視するため本件各行政文書を開示すべきであると主張するかのようである。しかしながら、不開示情報の規定や開示請求の目的が開示請求書の記載事項とされていないことから看取されるとおり、法は、開示決定等は、開示請求の動機、理由のいかんを問わずこれを行うべきものとしているものである。したがって、原告が本件開示請求の目的と主張するところのものは、開示請求に対する判断に当たって斟酌することができないから、本件訴訟の審理判断の対象ともなる余地がない。

 加えて、わが国の法体系は、国の財政の適法性については、国の歳入歳出の決算をすべて毎年会計検査院がこれを検査すること、内閣は、決算を次の年度に、その会計検査院の検査報告とともに国会に提出しなければならないことなどによりこれを確保するとの制度を採用しているのであって、公共団体における住民訴訟のような特別の参政の制度は設けられていない。要するに、現行法の体系は、国の財政の違法の予防是正は、代表制の過程による政治的批判のほかは、統治機構内部の作用でこれを行い、国民には直接これに参与する権限を付与しないとしたというほかはない。情報公開法の解釈適用も、このような体系との整合性が保たれるべきであり、情報公開法の定める開示請求権を一種の直接参政権の制度に転用しようとしたり、不開示決定の要件に国の財政の違法の予防是正という異質の観点を混入させたりすることは、解釈論の名に値しない。

戻る