平成13年(行ウ)第150号 行政文書不開示処分取消請求事件

原 告 特定非営利法人 情報公開市民センター
被 告 外 務 大 臣

原 告 準 備 書 面(2)

2002年1月28日
東京地方裁判所民事第2部 御 中

原告訴訟代理人弁護士






高  橋  利  明
大  川  隆  司
羽  倉  佐知子
清  水  勉
佃     克  彦
土  橋  実
関  口  正  人
谷  合  周  三

第1 回りくどい被告の釈明を分析する
1 不誠実な被告の釈明(回答)
 報償費と便宜供与費用との関係について、原告が求めた釈明事項の要旨は、@便宜供与の費用は、どのような費目から支出されているか、A平成11年度において、在外公館における会食費を中心とした便宜供与費を報償費から支出していたか、とするものである。
 被告がこれに回答するのは何の困難もないはずである。しかし被告は、第2準備書面の「結論」において、「便宜供与に係る業務に充てるため支出される経費の予算上の支出科目は、それが便宜供与としての性格を有するか否かにかかわらず、具体的な業務の内容、目的等に基づいてもっとも適切な科目に決定されるものであって、便宜供与に関する経費であることから費目を特定することとはならない」(10頁)などと釈明事項とは見当はずれの回答を繰り返した上、「報償費の支出の具体的使途を明らかにしない理由は、報償費固有の事情に基づくものであって、それが便宜供与としての側面を併せ有しているか否かによって影響されるものではない。……便宜供与の費用が報償費から支出されているか否かは、本件各不開示決定の適法性とは何ら関係のないことであって、これ以上釈明する要を認めない」などと、国民への説明責任をとんと意に介しない居丈高な言辞を弄して、回答を拒否した。
 しかし上記のように、「結論」においては明確な回答を回避したが、被告も在外公館における便宜供与の費用を報償費から支出していることは否定できず、長い前置き部分においては、報償費からの便宜供与費用の支出を間接的に認めることになっている。被告が、このようなあいまいな答弁をしたことについては、それなりの理由があるのであろうが、それはさておき、被告の主張を整理しておこう(このような不必要な手間がかかるのは、被告が誠実な対応をしないからであり、原告は厳重な抗議を行う。また、同準備書面9頁には、脱字のためか意味がつながらない部分がある)。

2 被告準備書面の整理
 被告は、「便宜供与に必要な費用を支出するに当たっては、個々の業務に対応するあらゆる科目の予算が用いられることとなる。例えば、第三者に調査や警備を委託する場合には、諸謝金、在外公館の館員が地方に同行する場合は職員旅費、各方面との連絡調整や資料作成には庁費、定時外の空港送迎や移動に伴う人的動員には現地補助員給与というように、個々の必要に応じ、適切な科目から支出される。もとより、便宜供与に係る費用は上記に掲げたものに限られるわけではなく、『便宜供与の経費』に支出される特定の科目というものはない」と説明し(6頁)、「例えば、他国との外交交渉に参加する渡航者及び在外公館職員が、渡航先において、他国政府関係者等に対して外交工作等を行ったり、あるいは情報提供者に対する接触を行って情報を収集するために、飲食の場を設定するというような場合があるとすれば、……渡航者に対する便宜供与ともいえる」などとも説明する(7頁)。上記の趣旨の説明は繰り返されており(8頁)、また、「報償費の支出と便宜供与との間においても、概念上あるいは論理上の関連性は全く存在しない」とも言っている(8〜9頁)。

3 被告は報償費からの支出を認める
 そこで、被告の回りくどい回答を整理すると、次のようになるだろう。
 求釈明事項1については、「在外公館の便宜供与費用が支出される科目は、諸謝金、職員旅費、庁費、現地補助員給与などがあるが、これに限られるものではなく、時として、『報償費』からも支出される」となる。
 求釈明事項2については、「平成11年度においても、在外公館における会食費を中心とした便宜供与費を報償費から支出していた」となる。
 上記求釈明事項1についての(原告作成の)「回答」は、便宜供与費は「個々の必要に応じ、適切な科目から支出される。……『便宜供与の経費』が支出される特定の科目というものはない」との被告主張(事実)の当然の帰結である。同2について、平成11年度という特定の時期については、被告の主張は一層あいまいだが、この時期だけ特別の処理がなされていたとの主張はない(そうした事実を認めることもできない)。そこで、11年度も報償費から便宜供与の費用が支出されていたことになるはずである。
 被告の回答がこのようにあいまいになったのは、被告として「報償費から便宜供与費は支出していない」という積極的な否定をすることはできず、さりとて、支出を肯定する表現は極力回避したいという意図があるからであろう。


第2 会計検査院も報償費の不適正執行を指摘
1 会計検査院の指摘
 会計検査院は、外務省の報償費の執行について調査を行い、平成13年9月27日、会計検査院法第34条に基づく是正改善の措置と、同法36条の規定に基づく改善の措置を要求した(同日付で「報償費の執行について」と題する文書を公表 甲第11号証)。
 会計検査院は、この「措置要求」において、外務省に対し報償費の本来的な使途に相応しくない使われ方がなされていることを指摘している。以下、会計検査院の調査結果に基づいて、「報償費」の使途を点検する。
 会計検査院の調査対象は、外務省本省と在ベトナム日本国大使館外12箇所であるとされている。平成8年度から12年度までを調査したが、その中心は12年度であるとされている。
 上記「報償費の執行について」(甲第11号証)では、外務省の報償費の経理処理について、「支払が翌年度の予算から行われているもの」、「支出に関する決済が事前になされていないもの」、「書類の不備等により確認が十分できないもの」、「監査が十分に行われていないもの」などがあると指摘した上、報償費の使途について、次のように認定している。
 「報償費は、想定しがたい突発的な事態が生じ得る外交においては、特に柔軟な対応が求められることから、機動的な執行が可能な経費として配賦されている。しかし、12年度に報償費で支出されたものの中には、定型化、定例化するなどしてきており、当面の任務と状況に応じ機動的に使用するとの報償費の趣旨からすると、報償費ではなく庁費等の他の費目で支出するよう改善する必要がある経費(国内又は海外で開催される大規模レセプション経費6131万円、酒類購入経費1536万余円、本邦関係者が外国訪問した際の車借上げ等の事務経費1083万余円、在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費4720万余円、文化啓発用の日本画等購入経費7233万余円)が含まれていた」(8〜9頁)と指摘している。結局、会計検査院が指摘した改善を要すべき不当処理されていた金額は、2億703万円にも上っている。

2 情報収集等のために使用されていない報償費の存在
 会計検査院の調査は外務省の全庁調査ではないから、全在外公館において、報償費が同様な処理をされていたとは、直ちには断定できない。しかし、同院が改善措置を求めた報償費の執行は、外務省内では何らの疑問も持たれてこなかったものであり、かつ、同院が改善を求めたのは調査対象部署だけでなく、全省に対してのことであるから、この報償費の不当な執行は、外務省内でひろく行われていたものと理解してよかろう。
 会計検査院が指摘した、@国内又は海外で開催される大規模レセプション経費、A酒類購入経費、B本邦関係者が外国訪問した際の車借上げ等の事務経費、C在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費、D文化啓発用の日本画等購入経費などが、外務省における業務遂行上の必要経費であろうことに、原告は格別の異論をはさむものではない(程度問題は別とするが)。しかし、これらの経費は、支出の形態においては「国が、国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」(被告第1準備書面41頁)には当たらないこと明白であり、また、「情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するため使用する」直接的な経費ではないことも明らかである。会計検査院が指摘した前記の経費は、形式面においても、実質面においても、「報償費」としての性格を有しない支出なのである。
 会計検査院は、「本院が要求する是正改善及び改善の措置」として、「報償費の使途について見直しを行い、庁費等の他の費目から支出するよう改善する必要がある経費については他の費目での予算措置を講ずるなどし、今後は報償費として真に支出する必要があるものに使用していくこと」〔甲第11号証 10頁(ウ)〕を求めた。会計検査院は、外務省の報償費が本来の趣旨に使用されていないことを指摘し、その改善を求めたのである。

3 おざなりな内部監査
 会計検査院は、外務省の内部監査が、きわめておざなりに行われていたことも指摘している。
 外務省は、内部監査を行ってはいるが、「本省においてはその体制が十分整備されておらず、また、在外公館においては、査察が行われる際に査察チーム(通常3名)のうちの1名が時間的制約から半日程度行っているに過ぎない状況であった。そして、197の全在外公館のうち、査察が行われたものは11年度19公館、12年度20公館となっている」というのである。そして、「報償費の使途として適切であるかなどという観点については査察項目となっておらず」ともしている。報償費については、事実上、内部監査は行われていなかったに等しい。
 そして、後に(第3)述べる、外務省の長期にわたる組織的なうら金(プール金)づくりの事実を考え合わせると、外務省全職員の倫理感の欠如と組織としての統制機能の喪失が浮かび上ってくる。外務省本省並びに在外公館では、本来的に会計処理の合規性が軽んじられ、職員らの公私混同の支出が横行していたものと断ずることができる。

4 外務省の予算措置上の対応
 会計検査院の調査で、報償費の不適切な使用が明らかにされるに及んで、外務省も平成14年度の予算要求では、報償費の費目振替と節減を打ち出さざるを得なかった。これまでの新聞報道によると、同13年度の報償費予算額(本省と在外公館で55億7千万円)に比して、約40%相当減額する方針で、予算要求額は33億4000万円に止めるとのことである。この減額(22億3千万円)のうち、首相や外相、国会議員の外国訪問の際の便宜供与に使っていた8億円と各種レセプション経費6億円の合計約14億円は交際費への振替で処理し、約8億円が「節約」であるという(日経新聞13.9.2朝刊ほか 甲第12〜13号証)。これによれば、減額40%のうち、25%相当額が費目の振り替え、15%相当額が「節約」ということになる。
 外務省のこの措置は、前記の会計検査院の改善要求にそう措置であるが、これまでの報償費のかなりの部分が交際費や便宜供与費用に使われていたこと、すなわち報償費の目的外使用であったことを自認したものである。


第3 外務省本省の組織的「うら金作り」
―公表された「プール金調査報告書」から
1 20年にわたる全庁での組織的な「うら金作り」
 田中外務大臣は、平成13年11月30日、「『プール金』問題に関する調査結果報告書」(甲第15号証)を公表した。元要人外国訪問支援室長による機密費詐取事件での起訴に続いて、沖縄サミットを舞台にした同省経済局課長補佐のハイヤー料金水増し着服事件(平成13年8月 起訴)、1995年のアジア太平洋経済協力会議を担当した同省欧州局課長補佐の宿泊代金水増し着服事件(同年9月 起訴)が、各部局の予算執行の中で取引先にいわゆる「プール金」を設け、これを不正に着服する手口であったことから、重い腰を上げて、全庁調査を行うに至ったものである。調査対象とした期間は、平成7年4月1日から同13年7月末日まで、調査対象企業は、ホテル、ハイヤー、事務機器、旅行代理店及び百貨店など31社であったとされている。
 この報告書によれば、「『プール金』は、外務省が経費を支出する各種行事(外国の賓客やその他要人の招聘、国際会議、レセプション等)の一部において、外務省から取引先に実績を上回る支払がなされた結果生じたものであり、これを諸外国要人の本邦における接遇に関連して生じた経費(ホテルにおける連絡室の設置等)、諸行事に際しての弁当代など職務に関連した経費の他、職員間の懇親の経費等に充てていたものである。職務に関連した経費と職員間の懇親のための経費の割合は、概ね半々であった。」(1頁) 「外務省が費消した『プール金』として、約1億6000万円という額を算出するに至った」うえ、「現時点においてホテル等に合計約4240万円の残高が計上されていることが判明した」(前同)というものである。
 プール金を有していた課・室は、全課・室119のうち、71課・室である。これらの課・室が計12社の取引先企業に『プール金』を有し、「外務省省員が職務に関連して又は職員間の懇親のための経費として使用した」というものである(田中外務大臣の記者会見での説明)。
 田中外務大臣の説明によれば、こうした「プール金」制度は、20年も前から行われていて、うら金作りに手を汚していた組織は、全省の6割に及んでいたのである。これだけでも、外務省ないし同省職員らの反倫理性・反国民性・反社会性は国民の驚愕するところであるが、同大臣によれば、「極めて残念であるが、外務省の不祥事がこれで全部終わったとは思っていない」というのである。
 同大臣は、この公表記者会見を次のように述べて締めくくった。
 「……、今分かっているだけでも20年前である。これが、今日自分が発表したから全部終わると皆さん思われるか。だから、まずキャリア制度。高くて、厚くて、固くて、ベルリンの壁より固いかもしれない。……キャリアの方達の意識がどうも改善されそうもないと思うからである。若い人たちを見ても残念ながらそう思うし、トップに至ってはすごいものだなと思って見ている。よくこれで社会で通る、世の中で通ると思う。……在外に出ても、本省内においても、これは一度革命が起こらないと無理であろうと申し上げて、自分の話を終わらせていただく。」
 外務省キャリアの独り善がり・非常識は、毎度の被告準備書面にも遺憾なく発揮されている。

2 不正経理された費目・科目
 外務省の「プール金」としてのうら金の合計額は、前述のとおり、2億240万円に上った。しかし、この「プール金」を持っていた課・室が全省の6割にあたる71に及んでいたことは明らかにされたが、個々の課・室名は伏せられたままである。また、この「プール金」が省内のどの科目・費目から捻出されたものかも公表されていない。とは言え、「プール金は、外務省が経費を支出する各種行事(外国の賓客やその他要人の招聘、国際会議、レセプション等)の一部において、外務省から取引先に実績を上回る支払がなされた結果生じたもの」というのであるから、報償費の執行の過程で取引先に水増し請求をさせていたものがあったことは疑いない。報償費も職員らの食い物にされていたのである。いやむしろ、会計検査院が指摘したように、報償費には特別扱いが認められていたことからすれば、報償費こそ「プール金」のうら原資であったと見る方が正しいであろう。
 大規模な組織的不正経理の実態調査であるならば、不正経理された科目・費目の公表は、不正解明の一端として、国民への最低限の責務であるはずであるが、外務省はそれすら秘匿している。こうした事実も、前記の推測を裏付ける補強証拠である。
 田中外務大臣は、記者発表において、今後の反省点、改善策として、「必要なことは情報の開示、アカウンタビリテイー、説明責任であると思う。……やはり納税者の目を見る。一般の国民の皆様の痛み、怒り、悲しみを我が事として受け入れられるような人間つくり、……、人事と会計をわかりやすくしていく、なるほどと人が思うような、万人がみてすんなりと理解されるようなものにしていくべきだと思う」と述べた。「その言やよし」であるが、例によって有言不実行である。今や、外務大臣の言葉ほど軽いものはない。外務省は、頭から尻尾まで腐りきっているのである。その彼らの言葉だけを信用しろと言っても無理というものである。


第4 外務省の情報公開サボタージュ
 原告側では、平成13年7月6日、在米大使館外4件の「便宜供与ファイル」の情報公開請求を行った。各在外公館には、本国からの訪問者に対して提供した便宜(空港への送迎、案内、食事の提供その他)の内容を記録した「便宜供与ファイル」が作成され、綴られているのである。
 上記の原告側の請求に対して、被告は同年8月6日付けで情報公開法11条に基づく期限の延期通知をなして、「平成13年9月4日までに可能な部分について開示決定等を行い、残りの部分については、同年10月4日までに開示決定等する予定」としてきた。ところが、その期限になると、「予測し得ない事務の繁忙が生じたこと等により」開示できないとし、「可及的速やかに本件に係る事務処理体制を整備し、開示決定等の新たな期限を通知する」とした書面(10月4日付け「開示決定等に関するお知らせ」)が届いたが、以後、同省情報公開室からは何らの連絡や説明もないままである。
 請求人(高橋利明)は、同年12月になって情報公開室に電話で問合せを行ったが、同窓口では、「申し訳ない。いつ開示できるか、具体的な見通しは立っていない」と言うばかりで、今日(1月19日)まで放置されている。これは明らかに、被告の義務懈怠である。
 被告は、前述のように、外向けには、「必要なことは情報の開示、アカウンタビリテイー、説明責任であると思う」などと述べているが、言行は一致せず国民の権利をないがしろにしているのである。
 「便宜供与ファイル」が開示されるならば、在外公館における個々の便宜供与の内容が明らかになり、その便宜供与に出費が伴っている(例えば、来訪者に対する食事の提供 甲第16号証)とすれば、その経理関係書類の開示・不開示の違法性・適法性の審査が具体的にできることになり、本件訴訟の審理を充実させるはずである。
 外務省が前記「便宜供与ファイル」の開示を理由なく遅延させているのは、本件訴訟への影響を慮ってのことと推測されるが、もし、そうであれば情報公開制度の本旨をわきまえぬ許しがたい違法行為である。その一方で、「在外公館課は、資料を内部焼却している」と報じられており、「証拠隠滅の疑いがある」とも指摘されている(「フライデイ」02.1.4号 甲17号証)状況にある。


第5 再び全面不開示の理由を問う
1 報償費の不適正執行を自認して、なぜなお不開示なのか
 会計検査院の調査によって、本省並びに在外公館において本来の報償費の趣旨にそぐわない経費、すなわち、@国内又は海外で開催される大規模レセプション経費、A酒類購入経費、B本邦関係者が外国訪問した際の車借上げ等の事務経費、C在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費、D文化啓発用の日本画等購入経費などが、報償費から大量に支出されていた事実が動かぬものとなった。
 そして、「外務省が経費を支出する各種行事(外国の賓客やその他要人の招聘、国際会議、レセプション等)の一部において、外務省から取引先に実績を上回る支払」をさせて作ったうら金すなわち「プール金」の存在が本省の全庁で発覚した。この「プール金」の原資の多くは報償費であると推測される。
 そして、こうした外務省の省ぐるみの報償費の不適正執行や公金詐取の犯罪が公になるに至って、外務省も少なくとも見かけの反省を示さざるを得なくなり、幹部職員が「プール金」の弁済を行うと共に、平成14年度の予算要求においては報償費の40%カットをせざるを得ない状況となった。これらの事実は、少なくとも被告が、外務省の従前の報償費が不適正に、あるいは目的外に使用されていたことを自認したことを示すものである。そうであれば、報償費の支出会計書類を不開示とする理由は、どこにも見当たらないはずである。

2 外務省・在外公館の機能は"旅行代理店" 
 本件において被告が、報償費の支出状況に関する行政文書の開示を全面的に拒否する根拠として展開している主張の大前提は、外務省においては報償費は「情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するため使用する経費に充てている」、すなわち報償費はすべて外交事務に関して支出されている、というところにある(答弁書5頁)。
 また一方で被告は「わが国民の福祉を対外的な関係において保護し増進させるため、外務省において一元的に外交関係を処理し」ているとも主張している(準備書面(1)7頁)。
 被告の主張を総合すれば、外交事務はもっぱら外務省において処理され、また外務省の事務は(少なくとも報償費が関わる限り)すべて外交事務である、ということになるが、このような認識は噴飯ものと言うべきドグマである。
 被告の指摘するとおり、「わが国民の福祉を対外的な関係において保護し増進させる」ということを「外交」の客観的機能と把握すべきであることに異存はないが、今日において「外交」の客観的機能を果している行政機関は、何も外務省に限らない。
 むしろ、閣僚を経験した堺屋太一氏の評価によれば、外交の実質的内容(「サブ」すなわちサブジェクト又はサブスタンス)を用意するのは各所轄官庁であって、外務省の主たる機能は「ロジ」すなわちロジスティクスにあるとされている。同氏は「外務省と大使館は大変な手間をかけてくれるが、内容は丁寧な旅行代理店だ」と率直に指摘している(「週刊朝日」誌 平成13年10月5日号。甲第18号証)。
 外務省の事務の大部分が、狭義あるいは客観的な意味の外交とは言えず、また、報償費が、外交のためのロジスティクスとさえも言えない内向的領域においてもふんだんに支出されているとすれば、それは実質的には交際費や食糧費の透明性について、これまで判例によって形成されてきた法理に従って、その公開が義務づけられるべき筋合いのものである。

3 成り立ち得ない「全面不開示」
 在外公館における便宜供与の実態は、現時点ではまだ明らかにはなっていないが、いずれ外務省が便宜供与ファイルを法の定めにのっとり公開を行うならば、それも明らかになる。そして例えば、国会議員や霞ヶ関官庁の職員らが在外公館で受けた便宜(食事の提供など 甲第16号証)が明らかになれば、そのために支出された報償費は、「情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するため使用する経費」にあたらないことが明らかになる。そうなれば、その支出関係書類を不開示とすることの違法は明らかになるはずである。いずれの観点からしても、報償費の「全面不開示」は成り立ち得ない。
 以上の各状況にある今日、被告がなお原告の請求に対して全面不開示を主張する理由を改めて問う次第である。そして、「不開示」に正当な理由があるのならば、個別具体的にその理由を明らかにすべきである。


以上