平成13年(行ウ)第150号 行政文書不開示処分取消請求事件

原 告  特定非営利活動法人情報公開市民センター
被 告  外務大臣

準 備 書 面 (4)

平成14年4月24日
東京地方裁判所民事第2部 御中

被告指定代理人 野 下 智 之
箕 浦 裕 幸
吉 田 尚 弘 
蔵 重 有 紀
高 林 正 浩
鈴 木 敏 郎
小 池    稔
有 吉 孝 史
篠 原    守
吉 原 健 吾
関 口 誠 二

以下、略語は、これまでの例による。

第1 はじめに
第2 報償費の支出に関する会計手続
第3 本件各行政文書の内容等
第4 結論

第1 はじめに
1 本件において採られるべき審理の方式については、既に、被告の平成13年9月21日付け準備書面(1)の第5、平成14年2月1日付け準備書面(3)の第2(15ページ以下)において明らかにしたところである。
 すなわち、行政機関の長が法5条各号に該当する情報が記録されていることを理由として行政文書の不開示決定を行った場合、当該不開示決定の適法性を主張する被告たる行政機関の長においては、その要件事実(抗弁事実)として、@当該行政文書に「情報」が記載されていること、及びA当該「情報」が法5条各号に該当することを主張立証することとなる。もっとも、法5条3号該当性を理由とする場合は、Aについては、当該「情報」を公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるとの判断について被告が裁量権を行使し、そのおそれの存在を認めたことを主張立証すれば足り、原告は、これに対し、再抗弁として、被告の上記判断が、裁量権を逸脱し、又は濫用したと認めるべき根拠たる事実を主張立証することとなることも、既に述べたとおりである。
2 そして、開示請求対象文書に「情報」が記録されていることについては、不開示情報を開示することが禁止されており、当該情報を訴訟において明らかにすることができないことに照らせば、不開示情報該当性を判断し得る程度の、換言すれば、これを公にするといかなる支障が経験則上生ずるおそれがあるかを判断することが可能な程度の「情報」の類型的な性質を明らかにすれば足りるというべきである(前掲被告準備書面(1)第5の5(4))。
3 したがって、被告は、不開示情報の内容を明らかにすることなく、かかる「情報」の類型的な性質を明らかにするという二律背反の要請を達成しなければならないところ、一般に、当該行政文書に関連する事務の流れと行政文書の位置づけ、行政文書の作成、保管の目的、趣旨、行政文書の記載事項とその性格等が明らかされれば、当該行政文書に記録された「情報」の意義、性質が判明する。
 そこで、本件においても、原告の各開示請求に係る各行政文書(以下「本件各行政文書」という。)の趣旨、意義、概要等を明らかにすることによって、本件各行政文書に記録された情報の意義、類型的な性質を明らかにし、あわせて、その意義の理解に資するため、外交事務の特質、外交における情報の重要性等についても再論しておくこととする。
第2 報償費の支出に関する会計手続
 外務省における報償費が予算に計上され、具体的に使用されるまでの平成12年2、3月当時の手続の流れは、次のとおりである。
1 予算の作成
(1)一般に、支出とは国の各般の需要を充たすための現金の支払をいい(財政法2条1項)、歳出とは一会計年度における一切の支出をいう(同条4項)。外務省における報償費についても、かかる意味での支出がされる。
(2)国の予算は、予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務角担行為とされ(同法16条)、内閣総理大臣及び各省大臣は、毎会計年度、その所掌に係る歳入、歳出、維続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の見積に関する書類を作製し、これを大蔵大臣に送付しなければならない.(同法17条2項)。衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官及び会計検査院長も同様の書類を内閣に送付しなければならない(同条1項)。
 一会計年度における報償費も、歳出の一つであるから、毎会計年度の予算のための見積が必要とされるが、報償費は、「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」であるから、その性質上、個別の使途を特定した上で積算することができない性格を有するので、その見積は、他の経費と異なり、そのような積算によらないで行われる。
(3)大蔵大臣は、見積を検討して必要な調整を行い、歳入、歳出等の概算を作製し、閣義の決定を経た(同法18条)上で、その閣義決定に基いて歳入予算明細書を作製し(同法20条)、更に衆議院議長、参議院議長、最高裁判所長官、会計検査院長並びに内閣総理大臣及び各省大臣(以下「各省各庁の長」という。)が作製して送付した予定経費要求書等に基づいて予算を作成し、閣議の決定を経る(同法21条)。
(4)毎会計年度の予算は、常例として前年度の二月中に内閣から国会に提出され、国会の議決を経て予算が成立する(同法27条)。
2 予算の執行(報償費の交付に係る手続)
 国の歳出予算に計上された報償費は、以下の会計手続を経て支出され、取扱責任者に対して交付される。
(1)国の予算が国会の議決を経て成立したときは、内閣は、国会の議決したところに従い、各省各庁の長に対して、その執行の責に任ずべき歳入歳出予算等を配賦する(財政法31条1項)。
 その使用に先立ち、各省各庁の長は、内閣より配賦された予算に基いて、支出担当事務職員ごとに支出の所要額を定め、支払の計画に関する書類を作製して、これを大蔵大臣に送付し、その承認を経なければならない−(財政法34条1項)。
 各省各庁の長は、その所掌する歳出予算に基いて支出しようとするときは、上記の承認された支払計画に定める金額を超えない範囲で、歳出予算の支出を行うこととされている(会計法14条1項)。
(2)各省各庁の長は、その所掌に係る支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為をいう(財政法34条の2第1項)。)及び支出に関する事務を管理するものとされているが(会計法10条)、各省各庁の長がその所掌に係る支出負担行為や支出に関する事務のすべてを自ら処理することは困難であるため、会計法13条1項、24条1項に基づき、各省各庁の長は、当該各省各庁所属の職員に、その所掌に係る支出負担行為に関する事務及び支出に関する事務を委任することができるものとされている。
 外務大臣においては、これらの規定に基づいて、外務省の所掌に属する外務省所管一般会計に係る支出負担行為及び支出に関する事務を大臣官房会計課長(以下「会計課長」という。)に委任しており(「外務省所管会計事務取扱規程」4条、乙第3号証)、会計課長が支出負担行為担当官(各省各庁の長又は委任を受けた職員をいう(同法13条3項)。)、支出官(各省各庁の長又は委任を受けた職員をいう(同法24条4項)。)となっている。
(3)支出負担行為担当官は、支出負担行為の内容を表示する書類を支出官に送付し、当該支出負担行為が当該支出負担行為担当官に対し示達された歳出予算等の金額を超えないことの確認を受け、かつ、当該支出負担行為が支出負担行為に関する帳簿に登記された後でなければ支出負担行為をすることができないが、支出負担行為担当官が支出官を兼ねているときは、その確認は自ら行うこととされている(同法13条の2第1項)。したがって、外務省においては会計課長がこの確認を行う。
 支出負担行為には、およそ国の支出の原因となる行為はすべて含まれる。
 支出負担行為制度は、予算執行を支出の原因となる債務負担とその結果として発生する支出との二段階に明確に区分し、主として支出の原因となる債務負担の段階において厳格な統制を実施し、予算の適正かつ計画的な執行を図るものである(杉村章三郎・財政法199ページ)。しかし、法律又は条約によって直接又は自然発生的に生ずる債務は、性質上その発生の時期において予算の執行として統制することができないので、この段階においては支出負担行為として取り扱わず、歳出予算支出の対象となったときに、擬制的に支出負担行為があったものとして取り扱うものとされている(設楽岩久編著・予算用語の手引242ページ)。
 報償費に関しては、交付決定のときをもって支出負担行為として整理す  る時期とされ、交付を決定しようとするときをもって支出負担行為の確認又は認証を受ける時期とされる(昭和27年大蔵省令第18号支出負担行為等取扱規則14条別表甲号5、乙第4号証)。
 これは、報償費は、その性質から、支出負担行為をするに当たって特に積算の基礎等を表す書類を整えなくてもよく、交付しようとするときに、交付する旨の決定をすれば足りるとされている(牧野治郎編・最新会計法精解219ページ)ことに基づく。
(4)各省各庁の長は、その所掌に属する歳出予算に基いて支出しようとするときは、大蔵大臣から承認を受けた支払計画に定める金額を超えてはならないとともに、支出負担行為の確認を受け、かつ、支出負担行為に関する帳簿に登記されたものでなければ支出することができない(会計法14条1項、2項)。
 各省各庁の長は、その所掌に属する歳出予算に基づいて支出しようとするときは、現金の交付に代え、日本銀行を支払人とする小切手を振り出すか、国庫内の移換のための国庫金振替書を日本銀行に交付する(会計法15条)ほか、電子情報処理組織を使用して歳出金の支出に関する事務を処理することができる(支出に関する事務を電子情報処理組織を使用して処理する場合における予算決算及び会計令等の随時特例に関する政令)。電子情報処理組織を使用する場合においては、歳出金の支出に関する事務のうち支出の決定に基づいて行う小切手の振出し又は国庫金振替書の交付の事務について委任を受ける職員は、大蔵大臣が指定する大蔵省所属の職員とされ、当該職員を「センター支出官」という(同令3条)。
(5)外務省における支出負担行為及び支出も上記(3)、(4)に示したところに従って行われている。そして、外務大臣による委任を受けた会計課長は、外務省の所掌に属する歳出予算について、支出負担行為及び支出に関する事務を行う権限と責任を有しており、外務大臣より示達された支出負担行為計画に示された金額の限度内において(予算決算及び会計令39条1項、39条の2第1項)支出負担行為を行い、外務大臣より示達された支払計画に示された金額の限度内において(同令41条1、2項、42条1項)支出行為を行って、予算執行を行うものである。
 同省における報償費についても、その例に漏れない。すなわち、会計課長は、支出負担行為、支出行為を実行し、現金等を各取扱責任者に対し交付する。この支出官から取扱責任者への資金交付をもって、会計法令上の支出事務は終了する。
 各取扱責任者は、後記のとおりの報償費の使用に係る事務遂行の意思決定に従って、役務提供者等に対して支払を行い、報償費を使用する。
(6)各省各庁の長は、毎会計年度、その所掌に係る歳入及び歳出の決算報告書並びに国の債務に関する計算書を作製し、大蔵大臣に送付し(財政法37条1項)、大蔵大臣は歳入決算明細書及び歳出の決算報告書に基いて、歳入歳出の決算を作成する(同法38条1項)。
 内閣は、歳入歳出決算等を会計検査院に送付し(同法39条)、同院による検査を経る。
 なお、会計検査院の検査を受けるものの計算証明に関しては計算証明規則で定められているが、「特別の事情がある場合には、会計検査院の指定により、又はその承認を経て、この規則の規定と異なる扱いをすることができる。」とされており(計算証明規則11条)、政府として「報償費の具体的な使途を公表していないのは、その公表により行政の円滑な遂行に重大な支障を生ずることとなると判断して」おり、外務省の報償費についても同条に基づきいわゆる簡易証明によることが認められている(「報償費」に関する答弁書、乙第1号証の2)。
 内閣は、会計検査院の検査を経た歳入歳出決算を常例として翌年度開会の常会において国会に提出する(財政法40条1項)。
3 外務省本省における報償費の使用に係る意思決定手続
(1)外務省大臣官房会計課は
 外務省の所掌に係る経費及び収入の予算、決算及び会計並びに会計の監査に関すること
 外務省所管の行政財産及び物品の管理に関すること
 外務省所管の建築物の営繕に関すること(在外公舘課の所掌に属するものを除く。)
 庁内の管理に関すること
 外務省の職員に貸与する宿舎に関すること
 外務省の職員の衛生、医療その他の福利厚生に関すること(在外公館課の所掌に属するものを除く。)
 外務省の職員の能率増進に関すること(在外公館課の所掌に属するものを除く。)
 をつかさどっている(外務省組織令21条)。
(2)そして、外務省本省においては、予算の執行の適正を確保するとともに、事務の適正かつ効率的な遂行を図るため、予算の執行に係る事務に関し、支出負担行為に先立って、あらかじめ事前の決裁をして、そのような事務遂行に関する意思決定を行い、その上で、かかる事務遂行に要した予算の執行を行うこととしており(昭和31年3月29日会計課長発通知「支出負担行為等取扱いに関する件」2(1)イ、乙第5号証の1)、報償費においても同様の手続が執られる。
 具体的には、次のような手続となる。
 a 報償費等の予算の執行を要する事務を行うに当たっては、まず、当該事務を担当する部局(課、室を含む。)において、その要否、必要性を検討の上、上記の支出負担行為に先立つ事前の決裁を得るため、行う事務の内容を踏まえて当該事務に要する予算支出の要否に関する「決裁書」の起案を行う。
 その決裁は、報償費の場合、当該担当部局の局部長以上の取扱責任者を経由し、会計課担当室の検討を経て、会計課長、官房長等(当該事案の重要性等に応じて、事務次官、大臣等が決裁権者となることもある。)の決裁を得る(なお、平成13年7月以降は、「外務省改革要綱」に従って、一定額(10万円)を越える支出を要する案件については、外務副大臣の、更に重要なものについては外務大臣の決裁を受けることとされた。)。
 b 決裁書については、前記「支出角担行為等取扱い.に関する件」2(1)ロにおいて、「特別なものを除き支出負担行為のため決裁書は別添書式によること」とされ、「支出負担行為用決裁書」と題する書式(乙第5号証の2)が定められている。
 「特別なもの」としては、「会計課以外に協議を要するもの、内容を詳述する必要のあるもの、あるいは取扱注意を要するもの等」があるとされている(同ロ(注))。
 報償費に関しては、報償費が「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」であり、予算科目の定義自体からその支出が定まるようなものではなく、具体的な使用にあたって、各事案ごとにその目的や内容を説明し、外務省において報償費を当てている「情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するための経費」に該当することを確認する必要があるから、「支出負担行為用決裁書」中の支出負担行為を必要とする「理由」欄を詳細に記載し、説明する必要が多い。そのため、報償費におけるこの支出負担行為に先立つ事前の決裁については、決裁書に内容を詳述する必要があり、定められた書式によらないことが多い。この場合は、一定の書式が存在するわけではなく、通常の決裁書の例によって作成されるものであるが、その場合においても、「決裁書には債主名、契約金額、支出負担行為の目的、内容、支出年度、予算科目、単価、積算の基礎その他所定の事項を記載すること」との定め(前記「支出負担行為等取扱いに関する件」2(1)ハ)に従うべきことは、いうまでもない。
 ここでいう債主とは、現金の支払先を指し、報償費においては役務提供者等を指す。
 契約金額とは、支出負担行為に係る契約における支払金額であるが、報償費においては契約等という形によらないものもあるから、端的に報償費の使用額を指すこととなる。
 支出負担行為の目的とは、当該支出負担行為を行う目的であるところ、前記のとおり支出とは「国の各般の需要を充たすための現金の支払」を意味するから、結局、それは、当該支出負担行為がいかなる「国の需要」を充たすためのものかということにほかならない。また、支出負担行為の内容とは、当該支出負担行為の詳細な内容であり、「国の需要」を充たすために行う事務、現金支払いの態様ということにほかならない。報償費においては、報償費を使用して行う事務の目的としての「情報収集等の事務」などの具体的な内容、報償費の使用方法、態様等を記載することとなる。
 単価、積算の基礎とは、「契約金額」の適正さを明らかにするものを意味するところ、報償費に関しては契約等によるものに限られないから、広く支払額の適正さを示す事情であり、役務提供者等との交渉、従来の成果等を含むものである。
 c  「決裁書」による決裁(支出負担行為に先立つ事前の決裁)が終わると、一般的には、次に当該支出負担行為の決議が行われるが、報償費においては前述のように交付決定のときをもって支出負担行為として整理する時期とされるから、この時点で直ちには、支出負担行為の決裁は行われない(支出負担行為を行うことの決定を「支出負担行為の決裁」と称する。)。
 「決裁書」による決裁を受けて、当該事務の担当局部課室が、当該事務を遂行する。
 d そして、報償費については、これに係る事務を遂行し、支払の必要が現実化し、その交付を行おうとする時点で、当該事務の担当局部課室において、会計課長に対し支出負担行為及び支出を行うことを依頼する(報償費においては、交付決定のときをもって支出負担行為と整理されること、前述したとおりである。)。その際には、前記「決裁書」の内容に支出を依頼する旨を付記したもの、あるいは前記「決裁書」に支出を依頼する旨の紙面を付加したものを、請求書等関連書類がある場合にはこれも添付して、会計課長に提出する。その場合、通常、理解及び確認の便宜を図り、「決裁書」において意思決定がなされた事務が行われ、その支払いの必要が現実化した旨を簡潔に示すため、付加された紙面に件名、科目、金額、支払先、支払方法、支出事項等が摘記される。
 e 以上を受けて、会計課長が依頼に係る支出負担行為及び支出を実施し、報償費が取扱責任者に交付される。
 f その後、取扱責任者は、「決裁書」による決裁に従って役務提供者等に対して報償費の支払を行う。なお、役務提供者等から、可能な限り領収書を徴収する。
(3)上記「決裁書」が、本件開示請求に係る行政文書のうち、外務省大臣官房において「支出された報償費に関する支出証拠、計算証明に関する計算書等支出がわかる書類」として特定されたものである。
4 在外公舘における報償費の使用の意思決定手続
(1)在外公舘における報償費に関しても、上記2に説明した外務省大臣官房会計課長による支出負担行為及び支出が行われることにより、取扱責任者たる在外公館長に対して報償費が交付される。これをもって、会計法令上の支出事務は終了する。
 もちろん、取扱責任者が交付を受けた報償費は、依然として公金であって、当該資金は、報償費の支出目的に従って適正に使用しなければならないから、在外公館に送金された報償費の使用に当たっては、報償費を必要とする事案ごとに取扱責任者たる在外公館長の決裁を経ることとなっており、その決裁に従って役務提供者等に対する報償費の支払が行われる。
 在外公館長の決裁を受けるに当たっては、特に書式が定められているものではなく、適宜の形式によればよいものの、外務省本省における「決裁書」に関する定めに準じ、当該報償費の支払の適正さを、取扱責任者である在外公舘長において判断し得る内容のものであることが要求される。かかる観点から、予算一般について、支払先、支払金額、目的、内容、支出年度、科目、単価、積算の基礎等が記載される。これを報償費についていえば、おおむね、報償費の使用目的、報償費を使用する内容、役務提供者等の氏名、支出科目、金額などを記載することとなる。上記のとおり決裁書の様式は定められておらず、かつ、各在外公舘により、また、案件により様々な様式が用いられている。
 報償費の使用に関する「決裁書」は、当該報償費の使用を要する事務を担当する担当者、担当部署において作成し、会計担当者等を経由して、取扱責任者の決裁を受ける。
 上記「決裁書」による決裁の内容に従って当該事務を遂行し、支払の必要性が現実化した時点で取扱責任者から役務提供者等に報償費の支払を行う。
 なお、役務提供者等からは、可能な限り、領収書を徴収する。それを受けて、報償費の使用に関する「決裁書」による決裁に基づいて報償費の支払が実際に行われたことを簡潔に示すため、当該領収書を報償費の使用日、報償費の使用目的、取扱者、報償費の使用内容等を記載した書面に貼付する。
(2)上記「決裁書」が、本件開示請求に係る行政文書のうち、「在米日本大使館」「在仏日本国大使舘」「在中国日本国大使館」「在フイリッピン日本大使館」において「支出された報償費に関する支出証拠、計算証明に関する計算書等一切」として特定されたものである。
5 小括
 以上のとおり、本件各行政文書は「外務省大臣官房」、「在米日本国大使館」「在仏日本国大使館」「在中国日本国大使館」、「在フイリッピン日本大使館」それぞれにおいての個々の報償費の使用に係る事務の遂行に関する意思決定を行った決裁文書である。
第3 本件各行政文書の内容等
1 本件各行政文書の趣旨
 本件各行政文書については、第2に述べたとおり、外務省大臣官房における文書及び在外公舘における文書のいずれもが報償費の具体的な使用案件ごとに作成された文書であり、かつ、当該報償費の使用の意思決定を行うための作成されたものであって、当該報償費を支払う役務提供者等の氏名、支払金額、報償費に係る事務の目的、内容、支出年度、科目、単価、積算の基礎等が記載され、報償費の具体的使途、使用目的、報償費に係る事務の内容等を明らかにする文書となっているものである。
2 本件各行政文書の特定及び通数
(1)本件開示請求の対象文書は、外務省大臣官房及び在米、在仏、在中、在比大使館分の合計1069件である。
(2)被告は、今回、本件各行政文書について、外務省大臣官房、在米大使館、在仏大使額、在中大使碑、在比日本国大使館の区別をしなかったのはもちろんのこと、その他いかなる観点による整序も施さないで、無作為に1番から1069番までの通し番号を付すことにより、本件各行政文書を客観的かつ具体的に特定した(添付別表参席)。このような特定の仕方を採ったのは、次の理由による。
 外務省における報償費は、情報収集及び諸外国との外交交渉ないしは外交関係を有利に展開するために使用する経費であるから、担当する部局ごと、すなわち外務省大臣官房又は各在外公舘ごとの、報償費の使用の件数、合計額を公にすることにより、外務省大臣官房又は各在外公館ごとの報償費に関する事務の件数の多寡、規模や経費の大小、それらの推移、傾向等が判明する。そうなれば、我が国の行っている情報収集活動や外交工作活動等に関する方針、意図、動向等が察知される結果となり、これらの活動を今後適正に行うことができなくなり、我が国が外交交渉上の不利益を受けたり、他国若しくは国際機関との間において、信頼関係が損なわれたり、外交儀礼上の問題が生じたり、これらとの国際交渉上の不利益を被ったりするおそれを生じることとなる。したがって、本件各行政文書の外務省大臣官房、在外公館ごとの文書数を示すことはできないが、本訴は、外務省大臣官房及び在外公館4舘における報償費の使用に関するものであることにかんがみ、それぞれの別を明らかにせず、かつ、その他の人為的な整序も加えない限り、合計の文書数を明らかにすることは上記の支障を生じさせないと判断し、外務省大臣官房、各在外公館の別を明らかにせず、かつ各個の行政文書に任意にアトランダムな番号を割り当てることにより、本件各行政文書を特定した。
3 本件各行政文書に記録されている情報
 上記のとおり、本件各行政文書は、報償費の支出ごとに対応するものであり、報償費に係る事務の遂行上の必要性を明示して、報償費の使用に係る意思決定を行う目的で作成され、そのようにして報償費を使用したとして保管する文書である。したがって、本件各行政文書は、報償費の使用に関する情報が記録されているものである。 
 そして、前記第2において説明したとおり、本件各行政文書には、報償費の支出の目的、具体的内容、支払先、金額、支出年度、予算科目、単価、積算の基礎等が記載されており、これらが一体となって、当該報償費の使用に関する一個の情報を構成している。
 すなわち、本件各行政文書には、文書ごとに、そこに記載された報償費の支出について、「ある目的で、ある事務を遂行するために必要なため、報償費という予算科目からある金額を支出し、ある役務提供者等に支払った。」という一個の情報が記録されていることになる。
4 本件各行政文書に記録されている情報の性格
(1)被告は、本件各行政文書に記録されている情報を検討した結果、これらの情報は、公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがある情報に当たると認められ、かつ、これらの情報が、外務省が行う外交事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、外交事務の性質上、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報に該当すると判断した。
 そこで、被告は、本件各行政文書につき、本件各不開示決定を行ったものである。
(2)原告は、これらの情報が外形的な事実に関するものにすぎないと主張している。しかしながら、本件各行政文書に記録されている支出の目的や具体的内容を見れば、我が国の行っている情報収集活動等の意図、内容が容易に判明することになるのはいうまでもない。また、支払先、金額、支払日等を分析することによっても、我が国の行っているこれらの活動の手法、動向、傾向、重点の置き方、方針等を察知することが可能となるのである。さらには、役務提供者等が明らかになれば、役務提供者等への不利益が及ぶおそれが生じ、これらの活動に支障が生じるのである。これを、単に外形的な事実に関する情報にすぎないと即断するのは、主権国家の国益が錯綜する今日の国際社会の現実から目を背ける、非現実的な見方というほかない。
(3)外交事務の特質については、被告の準備書面(1)第6の2(36ページないし41ページ)において詳述したとおりである。そこで述べたように、国の外交活動に関する情報を公にすることによる支障の有無は、他の国々や機関との外交関係において問題となるものである。そして、国際社会を構成する国家や機関、具体的にはそれぞれにおいて外交交渉に当たる外交官、行政官その他の者が、他国の情報収集活動、外交工作活動等に対し、職業的に、注意を払い、絶えず目を光らせて、自国の権益を守ろうとしていることはいうまでもない。したがって、上記支障の有無は、一般通常人の有する情報収集能力及び分析能力を前提として判断すれば足りるものではなく、国益を賭して活動する鋭敏な職業的組織の持つ高度な情報収集能力及び分析能力を前提として、いかなる秘密、事実が明らかとなり、支障が生じるかを判断しなければならない。
 以下、このような見地に立った判断に資するため、外交における情報の重要性等について、簡潔に補足しておくこととする。
(ア)第1に、情報収集活動及び外交工作活動は、いずれも秘匿性と表裏一体の関係にある「情報源の秘匿」、「対象者の秘匿」は、情報牧集活動及び外交工作活動に従事する上で、もっとも基本となる常識である。一たび、情報源、対象者が明らかになった場合には、同人らに対する何らかの措置が他から講じられたり、同人らの協力が得られなくなったり、あるいは、当方の活動に対する制約が生じるなどの結果、以後、情報を収集できなくなったり、外交工作が出来なくなるなど、取返しようもない事態が生じるおそれがある(注1)(注2)。
(イ)第2に、必要な情報を的確に入手し、あるいは、外交工作等に必要な協力を得るためには、個々に授受された情報の内容や接受の事実を秘匿するだけでなく、相手方との信頼関係を確立すること、そしてこれを保持することが何よりも重要である(注3)。相手方に「この人に情報を提供しても自らが不利益を受けるおそれが万一にもない。」、「この人に協力しても、この人からそのことが判明して不利益を受けるおそれは万一にもない。」との信頼を抱かせない限り、十分な情報提供、協力を受けられることがあり得ないのは、人の本性であるといってもよい。日本のみならず、諸外国の外交官も同様の言をしていることは、その証左であろう(注4)。
 密接な人間関係を構築し、相手方からの高い信頼と信用を得て、情報収集活動・外交工作活動を行い得る能力を維持するためには、情報管理が不可欠である。一般に、人は誰しも、自分が情報提供者であることを知られるのを嫌うし、他からの働きかけを受けて協力していると思われることを欲しない。当該情報収集、外交工作の意義、重要性が高くなるほど、機密性、秘密性にセンシティヴになるという側面もある。そして、当然のことながら、我が国の外交官に対し情報提供や協力をする者は、自己のことについてでなくても、他の同様の立場にある者、すなわち、我が国に対する他の情報提供者等に関する事実が公にされることがあれば、自己に関しても同様のことが公にされるかもしれないとの不安を覚えるから、秘密性の保持についての要望が高い情報提供者等が公にされたくないと望むことは、すべての情報提供者等について秘密性を保持しなければ、情報提供者等からの信頼を失い、情報提供並びに外交交渉及び国際会議での我が国への協力を得られなくなり、ことによっては以後の一切の接触すら断たれることにもなりかねないのである。このような事態が、我が国の情報収集と外交的な働きかけに重大な支障を及ぼし、我が国に外交上の不利益をもたらすことは明らかであろう(注5)。
(ウ)第3に、個々の交渉等の相手方や情報提供者等との関係にとどまらず、外交関係並びに外交交渉の相手国及び機関との信頼関係を維持していく上でも、以上のような活動が秘匿性を必要とすることは変わりがない。
(エ)しかしながら、秘匿性を保つのは容易なことではない。些細な情報が知られることにより、自らの手の内等秘匿しようとしたことが明らかとなってしまう事態が生じることは、容易に予想される。それのみでは些細なことのように見えても、既に知られている他の事実と組み合わせることによって、秘匿すべきことまで判明してしまうことはよく生じることである。歴史上も、極めて重大かつ機密にわたる会合があえてそれらしくなく、一見無関係にみえる場所で開かれることもあり(注6)、また、一見些細な情報であっても、受手にとっては重要な意味を持つものがあり、それにより当事者が夢想だにしないような秘密が判明するというような事例は、しばしば生じている(注7)。
(オ)以上のように、各国は、自国の意図、戦略、戦術、外交上の手段等に係る情報を厳格に管理し、不用意に他国に知られることがないようにして外交交渉を行うものであり、他方、他国のこのような情報については、できるだけこれを収集して優位に立とうとするのである(注8)(注9)。国際社会のこのような現実を無視して、外交事務に関する情報の不開示情報該当性を判断することはできない。
5 本件各行政文書に記録されている情報の不開示情報該当性
(1)審査基準との関係
 外務省は、行政手続法12条の規定に基づき、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく開示決定等に関する審査基準」(以下「審査基準」という。)を定め、公開している。本件各行政文書に記録されている情報の不開示情報該当性は、既に主張したとおりであるが、これを上記審査基準に即して再論すれば、以下のとおりである。
(ア)そもそも、審査基準に記載された不開示とすべき情報の例又は類型例は、開示・不開示の決定に当たり不開示情報に該当する可能性が高いことから慎重に判断する必要があると考えられるものを例示したにすぎず、審査基準で例示した例または類型例に該当しないことによって、記載された類型例に該当しないことをもって直ちにその不開示情報該当性が否定されるものではない(このことは、審査基準においても「第三号に係る情報の開示不開示に係る決定は、特定時点の状況に応じ変わり得るものであり、外形的な類型などを指定する等により、不開示とすべき情報をあらかじめ網羅的に列挙しておくことは適当でない。」と記載しているとおりである。)。
 もっとも、本件各行政文書に記録された情報は、以下のとおり、法5条3号、6号に該当するものとして例示した例又は類型例に該当する。
(イ)法5条3号に関し、審査基準は、そのW、の3.において「第三号に定める不開示情報に該当する可能性の高い情報の例又は類型例」として(1)から(4)の類型の下に例を挙げている。本件各行政文書に記録されている情報については、この中でいえば、(2)(ト)「その他他国等との信頼関係が損なわれるおそれのある情報」(3)(ニ)「過去又は現在の交渉に関して執られた措置や対処方針」(3)(ホ)「その他他国等との交渉上不利益を被るおそれのある情報」(4)(イ)外交政策の企画、立案及び実施に付随する情報の収集、伝達、分析等の具体的活動、能力(システム、施設、設備及びそれらの運用、管理等)手段、情報源等に関する情報」、(4)(ロ)「秘密保全のための具体的活動(警備を含む。)、能力(システム、施設、設備それらの運用、管理等)、手段、計画等に関する情報」などに該当すると判断されるものである。
(ウ)また、法5条6号については、審査基準は、そのZ.の3.において「第六号に定める不開示情報に該当する可能性が高い情報の例又は類型例」として(1)から(6)までを列挙している。報償費に係る個別具体的な情報が明らかになれば、情報収集や外交工作などの事務の性質上、報償費をもって実施しているこれら事務の適正な遂行に支障が生じることはこれまでも準備書面等により主張してきたところである。したがって、報償費に関連する今回の情報については、(3)「公にすることにより、国の機関又は地方企共団体が行う調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれのある情報」の中の「調査の個別具体的な対象に関する情報であって、公にすることにより、正確な事実の把握や事後の協力が困難となるおそれのあるもの(審査基準にも「例えば、他国等に関する情勢分析、他国等要人に関する分析等が該当する」と注記されている。)」(6)「公にすることにより、その他事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」などに該当すると判断されるものである。
(2)本件各行政文書に記録されている情報の類型 
 既に再三説明してきたとおり、外務省の報償費は、次のような事務の遂行、目的の達成のため、その時々の状況に応じて最も相応しいと認められる方法によって機動的な使用がされている。
(ア)第一に、外交を的確に実施していくための情報の収集に使用されている。重要な情報の収集は信頼関係に裏打ちされた人脈が基礎となり、それを築き維持していくためには不断の努力が必要となる(被告準備書面(1)第6の3(2)、ア)。
(イ)第二に、外国との外交交渉や日本にとっての外交関係を円滑かつ有利に展開するために使用されている(被告準備書面(1)第6の3、(2)、イ)。
(ウ)第三に、国際会議での議論を我が国にとって有利に進めるため、会議の場や諸外国においてさまざまな関係者に対し働きかけを行うといった努力も当然必要である(被告準備書面(1)第6の3(2)ウ)。
 外務省の報償費の使用される事務は、大まかにいえば、このような類別をすることが可能であると考えられる。
 そうであるとすると、本件各行政文書についても、そこに記録された報償費の支出に係る事務の大まかな類別に対応して、3類型に分類することができることとなる。そこで、本件各行政文書1089通について、各行政文書ごとに、そこに記録された報償費の支出に係る事務め性質を大まかに類別して、その類型を示すこととし、それを別表として添付することとした。なお、本件各行政文書のうちには、そこに記録された報償費の支出に係る事務の性質が、上記の3分類のうちいずれか一つだけでなく、複数の類型に該当するものも存在するが、その場合にも、具体的内容を勘案して、そのうち最も主たるものと思われるものを選んで、上記3類型のいずれか一つに分類することとした。
第4 結論
 以上述べたことから明らかなとおり、本件各行政文書に記録されている情報は、これを公にすることにより、我が国の行う情報収集活動、外交工作活動等を行っていること並びにその時期、場所、目的、内容等を明らかにし、我が国の行う情報収集活動、外交工作活動等の手の内、我が国が採っている外交上の政策、方針等をあらわとすることとなったり、あるいは、情報収集活動、外交工作活動等の対象とされる情報提供者等をあらわとすることとなる。したがって、これを公にすると、それらの活動に関連する他国政府、国際機関との外交儀礼、国際関係上の問題を生じさせ、それらとの信頼関係を損なったり又は他国政府等に我が国の行う情報収集活動、外交工作活動等、外交上の政策、方針等を把握され、それらに対する対策を講じられ、あるいは役務提供者等との信頼関係を損う結果、役務提供者等から協力を受けることができなくなることなどによって、以後の情報収集活動、外交工作活動等が適切に遂行できなくなる結果、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると認めた被告の判断が、法5条3号に定められた行政機関の長の裁量を逸脱、濫用したものといえないことは明らかである。
 また、本件各行政文書に記録された情報が公になることにより、情報提供者等の相手方の立湯に影響を与え、又はその利益を害する結果を招き、信頼関係を損ね、あるいは、我が国が行う情報収集活動や外交工作活動等の手の 内、方針等が明らかになる結果となって、その後の情報入手や外交工作等が困難となり、外交に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることもまた明らかというべきである。
 したがって、本件不開示決定は適法であり、原告の請求は棄却されるべきものである。
以下(注)は省略