平成13年(行ウ)第150号 行政文書不開示処分取消請求事件
原 告  非特定営利法人情報公開市民センター
被 告  外務大臣  川  口  順  子

準  備  書  面(7)

平成16年1月19日

東京地方裁判所民事第2部A2係 御中

原告訴訟代理人弁護士 高  橋   利  明
大  川   隆  司
羽  倉 佐 知 子
清  水      勉
佃      克  彦
土  橋      実
関  口   正  人
谷  合   周  三

目  次
第1 本準備書面の主題
第2 被告主張の点検
第3 「在外公館交流諸費」の支出決裁文書の概要と開示状況
第4 報償費情報不開示の理由と交流諸費の開示との対比
第5 報償費支出決裁文書の全面不開示の違法性は明らか

アメリカ大使館 平成10年度第4四半期 飲食支出「交流諸費」分明細表


第1 本準備書面の主題
 被告は、「第8準備書面」において、外交活動は極めて多様な分野にわたっているとし、「国益を十全に確保するためには、公に行なう交渉・事業活動のほか、補完的に公にしないことを前提とする活動を実施する必要がある」(6頁)として、報償費を使用した外交・情報収集活動を公にすることは以後の情報収集活動や外交工作活動に支障を生じ、国益に反することになるとし、原告請求の行政文書を開示することはできないと主張している。
 原告も、上記に引用した範囲での被告の主張を否定するつもりはない。しかし、これまでに主張、立証してきたように、「補完的に公にしないことを前提とする活動」のすべてが秘密にするべき活動となるはずもなく、また、外務省が行なっている報償費によってまかなわれている活動すべてが開示すると国益に反することになるはずもないと主張しているところである。
 この度、原告は、アメリカ、イギリス、フランス、中国、フィリッピンの5カ国にある日本大使館の「在外公館交流諸費」という科目の支払証拠書類の開示を受けて入手した(平成13年10月24日請求分)。この「交流諸費」の詳細は後述するが、同費用は在外公館における情報収集や外交工作活動をまかなう費用として支出されている。この経費に基づく諸活動は、かなりの程度、開示されている。本準備書面は、それとの対比でも、「報償費」の使途情報の全面不開示は理由なく、不当であることを述べるものである。

第2 被告主張の点検
 原告は、「在外公館交流諸費」を用いた在外公館の活動は、被告のいう「補完的に公にしないことを前提とする活動」に当たると理解しているが、これを確認するために、被告第8準備書面における、「公に行なう活動」と「補完的に公にしないことを前提とする活動」の定義を点検しておくこととする。

1 「公に行なう活動」
 被告は、「公に行なう活動における意見交換等の内容は、政府や組織の公の方針に沿ったものであることが必要となるし、それから大きく逸脱することはないという制約がある」として、「公に行なう活動」を次のように説明している。
 「公に行なう会合等の活動における出席者の発言・活動の内容は、基本的に責任を伴うものとして取り扱われるし、その場における政府や組織の間の意思疎通は確実なものとされなければならない。そのため、……その記録が、双方の外務省における関係部署や在外公館に対し電信・電報等の手段を通じて回覧されるなどして、比較的広範に情報が共有されることになる。また、公に行なう会合においてどのような内容が話し合われたかということが外部の関心となることは、当然予想されることであって、場合によっては、その内容を公表しないまでも、後刻一定の対外的説明を他の外交団や記者などにブリーフする必要性を考えなければならない」(8頁)と説明している。

2 「公にしないことを前提とした外交活動」
 被告は、これについて次のように説明している。
「ある協議を行なうに際しては、自国あるいは相手国、関連諸国のおかれた現在の状況、今後それがどこまで変化し得るのか、我が国の方針が相手国の政府、有識者、世論との関係や自国の各層との関係でどのように評価されているのか等の情報を収集することは極めて重要であるし、また、相手国政府の政策形成や世論形成に当たる要人に対し、我が国の考え方への支持や理解をあらかじめ求めておくことが、その後の交渉に当たって極めて効果的となる場合がある。……そのため、公にしないことを前提とする外交活動を通じて、公の活動としてあるべき形態や内容から離れた、より自由度の高い環境の下で、相手国政府や組織等の背景事情等を把握したり、我が国の外交政策に理解や協力を得るといった活動を行なうことが期待されるのである。実際にその果たしている役割は軽視することができない。」(11頁)

3 「在外公館交流諸費」は「補完的に公にしない……外交活動」
 「在外公館交流諸費」の詳細は後述するところであるが、「報償費」の使途とほぼ同様であると理解されるものである。「公に行なう活動」が上記(1)のようなものであるとすれば、「在外公館交流諸費」に基づいて行なわれている在外公館職員らの情報収集や外交工作活動は、「公に行なう活動」でないことは明らかである。その一方、「在外公館交流諸費」が、在外公館職員の情報収集活動や外交工作活動のための経費であることは明らかである。そうであれば、「在外公館交流諸費」は、被告のいうところの「補完的に公にしないことを前提とした外交活動」をまかなう費用であるということになろう。(被告準備書面では、「補完的に公にしないことを前提とした活動」と「公にしないことを前提とした活動」とを、ほぼ同じものとして使用しているので、以下には「公にしないことを前提とした活動」として統一して用いる)。
 しかし、「公にしないことを前提とした外交活動」というのは、正規な機関の公式な会談や交渉ではないということであり、外部公表を予定したものではないというものであって、情報公開の対象とはなりえないとか、すべきではないというものではないことは明らかである。

第3 「在外公館交流諸費」の支出決裁文書の概要と開示状況
1 原告が開示を受けた文書
(1)原告が外務省から開示を受けた文書は、アメリカ、イギリス、フランス、中国、フィリッピン5カ国の日本大使館で、平成11年1月から同12年3月までに支出された「在外公館交流諸費」の支出証拠書類(以下「支出決裁文書」という)である。
(2)本準備書面では、開示を受けた文書のうち、上記各大使館の平成11年1月1日から3月末までに支出された「在外公館交流諸費」の支出に関し、「支出決裁文書」の主要事項を整理して一覧表を作成し、これを本準備書面の末尾に添付した(表中の「**」印はマスキングされた部分を示し、「○」印は表記が不鮮明で判読できない部分を示す。また「設宴決裁書」が欠けているものがあったので、その場合には括弧書きで表示した)。
(3)本準備書面では、在アメリカ日本大使館での文書作成や支出状況について点検を行なうこととする(各大使館によって、文書の名称や整理が若干異なっているが、基本的には同じである)。

2 支出決裁文書の記載事項等
(1)「在外公館交流諸費」の定義は原告には定かではないが、開示された文書に示されている一連の支出事実と会合目的、会談の当事者等の記載内容を観察すると、被告が第8準備書面で主張しているところの、「公にしないことを前提にした外交活動」に相当している。すなわち、「公の活動としてあるべき形態や内容から離れた、より自由度の高い環境の下で、相手国政府や組織等の背景事情等を把握したり、我が国の外交政策に理解や協力を得るといった活動」であると見える。
(2)原告が入手した文書は、支出1件ごとにA4版2通(2枚)の文書である。1通は@「設宴決裁書」と題する文書であり、他の1通は、書面の上部にA「支払決議」と題された書面で、その「支払決議」の用紙を台紙として、その上にB「立替金請求・領収書」とレストラン等が発行したと解されるC「領収書」を貼付した書面である。
@「設宴決裁書」は、設宴に先立って決裁者の承認を受ける手続書類と解されるが、その文書には、起案者の氏名と所属部署、決裁の責任者である総務公使らの承認欄が設けられており、起案日と決裁日の欄がある。そして、設宴の概要を示す項目として、「設宴の目的」「日時・場所」「出席者(主人・客側・館側に区分)」などの記入欄が存在し、その他「費用概算」「小切手支払先」などの記入欄が存在する(末尾に「証番号2」と「証番号51」の2例の開示文書を添付した)。
(3)台紙となっているA「支払決議」には、支払決議がなされた日付欄、「資金前渡官吏」の記載欄、支払年月日、「使用目的」、費目(「在外公館交流諸費」など)の記載、そして「証番号」欄などがある。そして、この支払決議の台紙には、B「立替金請求・領収書」とCレストラン等の「領収書」が貼付されている。「証番号」というのは支出ごとに連番が振られており、四半期ごとに「1」からの通し番号で整理しているもののようである。
(4)Bの「立替金請求・領収書」は、設宴の「主人」たる館員がレストラン等へ行なった立替払いの金員の精算を行なったことを示す文書であり、請求と受領が表示されているものである。Cの支払先が発行した領収書は通常の形態のものであり、レストランの店名、住所、領収金額等が表記されている。
(5)以上に説明を加えたように、受領した2通の文書の各記載事項と貼付された「立替金請求・領収書」と支払先の「領収書」で表わされる事項は、被告が「第7準備書面」に添付している報償費の支出決裁文書等の「通番」「部署」「文書作成者」「外形的事実」として説明されている記載欄・記載事項とほぼ同じだということになる。

3 開示された情報、その事項のあらまし
 以下においては、原告が開示を受けた在アメリカ大使館の「在外公館交流諸費」の支出決裁文書(平成10年度第4四半期)について分析を行なうこととする。
 平成10年度第4四半期(平成11年1月1日から3月末日)に支出されている「設宴」の件数は164件であった。平成10年秋の懇談等でも、翌年の2月、3月の請求、精算となっている例も存在している。
 原告に開示された「設宴決裁書」のあらましの開示状況を次に述べる。
(1)「起案者」の「所属」(「経済」とか「政務」など。次項で説明)はすべて開示されている。起案者氏名は、一等書記官以上であれば全部開示されている。
(2)設宴の「目的」については、おおむね開示されており、一部マスキングされていることがある。
(3)主人側あるいは館側の出席者は、前述の所属、そして肩書(官職)は開示されており、氏名は二等書記官以下の場合はマスキングが施されているが、一等書記官以上の役職者であれば、そのまま開示されていた(「立替金請求・領収書」の場合も、作成者の個人氏名の開示・不開示の基準は同様となっている)。
(4)「客側」出席者については、その者の「所属」(勤務先等)、「肩書」(地位、職業等)は、おおむね開示されているが、個人氏名は、多くの場合、マスキングがなされていた(全面開示もある)。したがって、たとえば、国務省に勤務の誰かとの懇談であるとの情報は開示されている(全部マスキングの場合もある)。
(5)「設宴決裁書」の決裁欄は、独特のサインでなされているので、決裁者の氏名等は判読できない状態である。

4 意見交換の主なテーマについて
(1)「設宴決裁書」の起案は、多くの場合、設宴の「主人」となる懇談等の主催者が担当している。その者の部下が同席するような場合には、その部下が起案することもあると見受けられるが(「証番号155」 主人は斉藤大使、起案者は藤崎公使)、ほとんどの場合は設宴者が起案者となっている。
(2)起案者の「所属」でみると、同大使館には、経済、議会、政務、広文、儀典、財務、科学、総務、防衛の9部署が存在しているように認められる(他にあるかも知れない)。
起案者の所属別で設宴の件数を見ると、「経済」所属の館員が開設した設宴が多い。
(3)前述のように、設宴の「目的」欄の記載は、おおむね開示されている。そして、懇談は「日米貿易問題」とか「日米経済関係」といったテーマが目立つ。日米貿易摩擦の特定品目となっていた「コメ」(証番号73)や「板ガラス」(同64)についての意見交換が持たれ、また、テーマは定かではないが、農務省の担当者から情報収集をするという懇談(同51)も持たれている。
(4)このように、「目的」の一部がマスキングされていたり、客側の氏名の多くが消されているので、理解出来ない部分も存在するが、在外公館がどのようなテーマに関心を持って情報収集や懇談を行なっているのかはうかがい知ることができる。もとより、会食や設宴の伴わない活動があるはずであり、「交流諸費」に現れている在外公館の活動が、当該在外公館の活動のすべてと見ることは相当ではなかろうが、ともかく、在外公館の外形的な活動の一端とその傾向を知る資料となっていることは事実である。

5 在米大使館の各分野の担当者
 「交流諸費」の設宴決裁書等の記載から、大使館員の各分野の担当者の所属、肩書(官職など)と氏名を知ることができる。すべての担当者が表示されているものではないが、次の館員の所属、官職と氏名は確認できた。
(1)「経済」部署
 重家俊範公使、田中伸男公使、小林秀明次席公使、鈴木敏郎参事官、高橋礼一郎参事官、坂井真樹参事官、西川正郎参事官、土屋知省参事官、岡田誠司一等書記官、貞森恵祐一等書記官、植野篤志一等書記官、山野内勘二一等書記官、小沢仁一等書記官
(2)「政務」部署
 小林秀明次席公使、藤崎一郎公使、栗生俊一参事官、堀之内秀久参事官、宮本雅行一等書記官、植野篤志一等書記官、道井緑一郎一等書記官、植野篤志一等書記官
(3)「議会」部署
 奥田紀宏公使
(4)その他広文、儀典、財務、科学、総務、防衛
これらの六分野の担当者も明らかにできるが、これらについては割愛する。

6 「起案日・起案者」氏名、支払手続
 起案日と起案者氏名、起案者の所属は、ほぼ確実に記載されている。決裁者の氏名は独特のサインでなされていて判読ができない(開示はされている)。決裁日は、すべて空白である。
これらの記載事項は、事務処理が然るべき手続を履践していることを示す意味で重要であろうが、秘密にしておかなければならない情報ではない。添付した「一覧表」には「起案日」は割愛したが、設宴の2〜3日か、数日前というものが多い。

7 予定金額、支払金額、支払先
 「費用概算」額は、記入されている。設宴決裁書であるから、支払先はレストラン等であり、決裁書には、設宴予定の「日時場所」として記載されている。「費用概算」額は、支払先が発行している領収書の金額におおむね合致している。
 設宴の日時場所、費用概算、そして、支払先の「領収書」の領収金額はすべて開示されている(マスキングはない)。「立替金請求・領収書」の作成者の氏名の開示も、一等書記官以上であれば開示されている。

8 部署別の設宴件数
 起案者の所属部署が9つに分かれていることは前述したとおりである。平成10年度第4四半期の設宴回数を所属部署別で区分すると、経済(66件)、政務(39件)、議会(16件)などの順となる。

第4 報償費情報不開示の理由と交流諸費の開示との対比
1 被告のいう「報償費」使途情報不開示の理由
 被告は、「情報収集や外交工作活動は、その時々の国際情勢を踏まえ、第2で述べた諸事情や個別の信頼関係にかんがみ、現場において公にしないことが適当と判断されて展開されているものである。したがって、そのような活動のための経費支出も、関係する情報の秘密保全を十分に確保するものでなければならない。個別の関係の様々な情報が公になるとすれば、情報提供者や協力者の立場が損なわれたり、対策が講じられる等の支障が生ずるおそれがある」(被告第8準備書面18頁)として、一切を不開示とした処分を正当だとしている。
 しかし、「報償費」と同じく、「補完的に公にしないことを前提とする活動」であり、情報収集や外交工作活動のために支出されている「在外公館交流諸費」の開示状況に照らせば、全面不開示の正当性は存在しない。

2 「文書作成者の氏名」「取扱者名」について
(1)被告のいう報償費支出決裁文書開示に伴う業務支障理由
被告は、「文書作成者の氏名」については、開示すると「その担当事務から、わが国が行なっている情報収集活動、工作活動の方針、意図、動向、その前提とする外交方針等が察知されることになる。」として開示できないとする(被告第7準備書面4頁)。文書の「取扱者名」の開示についても、同様に支障が生ずるとしている(同7頁)。
(2)反論―交流諸費支出決裁文書の開示状況から見て不当
(ア)「在外公館交流諸費」の支出決裁文書の起案者名については原則的に開示されていることは、前述の通りである。この事実に照らせば、被告が主張する理由で支障が生ずることはありえず、被告の主張は理由がない。
(イ)先に説明したとおり、「在外公館交流諸費」の支出決裁文書については、文書の起案者や設宴の「主人」は官職、氏名が原則的に開示されている(一等書記官以上の者)。
原告の分析対象は、「在外公館交流諸費」だけであるが、同大使館に、上述の職員のほかに「報償費」関係だけを専門に取り扱う職員がいるはずもなかろうから、「報償費」についても、先に挙げた職員らがそれぞれ分担している職務の範囲内で「報償費」の執行も行っているに違いなかろう。そうであれば、報償費の支出決裁文書を開示してその担当者名が外部に明らかになったとしても、そのことにより新たな情報の流出が起こるわけではない。
(ウ)さらに付け加えるならば、先に挙げた公使や参事官や一等書記官らが、「交流諸費」だけを取り扱っているのか、「報償費」をも取り扱うのかということは別にしても、彼らが、在アメリカ大使館で、日本国の外交活動を展開し、それなりの情報収集活動に従事していることは事実である。そうした彼らの外形的な職務分担や外観的な職務内容が判明するということは、被告の主張によれば、「その担当事務から、わが国が行なっている情報収集活動、工作活動の方針、意図、動向、その前提とする外交方針等が察知されることになる。」ということになるはずである。しかし、そのような馬鹿げた結果とはならないからこそ、「交流諸費支出決裁文書」の開示が行われているのである。
被告の先の言い分は、どこから見ても理屈に合わないのである。

3 「起案日・決裁日」について
(1)被告のいう報償費支出決裁文書開示に伴う業務支障理由
被告は、支出決裁文書の「起案・決裁日」や「支払手続日」について、それが開示されると、「これによって情報収集活動その他外交工作活動を行なうための意思決定の時期が個別具体的に明らかとなる。そうすると、当該時期における国際情勢を踏まえた分析を加えることによって、我が国がその当時、いかなる外交事案に関して情報収集その他外交工作等が行なったかが推知され、これを分析することが可能となるから、その結果、我が国の情報収集活動その他外交工作活動の方針、意図、動向等、その前提となる外交方針等が察知される危険が極めて高い。」としている(第7準備書面5頁、7頁)。
(2)反論―交流諸費支出決裁文書の開示状況から見て不当
(ア)被告の上記の主張は、外交交渉を行なうには、相手方には何も覚られないようにして行なう能面外交がベストで、「報償費」情報の開示さえしなければ相手方や関係国は日本国の手の内を知る術はない、と言っているに等しい。このような非常識を前提にする言い訳自体、論評の限りではない。
(イ)加えて、「在外公館交流諸費」の開示状況からしても、被告の主張は理由がない。「交流諸費」では、起案日はすべて開示されている。決裁日は在アメリカ大使館では空欄のままであるが、他の大使館では記入されている。繰り返し述べているが、「交流諸費」も情報収集や外交工作活動のために支出されている経費であるが、その設宴決裁が設宴日の何日前に行われているのか、また、支出の何日後に精算されているのかなどは、もともと秘匿する意味のない情報である。「交流諸費」支出決裁文書での「起案日」等の開示がこれを示している。被告は、「交流諸費」の鏡に照らして己の主張を映してみれば、その馬鹿さ加減を知ることが出来るはずである。

4 「支払予定額」「支払額」「支払先」
(1)被告のいう報償費支出決裁文書開示に伴う業務支障理由
被告は、支払予定額や支払額について、それが開示されると、「個別の支出予定金額が明らかになれば、その額の多寡、推移等を通じて、報償費を使用して行なった情報収集その他の外交工作活動について、その方法、意図、方針等を推知することが可能となる。」として開示できないとしている(被告第7準備書面6頁)。
(2)反論―交流諸費支出決裁文書の開示状況から見て不当
 前述の通り、「交流諸費」では、「費用概算」とレストラン等支払先の領収額については、全部開示されている。マスキングはない。「設宴決裁書」の場合には、金員の支払先がすべて飲食業者であるからという面があるであろうが、外務省は、「交流諸費」に関しては、その額の多寡、推移、懇談等の持ち方、懇談等の間隔などを秘匿する意思がないものと認められる。「交流諸費」を用いての情報収集や外交工作活動については、間接情報を開示しても、「情報収集その他の外交工作活動について、その方法、意図、方針等を推知」されることはないとしているか、あるいは、推知されても問題はないと考えているのであろう。
 いずれにせよ、「交流諸費」の使途情報の開示に比しても、「報償費」の使途情報を、上述のような理由で全面不開示とする合理的な理由が認められないことは明らかである。

5 「情報提供者や協力者」の氏名
(1)被告のいう報償費支出決裁文書開示に伴う業務支障理由
 被告は、「報償費の『決裁書』が公開されれば、特定の人物に対する報償費支出の事実が明らかになり、これらの人物が我が国政府に対して情報提供や外交工作等への協力を行なっていたことが明らかとなる。当該情報提供者等の協力は、自己の活動が公にされないことを明示ないしは黙示の前提として行なったものであるから、公開されたことを情報提供者が知ることとなれば、我が国政府に対する信頼は失われ、以後、内々の情報の提供、率直な意見交換、他国政府等に対する働きかけ等の協力に積極的に応じなくなるおそれがある」(被告第8準備書面23頁)とした。
(2)反論―交流諸費支出決裁文書の開示状況から見て不当
(ア)報償費の使途のうちには、情報提供者に情報提供の対価として現金を渡している場合も存在するであろう。また、金銭を支払っていない場合でも、情報源を秘匿しておくべき場合も存在するであろうが、電子情報時代の今日、情報を個人から買う時代ではない(そのような情報は、一般に精度が低いといわれている)。仮にそうした事例が存在するとしても、それはごく一部の事例であり、全面不開示の正当性は存在しない。
(イ)上述の「交流諸費」の開示状況を振り返ると、設宴の目的はほぼ開示されており、相手方の氏名を全部開示している場合もあるし、氏名はマスキングしても、多くの場合、「所属」と「肩書」は開示しているから、相手方の勤務先や身分などを知ることができる。これによって、どのような立場の人物とどのような事柄で懇談や意見交換が行われたのかを国民は知ることができる。最小限、この程度の開示を行い、透明性を確保すべきは当然である。繰り返すが、「交流諸費」でまかなわれている活動も、「報償費」によるものと同様に情報収集や外交工作活動なのである。それでも、懇談や情報収集のテーマと相手方の所属と肩書は開示し、さらには氏名も開示しているのである。「交流諸費」の開示事例は、情報収集や外交工作活動のために接触した相手を全部隠す必要がないことを示している。むしろ、これが平生なのであり、当たり前なのである。このことに照らせば、「報償費」の使途情報全面不開示の理由のないことは明らかであり、「今後の情報収集や外交工作活動への支障」は、被告のご都合主義を示すものである。
(ウ)また、「報償費」の使い道として、日本国の国会議員に対する便宜供与などが、少なからず存在することは従来述べてきたところである。在外公館で議員接待を行なった場合などは、その支出情報を秘匿すべき場合には当たらない(法5条3号、6号非該当)ことは明らかである(原告らは、在外公館の「交際費」や「渡切費」などを情報公開請求して開示を受けてきたが、国会議員に対する便宜供与のための支出事例に遭遇したことがない。このことは、同便宜供与費用が報償費から支出されていることを示す有力な間接事情である。後述する)。

6 「部署別の対象文書の件数等」
(1)被告のいう報償費支出決裁文書開示に伴う業務支障理由
被告は、「部署別の件数が判明することの問題点」として、次のように述べる。
「我が国が是非ともある政策目的を達成したい場合、公となる前に案件の顕在化を防ぎたい場合、我が国が公の外交方針を転換したり、新規外交方針を打ち出そうとしている場合に、正規の外交ルートとは別に関係方面に対する情報収集、外交工作を活発にすることがあり得る。このため、特定の期間における部署ごとの件数を明らかにすると、他の部署や日時におけるこれらの活動を比較分析することにより、我が国の外交方針や意図が逐一推測されるおそれがある」(第8準備書面29頁)とする。
さらに、「例えば、我が国の安全保障に関して重要な局面となっている時期と、通常の時期とで、我が国の韓国、米国、中国、ロシア等における報償費使用がどのような件数で推移しているかを分析することが可能となると、我が国が安全保障問題について、どの国をどの程度重視し、公式チャンネルとは別にどの程度情報収集、働きかけを行ったかという分析が可能となる」(同29〜30頁)とも主張している。
要するに、外務省の部署別でも、また在外公館別であっても、使用件数が明らかになると、「将来生じ得る類似の事態においても比較分析が可能となり、我が国の安全保障上の支障が生じることはいうまでもない。このため部署別毎に報償費の件数を明らかにすることはできない」(同30頁)とするのである。
(2)反論―交流諸費支出決裁文書の開示状況から見て不当
(ア)先に検討したように、在アメリカ大使館の「交流諸費」の平成10年度第4四半期の使用件数は164件であった。交流諸費を使って情報収集や外交工作等を行なった大使館の部署が9つに分かれていることも指摘した。そして、さらにそれら9つの部署別にも使用件数の区分が可能であることも指摘した。
(イ)そして、同時期の在イギリス大使館では38件、フランスのそれは31件、中国は34件、フィリッピンでは9件であった。
(ウ)「在外公館交流諸費」の使途情報を分析すれば、在外公館の部署別の使途件数が明らかになるし、どのようなテーマで、任国のどのような機関と接触し、どの程度の頻度で情報収集を行っているかも明らかになる。要するに、「交流諸費」の使途情報にも、その在外公館の関心をもつ時々のテーマが示されているのである。そこで、日本国の在外公館の「交流諸費」の使途情報を集めれば、日本国のその時々の活動内容や関心テーマを推知することは、ある程度可能となる。これらを分析しても、外交工作に関する直接的な情報が得られるわけではないから、収穫は知れているであろうが、被告が、報償費の件数を開示すると分析が可能となるとする幾つかの情報は入手することは可能となろう。被告が主張する程度の情報の入手は、日本国の公式情報の分析で十分に可能と思われるが、「在外公館交流諸費」の情報分析でも、同時に可能である。
(エ)被告が、「公としない形態や内容の活動件数には、我が国として公にすることが適当ではない外交上の方針が反映されることがあり、これが明らかになると、外国政府や外交当局との関係で、種々の評価、分析、憶測を生み出し、外交事務を行なう上で支障を生ずるおそれがある」(同28頁)というのであれば、日本国は、一切の情報を公表、開示することを止めなければならないはずである。それほど、被告の主張は、馬鹿馬鹿しいのである。
(オ)日本国とどこかの国との二国間関係が、全部同じであるということはあり得ない(小泉総理は、アメリカが最重要国であるとしばしば言明して、イスラム諸国の反感を承知でイラクへの自衛隊派兵を決定した)。そうであれば、「報償費」や「交流諸費」の件数が異なることは当然であり、その件数や金額の多寡が不当な憶測を生んだり、悪感情を引き起こすことなどは想像の外のことである。
(カ)日本国の外交方針の基本は、もともと「アメリカ追従外交」という評価が定着している。「アメリカにノーと言はない」という基本方針の下では、どんな繕いをしてみても、日本国の基本方針は世界に明らかである。「外務省が重視する国とは、米国が関心を持つ国かあるいは日本企業のビジネスマンが多く駐在している国かのいずれかだ」というは、客観的な事実であろうが、こう指摘しているのは、平成15年8月まで、第一線の外交官であった天木直人氏である(講談社刊「さらば外務省」170頁)。日本国の外交の基本方針は、誰はばかることなく広く喧伝されているのであるから、被告が言うような心配は当たらず、無用なのである。

7 報償費の多寡が機密であるとの主張について
(1)被告のいう報償費支出決裁文書開示に伴う業務支障理由
被告は、第8準備書面において、「例えば、イスラエルとエジプトにおける報償費の使用状況が明らかになれば、我が国として、いずれかの国をより重視しているのではないか等といった憶測を惹起する結果となるし、そのような事態となれば、以後、報償費の使用に当たって、報償費の使用実績が外交関係に与え得る様々な影響も勘案して、報償費の使用を判断する必要が生ずるから、報償費を情報収集や外交工作のために機動的に使用するという制度の目的自体に大きな支障が生ずることになる。」と主張している(30頁)。
(2)反論―交流諸費支出決裁文書の開示状況から見て不当
(ア)在アメリカ大使館の「交流諸費」の平成10年第4四半期の使用件数は164件で合計金額は14,200ドルであった。同時期の在イギリス日本大使館のそれは38件で4,192ポンド、フランスのそれは31件で33,257フラン、中国は34件で39,457元、フィリッピンでは9件で114,737ペソであった。
(イ)以上のように、「報償費」と同様に情報収集や外交工作活動の経費として使用されている「在外公館交流諸費」については、予算額、支出先、使用額は秘匿されていず、国別の「在外公館交流諸費」の多寡は容易に判定できる。外務省が「在外公館交流諸費」の使途情報を開示していることは、これらの経費の多寡が判明しても、「いずれかの国をより重視しているのではないか等といった憶測を惹起する結果となる」とは考えていないことの証左である。「在外公館交流諸費」も情報収集や外交工作活動を支える費用として使用されているのであるから、被告の論法からすれば、その経費使用の多寡で、様々な憶測を呼ぶということになるはずであるが、それが「交流諸費」であれば、憶測を呼ばず、「報償費」であると、憶測を呼ぶというのは、支離滅裂というほかはない。
(3)外務省の公表資料から見ても不当な主張
(ア)被告の上記の主張によれば、日本国とある外国との「二国関係」について、日本国が相手国をどのように見ているのかについて、相手国は報償費の使用額の多寡を指標として注目しているということになる。およそ馬鹿げた答弁であり、相手国を侮辱するものでもあろう。
(イ)日本国と相手国との交流状況を示す事実やデータが一切公表されていない状況であるとすれば、在外公館等の交際費や報償費として費消される金額の多寡をたよりにして、二国間の親密度を推し量るという場合も存在するかもしれない。しかし、日本国と世界の諸国との貿易額やその推移、そして要人の往来状況、日本人が相手国に居住する人数、相手国人が日本国に居住する人数などにわたって二国間の関係を示すデータは、外務省のホームページを繰るだけで明らかとなる。
 具体的に述べると、外務省のホームページの「各国・地域情勢」では世界の諸国を紹介している。一般情勢、政治体制・内政、外交・国防、経済、経済協力などの事項が説明されており、日本国との関係では「二国関係」として、@政治関係、A経済関係、B文化関係、C在留邦人数、D在日当該国人数、E要人往来、F二国間条約・取極めなどが紹介されている。こうしたデータにより、日本国がどこの国と通商、貿易が盛んであるか、どこの国とより多くの往来があるか、が一目にして明らかである。
(ウ)また、ODA供与関係では、外務省の「無償資金協力」や「有償資金協力」の画面で、各国別の供与額を知ることができるし、その供与額の順に国を並べることも容易である。このように、日本国とある国との関係を示す諸指標は豊富に存在するのである。かりに報償費の多寡を示すデータが入手できるならば、それも一つの指標であろうが、報償費の多寡よりもはるかに直接的に二国間の関係を示す指標が溢れているのである。「報償費の使用状況が明らかになれば、我が国として、いずれかの国をより重視しているのではないか等といった憶測を惹起する結果となる」などというのは、愚にもつかぬ言い訳である。

第5 報償費支出決裁文書の全面不開示の違法性は明らか
1 「在外公館交流諸費」情報で明らかになった事実
(1)原告が平成15年12月に入手した5カ国の「在外公館交流諸費」の単純な集計と基本的な分析によって、在外5カ国大使館の四半期の「交流諸費」の使途と使用件数、使用金額が判明し、大使館員がどのようなテーマについて、任国のどのような機関の公務員や、どのような分野の民間人らと接触して懇談、情報収集、外交工作活動を行なっていたかの概要を知ることができた。
(2)副次的には、大使館が任地で職務を遂行するについて、いくつかの職務分野に分けて職員を配置していることも分かった。予算や職員の数は限られているから、現場(大使館)では、現場の主たる活動分野に予算や職員を割り付けることは当然であり、四半期とか年単位で分析すれば、各大使館で職員がどの分野に重点配置されているか、そして、時々の関心事が何であったかを推知することができることになる。
(3)また、今回の原告の分析対象国5カ国と日本国とのいわゆる「二国関係」は、相当の違いが存在する。大使館、領事館の規模、人員の配置も相当に異なっているはずである。したがって、「交流諸費」の予算規模もまた異なって当然である。原告の集計でも、アメリカ、イギリス、フランス、中国、フィリッピンの順になった(円貨換算による)。こうした相違があっても、日本国民も相手国政府も、当然のこととして違和感を持つことはあるまい。
(4)以上の事実は、「在外公館交流諸費」についてのものであるが、この経費も任地での情報収集や外交工作活動を支える費用として使われていることは、開示された文書から明白である。在外公館の館員の多くは、そうした本来の活動を行なうために派遣されているはずであるから、「交流諸費」に現れている職員配置や活動傾向は、外務省の活動の傾向や特色をそのまま現しているものと受け取って大過ないはずである。

2 「在外公館交流諸費」の開示は国益に反するというのか
 被告が、本件訴訟で開示できないとしている情報が、「在外公館交流諸費」では現に開示されていること前述のとおりである。
(1)「交流諸費」の設宴決裁書の設宴の目的や客側出席者を点検してみよう。
日本のコメ輸入制限の特例措置についての意見交換がUSTRとの間でもたれている(証番号73)。板ガラス問題が同じくUSTRとの間で意見交換が行なわれている(同64)。そして鉄鋼問題が登場し、鉄鋼などは短い期間に4回の懇談がもたれている(同87,141,144,145)。そして、4回のうち、1回は商務省職員との「意見交換」となっている。これらのテーマは、いずれも、日本とアメリカとの二国間での大きな貿易摩擦の具体的な案件であり、真摯な意見交換であれば、もとより両国にとって有益なことであり、必要なことであって自然なことである。そして、日米貿易問題や通商問題一般については、USTR職員らとの懇談がしばしば行なわれている。また、日米貿易問題ではないが、「米中関係に関する意見交換」(92)、さらにテロや中東問題など幅広い議題について懇談が行なわれている。
(2)日本国から派遣されている大使館員らは、そうした活動を行なうために駐在しているのであり、各国の外交官も、そうした活動をするために任国へ派遣されているのであろう。受入国も各国の外交官がそうした活動を行っていることは十分に承知をしていることである。そうした活動を行った事実自体が相手方に知れると、そのことにより不快感が表明されたり、二国関係自体がうまくいかなくなるというのは、民主主義体制の国では、あり得ない話である。
(3)一方で被告は、「報償費支出決裁文書」を開示すると、「その担当事務から、わが国が行なっている情報収集活動、工作活動の方針、意図、動向、その前提とする外交方針等が察知されることになる。」とか、「公としない形態や内容の活動件数には、我が国として公にすることが適当ではない外交上の方針が反映されることがあり、これが明らかになると、外国政府や外交当局との関係で、種々の評価、分析、憶測を生み出し、外交事務を行なう上で支障を生ずるおそれがある」とか、繰り返し主張をしてきた。こうした被告の論法からすれば、「米中関係に関する意見交換」という懇談が中国政府に知れると、「台湾の独立支援のための情報交換との憶測を呼ぶことになる」ということになるのであろうか。
そして「被告第8準備書面」では、報償費の使途情報を開示できない理由として、次のようにも言っている。すなわち、「具体例を挙げれば、農業交渉が外交案件である時節に、外交ルート(外務省における経済担当部署)を経由せず農業担当省庁との間で会合を設けて意見交換を行なおうとすると、相手国から不快感が表明され、その結果そのような会合そのものの設定が困難な状況となったりすることがあり得る。」とする(この種の主張は、被告が仮想事例を挙げて不開示の理由を説明している部分でも共通する)。
(4)被告のこのような主張を前提にすれば、「在外公館交流諸費」の開示は外部に様々な情報を提供することになるのであるから、今後の情報収集や外交工作活動に支障をきたし、国益に反することになるはずである。しかし、「在外公館交流諸費」の使途情報等が開示されている事実に鑑みれば、被告の前記主張が、如何に場当たり的で虚偽にちかい屁理屈であるかが良く分かる。情報収集や外交工作活動(の支出決裁文書)でも、平生は、一定程度の情報開示をしているのに、「報償費」だけは頑迷に開示を拒んでいるのである。
(5)以上のところからすれば、「報償費」を不開示にしたい理由は、開示された情報から日本国の今後の外交方針や情報収集活動が推知されるからというのではなく、「報償費」そのものの使途を国民に知られること自体を恐れているのだということになる。

3 国会議員に対する便宜供与費用は「報償費」であること
(1)「報償費」が国会議員に対する飲食を伴う便宜供与の原資であることは、外務省の内部文書である「在外公館経理と公館長、出納官吏の心得」および、在タイ大使館が作成した「南東・南西アジア会計担当者官会議議事録」で明らかである(原告第3準備書面24頁)。かって「国会議員工作費」と呼ばれていた国会議員に対する便宜供与費が、看板を書き換えて、現在は「要人外交推進工作費」となっているのである。いずれにせよ、「報償費」から支出されているのである。そして、外務省の公表資料(「便宜供与件数統計表」)でも、飲食の伴う便宜供与が年間で14000件以上も存在していることからしても、国会議員に対する接待件数がかなりの数に達していることは推認に難くない。
(2)以上の事情のほか、今回の原告の請求(平成13年10月)と、これに対する外務省の対応等からしても、国会議員に対する報償費による接待の事実等を公開したくないために、全面不開示に固執している姿が浮かび上がってくる。
 すなわち、原告は平成13年10月の情報公開請求で、@飲食その他の供応に関する決裁書類および支出証拠、そして、A便宜供与に関する決裁書類および支出証拠、の請求をなした。これに対して、被告は、@については「在外公館交流諸費」及び「交際費」のうちの飲食に関する支出決裁文書を開示し、Aについては飲食の伴わない便宜供与(たとえば、公務出張、新聞購入代金など)の支出証拠等を開示してきた。飲食を伴った便宜供与のそれは出てこなかったのである。そして、被告は、原告の請求について、「報償費『決裁書』領収書等を含む」とした上で、飲食の伴う支出のうち、「報償費」から支出されたものは全部不開示との応答をなしてきたのである。
(3)国会議員に対する飲食を伴う便宜供与がかなりの量(数)で存在することは前述のとおりであるところ、原告のこれまでの請求では一向に姿を見せず、今回もその例であった。
 5つの大きな国の日本大使館で、1年余の間に飲食を伴った便宜供与が1件も行われなかったというのはありえないことである。そこで、これからも飲食の伴った便宜供与は、「報償費」から支出されているという推認が成り立つ。
(4)原告は、国会議員が在外公館へ議員としての公務等で立ち寄った際、在外公館が一定の接待を行なうこと自体を違法だと考えているわけではない。しかし、その接待費を被告のいう「報償費」でまかなうのは、目的外の使用であり、それらの支出決裁文書には法5条3号、6号の不開示事由は存在しない、と主張しているのである。この便宜供与費を「報償費」でまかなった上に、それらの支出決裁文書等をすべて国民の目に触れさせないということは、断じて許されないことである。

4 むすび
 被告が「報償費」の使途情報の開示を拒む本当の理由は、「我が国がその当時、いかなる外交事案に関して情報収集その他外交工作等が行なったかが推知され、これを分析することが可能となるから、その結果、我が国の情報収集活動その他外交工作活動の方針、意図、動向等、その前提となる外交方針等が察知される危険が極めて高い。」(第7準備書面5頁、7頁)からではなく、報償費の使途が、あまりにも情報収集や外交工作活動からかけ離れた、あるいは役に立たない活動に使われているからだと考えられる。ほかに合理的な理由を見出すことはできない。
 ここに至って、被告の原告に対する「報償費」支出決裁文書の不開示処分は法5条3号、6号の要件を満たさないことは明らかであり、全面不開示の違法性は明らかである。よって、本件被告の処分は取消されるべきである。

アメリカ大使館 平成10年度第4四半期 飲食支出「交流諸費」分明細表