平成13年(行ウ)第150号行政文書不開示処分取消請求事件
原 告 非特定営利法人情報公開市民センター
被 告 外務大臣 川 口 順 子

原告準備書面(8)

2004(平成16)年6月30日

東京地方裁判所民事第2部A2係  御中
原告訴訟代理人弁護士 高  橋   利  明
大  川   隆  司
羽  倉 佐 知 子
清  水      勉
佃      克  彦
土  橋      実
関  口   正  人
谷  合   周  三
第1 答申に基づいて開示された文書の概要
1 開示された文書は会計検査院の指摘の範囲
(1) 答申に基づいて開示された文書の範囲
 被告の説明では、平成16年2月以降、情報公開審査会によってなされた一連の答申に基づいて、被告はこれまでの全面不開示決定を見直したのだという。
 今回開示された文書の範囲は、被告も説明するように、「報償費に関する支出計算書の証拠書類のうち、@大規模レセプション、A酒類購入経費、B在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費、C文化啓発用の日本画等購入経費、D本邦関係者が外国訪問した際の車の借り上げ等の事務経費の5つの類型にあたるもの」(被告第11準備書面4頁)に限定されているものである。いわゆる「5類型」にあたる支出については、会計検査院が、早くから、報償費からの支出は相当ではないと指摘していたものであったところ、審査会の答申も、これを踏襲したものであり、開示の範囲はこれを一歩も超えないものであった。しかも、開示された文書も、多くは部分開示に止まっている。
(2) 開示・非開示の区分の整理
 今回部分開示された文書について、被告準備書面(第11)に基づいて、開示部分と不開示部分の区分を整理すると、別紙「情報公開審査会の答申に基づく開示・不開示の区分」の通りとなる(被告準備書面の本文中の「不開示部分」の説明と、同準備書面添付の「部分開示目録」の記述とを整理したものである)。
2 開示文書の概要
 今回開示された文書52件の文書(被告の整理による)から明らかになる事柄を、別紙「開示文書の概要」にまとめた。
 以下には、前記「5類型」のうちの原告に開示された「4類型」(原告の請求範囲では前記Bの類型の文書は存在しない、とされている)について、いくつかの例を点検する。
3 在フランス大使館の「大使着任レセプション」の開示内容と問題点
 大使の着任レセプションでは、開催日時と主催の大使の氏名などは開示され、その経費の総額は原則として開示されている。たとえば、在フランス大使館の例で、「大使着任レセプション」(被告による通番734)に係る支出決裁文書をみると次のようである。このケースでは、レセプション開催費用は、2回以上に分けて支出されているらしく、領収書等が貼付されている「支払決議書」(これは、原告がとりあえず付けた呼称である)が2通存在している。しかし、不明な点が多々ある。
(1) 開示文書の詳細
「設宴決裁書」
この「設宴決裁書」の書式は、先の原告「準備書面7」で詳述した、アメリカの「国際交流諸費」の「設宴決裁書」とほぼ同じである。
開示された同決裁書によれば、決済日は3月19日で、設宴日を3月22日、新着の大使夫妻を囲む、上級職員らのレセプション企画の決済申請について、館長(小倉大使?)、出納官吏、総務書記官らが決済のサインを行っている。この決裁書には、「出席者が多数の時は出席者リストを別添する」とあるが、リストは添付されているようには見えない。そして、出席者は、大使夫妻と同大使館の参事官以上の職員が妻を同伴して参加する予定となっている。参加者の合計数は、とくにマスキングされている。そこで、総数は不明である。また、予算総額も幅広くマスキングされている。設宴決裁書では予算総額も不明である。のちに、2通の「領収書」が出てくるが、その合計額が、設宴決裁書で予定されていた金額なのか、そうでないのかは不明である。
「84201.59FF」分について
@ 開示文書1枚目 表題のない文書(「支払決議書」)。
開示された文書には表題はないが、他の例によれば、この文書には、しばしば領収書が貼付されていて「支払決議」などの記載がなされていることがあり、担当出納官吏の記名押印などが存在する文書である。
開示された当該の文書には、「主催者・取扱者の欄」に「小倉大使」と記載されており、「使用目的欄」に「大使着任レセプション関係工作費」と記載され、場所を「公邸」、「設宴年月日を 12.3.22」とする宴会を開催した費用として、同年3月31日に、「在外公館報償費・政府開発援助報償費」から「84,201.59FF」を支出したことが記述されている。この宴会に出席した客側、主人側の参加人数はマスキングされている。そして、前記金額の支出決裁に当たっては、「証拠書」が「20枚」存在しているとの記載がある。この支出は「在外公館報償費と政府開発援助報償費」から支出されたとされている。
A 同2枚目 「4頁不開示」とのみ記されている(他の部分は白紙)
B 同3枚目 「金額61,927FFの領収書」
 請求書の発行人名が記載されていると思われる場所は大きくマスキングされており、領収書の発行者やどのような品物あるいはサービスの対価として払われたのかは不明である。
C C 同4枚目 「3頁不開示」とのみ記されている(他の部分は白紙)
「4,500FF」分について
@ 同1枚目 前記(イ)の@の「1枚目の文書」と同一形式の文書
 開示された文書には、「主催者・取扱者の欄」に「小倉大使」と記載され、「使用目的欄」に「小倉大使着任レセプションにおける情報収集」と記載され、設宴年月日や宴会参加者などの欄には記載はない。この記載からは、この支出が設宴費用であるのかどうか不明であり、この文書は、3月31日に「4,500FF」の支出が、前記の目的で決済されたことだけを示すにとどまっている。
A 同6枚目 「金額4,500FFの領収書」
 マスキングの状態や、得られる情報は、前述のところと同じである。
B 同7枚目 「1頁不開示」とのみ記されている(他の部分は白紙)
(2) 開示文書が語るレセプションのあらまし
 開示された文書の限りで判断をすると、「大使着任レセプション」の企画は、同月19日に決裁された。これにより、平成12年3月22日に、新任の小倉大使を迎えて、館内の参事官以上の職員が夫妻で参加し、歓迎の宴を催した。この宴会の総参加者数はマスキングされているので不明である。この費用については、3月31日、報償費から「大使着任レセプション関係工作費」という使用目的の下に「84,201.59FF」が支出された。そして、このほかにも、「小倉大使着任レセプションにおける情報収集」費用として、4,500FFが、同日に支出されている。
 ところで、この宴の参加者は、大使館側からは参事官以上の職員が夫妻で出席(一名は単身で出席)したというのであるから、こじんまりとした身内の歓迎の宴である。フランス大使館でも、一等書記官より上の参事官はわずかの人数のはずである。しかし、その支出額は日本円で130万円以上に及んでいる(当時の換算レートは1FF約16円)。部内だけの会合で、参加者の人数を明らかにしても何の不都合があるはずはないのに、参加人数すら明にできなかったのは、参加者一人当たりの予算額との関係があったことと思われる。今回、被告の説明では、不開示の対象情報は「調達先、調達の具体的内容及び招待者氏名、肩書きに係る情報」であるとしているが、内輪の参加者の人数は、どう考えても被告の説明する「不開示情報」には当たらないだろう。
 料理等は外部のレストラン等へ注文したのであろうが、その出前先(あるいは食材等の買付先)はマスキングがされている。これとても、不開示の理由は国民には思いつかない。
(3) まだ多くの不開示文書が存在するはず
 「84、201.59FF」分の支払決議書には、20枚の「証拠書」が添付されているとの記述があることは前述した。そうであれば、外務省が開示したり、今回も「不開示」とした文書以外に、まだ相当数の文書が外務省(フランス大使館)には残されているはずである。すなわち、今回開示された文書は、実質2枚分であり、不開示文書は7枚である(4頁+3頁)。そこで、開示もせず説明もしていない文書が、まだ10枚以上あることになる。まず、このことについて説明を求めたい。
(4) 金額も合わない
 原告が「支払決議書」と呼称している文書で、3月31日に、「84,201.59FF」の支出が決裁されていることは前述した。しかし、そこに添付されている領収書の金額は、前述の通り、「61,927FF」である。84,000には至らない。
 このように、支払決議書で決裁されている金額と「領収書」との金額が合わないこと、20枚あると記載されている「証拠書」が実質2枚しか開示されていない上に、不開示の対象にもされていない文書がまだ存在するらしいことを考え合わせると、被告がなお秘匿している文書があることを推認させる。
4 アメリカでの国会議員に提供する車の借り上げ費について
(1)  在外公館が海外出張してきた国会議員に対して提供する車両の借り上げ費用に係る会計書類である。アメリカ大使館の支出事例(米0452)では、開示された文書は、「領収書」が貼付された「支払決議書」と「支出依頼書」である。そのほかに、「1頁不開示」との説明が加えられていた。この「支払決議書」と「支払依頼書」の書式フォームは、アメリカ大使館の「国際交流諸費」のそれと、ほぼ同一である。
(2)  「米0452」のケースは、橋本龍太郎議員らが平成12年3月に訪米した際に、アメリカ大使館が同議員らに提供した車の借上料が開示されているのである。
 平成12年2月2日付けの「支出依頼書」には、金額は記載されているが、借り上げ先はマスキングされていて不明である。また、小切手等の送付先、支払方法等もマスキングがなされている。「領収書」が貼付されている「支払決議書」でも、橋本議員らに車を提供するために、3月6日に、「5623.50ドル」の支出決裁が報償費からなされたことの情報は明らかにされているが、相手先の情報(社名、住所など)はすべてマスキングがなされている。
5 各大使館で、年度末にワイン・酒類を買いだめ
(1)  フランス大使館からは24件の支出決裁文書が開示されたが、そのうち「ワイン購入」が20件であった。中国大使館では、開示8件のうち5件が「酒類購入」であった。フィリッピン大使館では、7件のうち6件が「外交工作飲物代」であった。
 これらのワイン、酒類あるいは「外交工作飲物代」の購入で開示されている文書は、ほぼ共通しており、「支払決議書」と金額以外をすべてマスキングした業者の「領収書」というものである。そして、この外に若干の「不開示文書」が存在する旨の注記がなされているのである。
(2)  フランスはワインの本場であり、ワインは外交接待用の不可欠な道具立てとも言われるが、中国でもフィリッピンでも酒類の買いだめをしている。中国でも、フィリッピンでも一度に1万5000ドル以上の、年度末の買いだめである。絶対的に必要なものであれば、年初に計画をして予算執行するのが当然であろう。こうした予算の執行状況からしても、予算消化のための買いだめであることは明らかである。
 そうであるのに、酒類の銘柄も、また購入先すらも秘匿しているのである。
6 日本画9点の買い付けで作家の氏名と個別金額は不開示
(1)  「官房0036」で開示された文書は、外務省官房で、在外公館等の壁を飾る日本画9点を総額945万円で買い付けたケースと、日本画の額を買い付けたケースの会計処理文書である。以下には、日本画の買い付け資料について述べる。
 開示された資料から判明することは9点の絵画を総額945万円で買い付けたとの事実である。1点単価も不開示である。日本画9点を9人の作家から買い付けたもののように見えるが、作家の住所・氏名はマスキングされており、画題の表示もないので、9点が何名の作家に発注されたのかは、はっきりしない。
(2)  「官房0036」の開示文書の中には、ほぼ同じ内容の「支出依頼書」「請求書」「請書」「決裁書」などの文書が複数セット綴られているが、作家の氏名や金額がマスキングされているので、複数回登場する支出決裁の異同もはっきりしない。「官房0036」の開示された文書の枚数は62枚に及ぶ。
 作家からの納期が異なるためか、複数回に分けられて支出がなされているようでもある。同一の絵画買い付け案件と思われる決裁文書が「官房0255」、「同0397」にも登場している。
第2 情報公開審査会の答申の不当性
1 情報公開審査会の不開示情報該当性に関する判断
 情報公開審査会は、不開示情報該当性について、「(2)当審査会が見分したところによれば、本件対象文書は、案件ごとに個々具体的に作成されるもの及びそれに基づき個別具体的な件名を列記して取りまとめられるものから成っていると認められ、そのため、本件対象文書には、外務省報償費の使途に関し個別具体的かつ詳細な記載がなされており、これらが容易に区分し難い状態で随所に記載されていることが認められる。これらの記載は、外務省報償費を、秘密を保持して機動的に運用することによって行われる情報収集活動等の個別具体的な内容を示す情報である。」とし、「このような情報については、これらを公にすることにより、外務省報償費の秘密を保持した機動的な運用に支障を及ぼすことによって、情報収集活動等が困難となり、外交事務の円滑かつ効果的な推敲に支障を来すおそれがあり、ひいては、国の安全が害されるおそれ、他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められることから、法5条6号柱書き及び3号に該当する。」と総論を展開する。
 その上で、「しかしながら、当審査会が更に精査したところによれば、本件対象文書には、これを公にしたとしても、諮問庁の説明する外務省報償費の秘密を保持した機動的な運用を損なうおそれがあるとは考え難い部分も存在する。」として、各文書ごとの類型ごとに不開示情報該当性について、検討に入っている。
2 総論での判断の不当性
 上記総論部分は、すべての文書について、「不開示情報該当性あり」と判断した上で、なお精査すると該当しないものがあるとするものであるが、このような判断は、情報公開法の求める判断の方法とは全く逆である。
 すなわち、法は、すべての国の情報は国民・市民のものであり、公開を原則とする中で、5条において不開示情報を認めているのであるから、まず公開すべきとの立場に立って判断すべきであり、さらに、5条6号と3号ではその条文も異なるのであるから、本件各情報が5条6号と3号のいずれに該当するかについて厳密に精査しなければいけないはずである。それを総論では「個別具体的かつ詳細な記載がなされており、これらが容易に区分し難い状態で随所に記載されていることが認められ」るという形式論で厳密な点検を放棄しているのである。
 すべての文書がまず不開示情報に該当し、かつ、「容易に区分し難い」との立場に立った審査会が、以後に行った各文書に関する類型ごとの「精査」では不十分といわざるを得ない。
3 各類型ごとの判断について
(1)  情報公開審査会は、表紙「支出計算書」については「すべて」、表紙「支出済みの通知に関する書類」のうち、「年度別、月別、会計別、所管別及び支出済みの通知に関する書類の総紙数」を、表「支出科目別支出負担行為整理番号一覧表」のうち、「外務省報償費の掲載ページ」を、表「支出済一覧表」については「表題、官署、所管、会計名、部局等、項、年度、年月日、科目、整理番号(支払回数)、負担官区分等、支払日、債主(諮問庁の職員の職名のみ)の欄の記載事項を開示すべきであるとしたものの、
@ 表「支出」については「すべて」、
A 表紙「支出済みの通知に関する書類」については「支出総額」、
B 表「支出済一覧表」については、外務省において、支払が行われるものに関し、報償費について記載された欄の中の「金額、支払方法―支出決定区分―発議係―送金等番号、預貯金種別―口座番号及び金融機関名等の欄に記載されている情報及び最終ページに記載されている総額」、在外公館において支払が行われるものについては「在外公館名」
を不開示情報に該当すると判断し、公開の対象外とした。
 その判断の理由は、いずれも「かかる情報を公にすることによって、その当時の国際情勢や国際的な問題などに関する情報及び資料等と照合し、分析することなどによって、秘密を保持して機動的に運用されている外務省報償費の個別具体的な使途が容易に推定されることから、情報収集活動等を困難にし、外交事務の適正かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがあり、ひいては、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であると認められるので、法5条6号柱書き及び3号に該当する。」というものである。
(2)  しかしながら、表「支出」は、部局等及び科目別の支出済額等について月別に記載された文書であり、外務省報償費について、当該月別の国費としての支出状況が確認できる性格の文書であるのであって、部局等・科目別の支出済額が月別に明らかになったとしても、個別の支出の明細が分かるわけではないのであるから、いくら、「その当時の国際情勢や国際的な問題などに関する情報や資料等と照合・分析」しても、「情報収集活動を困難にする」とは言い難い。
 表紙「支出済みの通知に関する書類」の「総額」についても、上記と同様であり、総額が分かっても個別具体的な活動は不明であるので、情報収集活動を困難にすることはない。
 表「支出済一覧表」については、外務省において、支払が行われるものに関し、報償費について記載された欄の中の「金額、支払方法―支出決定区分―発議係―送金等番号、預貯金種別―口座番号及び金融機関名等の欄に記載されている情報及び最終ページに記載されている総額」が公開されたとしても、上記と同様、「その当時の国際情勢や国際的な問題などに関する情報や資料等と照合・分析」しても、「外務省報償費の個別具体的な使途が容易に推定」できるはずはなく、また、在外公館において支払が行われるものについて「在外公館名」が明らかとなっても、上記と同様、外務省報償費の個別具体的な使途が容易に推定」されることは不可能である。
 したがって、結局、情報公開審査会が、上記各情報を、法5条6号柱書き及び3号による不開示情報に該当するとした判断は誤りである。
4 「5類型に関する各論」
 情報公開審査会は、5類型に該当する情報についても、その一部について、不開示とする答申を行った。しかしながら、以下のとおり、その答申は、明らかに誤っている。
(1) 情報公開審査会の判断
大規模レセプション経費について
 「調達先、調達の具体的内容及び招待者氏名・肩書きに係る情報については、当該レセプションを安全かつ効果的に開催する上で、秘密を保持することが必要と認められ、これを公にすると、当該レセプションの開催に関連して、安全上及び外交儀礼上の支障や問題を引き起こす可能性があると認められるので・・・・・・」
「法5条6号柱書き及び3号に該当する」(乙17の2 21頁)
(アンダーラインは原告代理人による。以下同じ。)
酒類購入経費について
 「ワイン等の酒類については、銘柄により優劣についての評価が明確であることなどを考慮すると、外務省が保有する酒類の詳細をつまびらかにすることは、外交儀礼上の支障などを引き起こす可能性があると認められる。」
 「酒類の調達先、購入本数、購入銘柄及び銘柄別金額については、外務省及び各在外公館が保有する酒類の詳細についてつまびらかになる情報であるので、これを公にすることにより、・・・・・・」
「・・・・・法5条6号柱書き及び3号に該当する。」(同21頁)
在外公館長赴任の際などの贈呈品購入経費
 「贈呈対象者、購入贈呈品の具体的内訳、贈呈品ごとの金額・数量、調達先に係る情報及び対象国名を推測させ得る情報を公にした場合、当該国に対する我が国の評価や位置付けなどが容易に推定され、外交儀礼上の支障を生じ、我が国と当該国との関係に悪影響を及ぼすおそれがあると認められるので・・・・・・」
「法5条6号柱書き及び3号に該当する。」
文化啓発用の日本画等購入経費
 「上記以外の場合として、芸術家など特定の個人の紹介などを通じて画家等製作者から直接購入する場合などにおいては、購入した品目ごとの金額、調達先、購入に至った経緯など当該製作者及び紹介者に係る情報及びそれらが類推される情報については、これを公にすることにより、画家等製作者に対する評価に影響を及ぼすばかりでなく、紹介者と諮問長との関係についても、影響を及ぼすおそれがあると認められ、将来的に同様の方法での調達が困難となり、我が国の文化啓発のための資料の調達の方途が画一化されることになり、外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすことになるので、法5条6号に該当する。」(同22〜23頁)
本邦関係者が外国訪問した際の車両の借上げ等の事務経費
 「しかしながら、車両の調達先や車種など及び事務連絡室の所在などの具体的内容に係る情報については、これらを公にした場合、今後、本邦関係者が当該国を訪問する際に、突発的な事態を未然に防止し、その安全を確保することが困難になり、仮に、そのような事態が起きた場合には、我が国と当該国との関係に悪影響を及ぼすおそれがあると認めらるので、これを公にすることにより、・・・・・・・・」
「・・・・・法5条6号柱書き及び3号に該当する。」(同23頁)
(2) 情報公開審査会の判断の誤り
 以上の審査会答申の判断内容の引用部分を参照しただけで、法の規定する不開示事由に該当するとは、到底評価できないことは明らかである。例えば、ワインの調達先を公にしたために、外交儀礼上の支障を生じさせるなどということは、到底、ありえないはずである。
 また、レセプション準備の調達先等や、議員のための車両提供の借上げ先などに関する情報については、昨今のテロ対策の必要性の議論を踏まえれば、一見、もっともらしく聞こえるが、以上の各情報は、いずれも、過去に実施されたレセプションや車両借上げに関する情報であって、過去の情報を公開しても、今後のレセプションや車両借上げについては、事前に、誰のレセプションか、誰が乗る車かを公開することにはならないのである。したがって、かかる過去の情報を公にすることによって、今後、起こる可能性のあるテロの発生を未然に防止すること等が困難となるなどということは、到底、あり得ない。
 結局、審査会の答申は、単に、諮問庁の主張をなぞっただけで、本件各文書に記載された各情報が、法の規定する不開示情報に該当することについて、具体的な判断根拠等は一切説明していないのである。
第3 裁判所が当該文書を直接見分すべきである
1 被告の主張
 被告は,情報公開審査会の答申にそって「5類型」の文書の一部を開示したが,それ以外の文書については,その不開示処分の正当性について,「そのことは,実際に文書を見分した情報公開審査会の答申においても,明確に認められているとおりである。……本件各答申において,『5類型』以外にかかる文書については,外務省報償費の使途に関し個別具体的かつ詳細な記載が,容易に区分し難い状態で随所に記載され,外務省報償費を運用して行われる情報収集活動等の個別具体的な内容を示す情報であって法5条6号柱書き若しくは3号に該当するとされており,『5類型』に係る文書についても,部分開示相当を指摘した部分はあるものの,その余の部分について法5条6号柱書き若しくは3号に該当するとされている。」と主張している(被告準備書面13頁)。すなわち,被告の主張は,審査会は当該文書を見分した上で上で答申を行ったのであるから,裁判所は審査会の判断を尊重せよというものである。
2 被告の主張に対する反論
 しかしながら,まず審査会の判断そのものが,原則公開という法の趣旨に基づき,個別の文書ごとに被告が主張する不開示事由に該当するか否かという厳密な点検を行っていない。繰り返し述べるが,行政庁は,行政庁は申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準を定めることを求められ(行政手続法第5条),これを受けて被告は「審査基準」を設けている。したがって,答申を受けた審査会は,当然のことながら,被告は自ら定めた「審査基準」にしたがって不開示事由の有無について判断を行っているか,その判断内容が法や「審査基準」に照らし合理的で正当性が認められるかを点検すべきであるが,答申内容を見る限り審査会はこうした点検を行ったとは到底認められない。そもそも,被告の主張は,あたかも審査会を裁判所の上に位置づけ,裁判所は審査会の答申に従うべきだというもので,司法審査を排除し裁判所を軽視するものであって極めて不当である。
 また,被告は,原告の開示請求に係る文書は,「情報収集等」(A),「外交交渉等」(B),「国際会議への出席等」(C)に該当するので不開示としたと主張してきた。この「A」「B」「C」の分類そのものが「審査基準」とは全く無縁の分類であることはさておき,例えば,今回開示されたフランス大使館の「大使着任レセプション」(0734),「アメリカでの国会議員に提供する車の借り上げ費用」(米0452),各大使館の「外交工作飲物代」,「在外公館等の壁を飾る日本画」(官房0036)等の各文書が,何故「A」「B」「C」の3分類に該当するのであろうか。被告は,原告だけでなく,裁判所に対しても虚偽の主張を行って不開示を正当化しようとしているのであって,その訴訟態度は極めて悪質である。
3 裁判所は検証手続で文書を見分の上判断すべきである
 情報公開法は,不開示事由の有無の判断についていわゆるインカメラ手続を設けていないが,裁判所は,検証手続によって当該文書を直接見分の上,不開示事由に該当するか否かを判断すべきである。
 すなわち,検証とは,裁判官が当該事件に関し,五官の作用によって直接に事物の形状・性質・現象・状況について検査,観察し,これによって得た事実判断を証拠資料とする証拠調べであり,我が国の裁判権に服するものは,証人義務と同様に検証協力義務を負っている。検証の対象となり得るものは,五官の作用によって感得できるものであれば足りるので,本件各文書は検証の対象物となる。検証によって証明すべき事実は,直接事実,間接事実,経験則の立証のほか他の証拠方法の証明力を争うためにも行われるので,本件各文書が不開示事由に該当するか,あるいは,該当すると行政庁が認めたことに相当の理由があるかについても,当然,証明の対象となる。また,申し立てた原告が検証の立ち会い権を放棄することによって,検証手続の中で当該文書が事実上開示を受けたと同様の状態になるという不都合は回避することができる。
 本件訴訟では,当該文書が不開示事由に該当するか,被告の判断に相当理由があるかだけではなく,司法の存在意義そのものが問われている。裁判所は法創造性を発揮し,司法機関の立場において検証手続に基づき本件各文書を直接見分し,本件各文書に不開示事由が認められるか,あるいは,不開示事由が認められるとしたことについて相当の理由があるといえるかを自ら判断すべきである。
第4 原告らには開示部分の特定は困難である
1 被告の主張する「外形的事実」は開示文書とは対応していない
(1)  被告が、不開示文書の「外形的事実」を挙げるとして、第7準備書面に示した「別表」は、文書の特定にほとんど役に立たない。
 被告は、その「別表」において、各文書について、いわゆる「決裁書」の記載事項(被告のいう「外形的事実」)について、@文書作成者氏名、A決裁者名、B起案・決済日、C支払予定先、D支払予定額、E目的・内容、F予算科目、G支払手続日、H取扱者名、I支払先、J支払額、などの記載欄があるとしている。
(2)  この記載からすると、1件あるいは1頁の文書に、これらの記載欄が存在しているかのようにも受け取れるが、開示された文書と対比すると、そうではないことが分かる。
 前にも述べたように、被告が整理している一つの文書番号の中には、前述の通り、頁数で62枚にも及ぶものがあり、前記、被告が主張している十数項目の記載欄には到底収まるものではないのである。また、たとえば、「領収書」とか「請求書」を単体で取り上げれば、被告が挙げた十数項目を満たさないこともある。
 被告が「外形的事実」として挙げた項目は、計算書類の記載内容を全体として観察すれば、こうした記載事項が存在しているとするものであり、具体的な文書を現実に即して整理をしたものではないのである。
2 原告には開示部分の特定は困難である
(1)  以上のところから、被告主張の「外形的事実」に即して開示文書(一部開示文書)を整理して、これらを開示部分と非開示分とに区分することは到底できない。たしかに、開示された文書の限りでは、被告が挙げている各項目について、開示・非開示のチェックをすることは不可能ではないが、今回の開示文書のなかにも、まだ大量の不開示部分が存在しているのである。こうした状況では、各文書の開示、不開示部分を特定しようがない。
(2)  そこで、原告が今回の部分開示された文書を全体の中で特定するためには、詳細なインデックスが必要である。原告は、これまでにも、被告が全面不開示の処分をするのなら、不開示文書の詳細なインデックスを提出すべきであると主張してきたが、少なくとも、52件について、被告の手持ち文書についての詳細なインデックスを作成し、これを交付する必要がある。そうでなければ、原告の立場では開示・非開示の部分を特定することは、現実には不能である。


以上



(別 紙)

情報公開審査会の答申に基づく開示・不開示の区分
 大規模レセプションに係るもの
@ 開示する部分  「件名、開催の日付、主催者、経費の総額を記載した部分」
A 非開示の部分  「調達先、調達の具体的内容及び招待者氏名、肩書きに係る情報」
B 不開示の根拠  法5条6号柱書き、3号
 酒類購入経費
@ 開示する部分  「件名、日付、経費の総額を記載した部分」
A 非開示の部分  「種類の調達先、購入本数、購入銘柄及び銘柄別金額」
B 不開示の根拠  法5条6号柱書き、3号
 在外公館長赴任の際などの贈答品購入経費
@ 開示する部分  「件名、日付、支出要旨・説明、経費の総額」
A 非開示の部分  「贈呈対象者、購入贈呈品の具体的内訳、贈呈品ごとの金額・数量、調達先に係る情報及び対象国名を推測させる得る情報」
B 不開示の根拠  法5条6号柱書き、3号
 文化啓発用の日本画等購入経費
(ア) 百貨店などの店舗から購入した部分
@ 開示する部分  「購入に係る記載部分のすべて」
(イ) 製作者から直接購入した場合
@ 開示する部分  「件名、日付、支出要旨・説明、経費の総額、調達の数量を記載した部分(ただし、当該記載内容から品目ごとの金額、調達先及び購入に至った経緯などに係る情報を除く)」
A 非開示の部分  「購入した品目ごとの金額、調達先及び購入に至った経緯など当該当該制作者及び紹介者に係る情報及びそれらが推測される情報」
B 不開示の根拠  法5条6号
 本邦関係者が外国訪問した際の車両の借り上げ等の事務経費に係るもの
@ 開示する部分  「件名(公表慣行がない個人の氏名等は除く)、日付、経費の総額を記載した部分」
A 非開示の部分  「車両の調達先や車種など及び事務連絡室の所在等の具体的内容に係る情報」
B 不開示の根拠  法5条6号柱書き、3号


 (なお、今回の被告の一部開示決定(乙18号証の1〜5)によれば、5件の処分のうち、在中国日本大使館の分を除いて、大臣官房、在米、在仏、在比各大使館の文書については、不開示の根拠に、法5条1号を追加している。)

以上