外務省の便宜供与ファイルに注目すべき審査会答申
報償費による国会議員との会食が明らかに
多くの不開示の誤りを指摘
 情報公開市民センターは、在外大使館が国会議員に対して行った便宜供与についてかねて情報公開請求をし、便宜供与ファイルの一部不開示に対して異議申立をしていましたが、この事件について情報公開審査会が2005年8月25日に答申を出しました。
 当センターは平成11年に米大使館が国会議員に行った便宜供与43件(外務省作成の便宜供与件数統計表による)を念頭に、外務省に平成11年度分の便宜供与ファイルを情報公開請求し、8つのファイルの開示(部分開示)を受けました。このうちの1ファイル(4件)の部分開示に対して異議申立をしていたものです。
 答申は、4件のうちワシントンを訪問しなかった1件を除いて、大使・公使等主催の昼食・夕食懇談会(一部は朝食会も)が行われ、公費が支出されていることを明らかにし、それらの日程、場所、公表慣行のある職員氏名などを開示すべきとしています。
 この答申に対して外務省は、当センターのたび重なる督促にもかかわらず、9か月あまり過ぎた今もなお、多忙を理由に答申に従った文書の開示を行っていません。センターは、別掲の報償費不開示取消訴訟(一審勝訴)の控訴審において、審査会答申にかかわる便宜供与を主張に用いることにしたのを機会に、この記事を掲載することにしました。

1.会食に報償費を支出
 審査会答申と、先に部分開示を受けた便宜供与ファイル文書とを対照して見ると、日程のうち墨塗りされていない部分の記載から、墨塗りされた便宜供与の会食は次の月日に行われたことが分かります。
  超党派国会議員団(議員7人)  平成11年4月26日〜30日に2回
  木俣佳丈参院民主党議員     平成12年2月3日〜4日に2回
  山中Y子衆院改革クラブ議員   平成11年4月29日〜5月5日に2〜3回
                       同年 9月12〜18日に2〜3回
 この会食に支出された「公費」の費目は、当センターが別途の情報公開請求によって開示を受けた他の文書と合わせて見ると、報償費であるということが断定できます。
 すなわち、当センターは「平成10年度第4四半期・11年度の飲食供応・便宜供与支出証拠」の開示請求を行いましたが、これに対して外務省は次の種類に区分して特定し、開示決定等をしていました。
 ・会食支払証拠書類(交際費および交流諸費) (部分開示)
 ・現地職員移動諸雑費 (部分開示)
 ・邦字新聞購読料 (部分開示)
 ・報償費 (不開示)
 ・公邸飲食供応支出証拠 (部分開示) (別途開示請求したもの)
 開示された交際費、交流諸費および公邸飲食供応の支出証拠文書にはこれらの国会議員との会食に該当するものはありません。とすれば、これらの会食には不開示とされた報償費を支出したとしか考えられません。

2.外務省の報償費不開示主張の根拠が崩れる
 当センターが行っている報償費不開示取消訴訟との関連でいうと、訴訟の支出対象期間である平成12年2月、3月に時期が当てはまるものは、木俣佳丈参院民主党議員の2月3日〜4日の会食です。
 外務省は報償費支出証拠については、別の情報公開審査会答申に従って先日部分開示した「会計検査院の5類型」(大規模レセプション、酒類購入、日本画購入など)の支出以外は、すべて「情報収集・外交工作」のための支出で保秘性が高く、文書の中に情報が容易に区分し得ない状態で一体となって随所に記載されているとして、全面不開示を主張しています。この主張は敗訴した一審に続いて、控訴審の外務省準備書面においても維持されています。
 しかし国会議員との会食懇談が「保秘を要する情報収集・外交工作」である訳がありません。今回の審査会答申によって「不開示該当性がない」とされた国会議員への便宜供与の会食に、報償費を支出しているということが明白になったことで、外務省が裁判で縷々述べている建前論は崩れてしまうことになります。

3.多くの開示すべき項目
1)答申の開示指示項目
 審査会答申は、外務省が不開示とした次のような諸項目を開示すべきだとしました。
 ・大使(公使・参事官・総領事)主催の昼食・夕食懇談会等の日程、場所および出席予定者
 ・これらへの同席者のうち氏名の公表慣行のある大使館職員
 ・社会保障専門家で昼食懇談会にも出席した朝食会出席者
 ・公式日程のプログラムを実施する法人の本部職員、現地法人の職員
 ・国会議員の国内における事務所の電話番号、FAX番号
 ・国会議員のスタッフの肩書
 ・在米大使館総務部直通の電話番号

2)外務省の不開示理由
 外務省は開示決定書および審査会への諮問における理由説明書で、次の理由を挙げていました。
 大使等主催の昼食会・夕食懇談会等は公式日程以外であって議員の個人的活動であり、個人情報である(情報公開法6条1号該当) また公になれば議員の訪問国での活動に一定の制約が生じ、ひいては在外公館の業務遂行に著しい支障を生じるおそれがある。(同6号該当)
 法人等に所属する個人の氏名肩書は個人情報である。また公になれば信頼関係が著しく損われる。(同上)

3)答申の開示指示理由
 審査会はこれに対して、次のように外務省の主張を退けました。
 昼食会・夕食懇談会等は議員の公務の一部とも言える。(同1号不該当) また公にしても信頼関係を損うなどのおそれはない。(同6号不該当)
 同席した大使館職員、公式日程等に参加した法人等の個人のうち公表慣行がある者、公表された者は開示すべきである。(同1号・6号不該当)

4)コメント
 外務省は議員の公式日程だけを公務であるとして、極端に公務性を狭く歪めて解釈し、公式日程以外の日程は、大使館の大使等との懇談・ブリーフィングも含めて議員個人の活動であるとして、不開示部分を拡大し不開示決定をしていました。公表慣行がある者、公表された者まで、「個人情報である」「信頼関係が損なわれる」として不開示としていました。
 その他、不開示部分は最小限とするという情報公開の原則によらず、意図的な、またはずさんな判断で、いくつもの不適切な不開示処理をしていたことが明らかになりました。 (鈴木祥宣記)