情報公開制度の見直しに当たって

04.5.26

情報公開市民センター代表
弁護士 高 橋 利 明

はじめに
 情報公開制度は、公表制度を含めて、住民、国民の情報アクセスに有益であり、行政の公開・透明性を高め、そして行政に適度の緊張を求めることになっている。請求者に敵対的、警戒的で、サボタージュも珍しくなかった10年前の地方自治体の窓口対応と比べれば、大きな変化を感ずる。しかし、各省庁が情報公開に積極的であり、サービス精神に溢れているかといえば、答えは「否」である。総務省をはじめ各省庁のホームページでは、行政文書ファイル管理簿にアクセスできるようになっているが、普通の人が、あれで必要とする行政情報へたどり着けるとは、到底思えない。
 さらに、警察、外務省など、秘密保持が一定範囲で許されるとされる官署、省庁では、それに隠れて、それを悪用して不正、腐敗、怠惰、停滞が生じている。国民の目の届かないところ、陽の指さないところに腐敗が起こるのは世の常である。

1 市民センターの外務省に対する情報公開請求と取消訴訟
 情報公開市民センターでは、平成13年4月に、中央省庁に対して一斉の情報公開請求を行なったが、その結果、報償費について全面不開示処分を行った外務省に対して不開示処分取消訴訟を提起している。外務省大臣官房と在アメリカ、フランスなど5つの在外公館の、平成12年2月、3月に支出した報償費等の支出証拠、支出決済文書等の開示を求めるものである。
 今日の情報公開制度のかなりの問題点が、外務省の対応やこの情報公開請求訴訟で生起している問題に、象徴的、集中的に現れていると思われる。この訴訟を通じて起こっている問題を点検して、改善点を考えたい。結果として、制度改善を求める内容は、ヴォーン・インデックス制度やインカメラ制度等、日弁連や本日の活動仲間と重なるものであるが、訴訟等に現れている具体的な問題を通じて改善策を検討したしだいである。

2 不開示事由は抽象的、「審査基準」も無視の外務省
 外務大臣の不開示処分の決定では、不開示事由を法5条3号、6号とする以外、文書の件数も文書の標目も分からない。
 訴訟となっても、外務大臣は、「これが公にされることにより、情報収集その他の外交工作が阻害され、適切な外交事務を遂行することができないので、法5条3号に該当すると判断した」(外務大臣の準備書面)というばかりであった。裁判所は、情報公開請求訴訟では、被告が非開示文書の項目、性格等を説明し、当該文書に外務大臣による裁量権行使の前提となる情報が記載されていること等の主張立証が必要であると、再三、不開示事由の具体的な主張を指示した。
 度重なる原告と裁判所からの要求があってから、外務大臣が提出した書面が、添付の「別表」である。これが不開示情報の「外形的事実」であるという。文書の「記載項目」しか示さなかったのである。この段階で、はじめて、文書件数が明らかになった。しかしそれでも、官署別の件数は明らかにしなかった。
 各省庁は、情報公開法に基づく「審査基準」を持っている。外務大臣は、当然に、この「審査基準」に基づいて開示・不開示を判断したのだから、各文書ごとに審査基準掲記の事由を挙げることができるはずである。原告が、これを再三求めても、外務省は応じない。「別表」の右端の欄に、「A」「B」「C」とあるが、これは、審査基準とは別に、報償費の使途分類を勝手につくり、「Aは情報収集等」、「Bは外交交渉等」「Cは国際会議への出席等」として、使途分類をしてこの符号を付したものである。法5条3号の要件とは無縁のものである。外務省では、自ら設定した「審査基準」も、都合が悪くなると無視して守らない。法治主義が履行されていない。「防衛・外交情報」については、法5条3号の規定とは別に、開示基準を作成することも一案であるが、まず、自ら設定している審査基準を遵守することが肝要である。
 外務大臣は、情報公開の請求権者が「何人も」であることが、開示を消極的にするといっている。情報公開の精神を逆手にとって、屁理屈を言うのである。また、最高裁判決を引いて、一体の情報を細分化しては開示しないとも主張している。

3 「ワインの買いだめ伝票」も「公開されると外交工作の阻害」情報
 今年(平成16年)3月、情報公開審査会の答申があって、一部の文書が開示された。たとえば、在米大使館では、国会議員への便宜供与としての車両の借上げ費、在仏大使館では、年度末のワイン買いだめ伝票、外務省官房では大使館の壁に掲げる日本画の購入決裁書などである。また、大使の就任レセプション費用もあった。パリの大使館では、余った予算なのか3月末に、1000万円以上もワインを買い捲っていた。しかし、買付先はなお不開示である。「購入先を明らかにすると今後の業務に支障がある」とするのである。今回の、報償費の一部開示を答申した審査会の結論は、先に、会計検査院が報償費の不適切支出を指摘した範囲で終わっている。一歩も出ていない。審査会の限界を露呈したものである。
 ワインの買いだめや国会議員への車提供という便宜供与費用の支出伝票も、公開すると「情報収集や外交工作に障害となる」情報であったのである。なお、年に、1万件を超えていた、在外公館の国会議員等への飲食の伴う接待費(便宜供与費)は、報償費から支出されているのである(外務省の内規がある)が、これも外務省にとってはA級の秘密保持情報なのである。
 外務省は、職員の組織的な公費の不正支出による「プール金」事件ばかりでなく、報償費の不適切使用も明らかになって、報償費が4割削減されても、報償費情報公開への消極姿勢は不変である。
 その一方で、報償費を使用していない在外公館の「国際交流諸費」などは、かなりの程度、開示している。常々、外務省が主張している、秘密保持を要するとする「外交工作活動」(外交官が、任国で各界の人物と飲食をともにして接触)が、相当程度開示されているのである。こうした事情からしても、報償費の使途秘密保持理由は、情報活動や外交工作活動の故ではないのである。
 私たちも、秘密保持が必要な情報の存在することを認めているが、外務省の恣意は許すことができない。

4 外務省は「インカメラ」の効用を主張している
 外務省は、審査会の答申を受けて、不開示情報の一部を開示したが、その他について改めることは拒否している。それどころか、それ以外の文書については、従前から主張している通り公開すると情報収集活動等を困難にするとし、「このことは、実際に文書を見分した情報公開審査会の答申においても、明確に認められている」(外務大臣の準備書面)として、審査会がインカメラの上で判断していることを、むしろ、それ以外の文書不開示の正当性主張の根拠に転化して、その効用を主張している。
 今回の報償費の一部開示は、あまりにも理不尽な部分についてのものであろう。それでも、ワインの購入先や車両の調達先すら不開示である。こうした馬鹿げた処分は、訴訟段階で、詳細なインデックスを提出させることで、不開示事由の不存在はたちどころに明らかになるはずだし、インカメラを行えば、迅速な判断ができる。どうしても、インデックス制度とインカメラの法的制度の導入が不可欠である。これなくしては、法5条3号が絡むと、開示・不開示は、省庁の言いなりとなり、臭いものに蓋がされたままになる。情報公開訴訟は茶番に終わる。
 そして、このままでは、審査会の判断が司法の判断を押さえ込んでしまうことになることは明らかである。

5 最小限度の改善を求める
 以上の問題点が、外務省での報償費について集中的に現れている。しかし、この報償費問題だけに限られているわけではない。日弁連も同様な問題点の指摘をしている。私たちは、情報公開制度の見直しに当たって、最小限、次の改善を求めたい。
@  各省庁は「審査基準」を設定しているのであるから、請求者が求めたときは、この審査基準に当てはめた不開示事由を明らかにすること。
A  情報公開請求訴訟におけるヴォーン・インデックス制、インカメラ制度の迅速な導入。
B  不開示処分担当者の明示。
C  法6条1項但し書きの削除等(新海聡弁護士の提言と同旨)。
D  各省庁のホームページでの情報公開案内(特に、行政文書ファイル管理簿)の改善を行うこと。

添付書面
1)  外務省が、しぶしぶ提出したインデックス代わりの「別表」
2)  外務省が開示した「自動車借上げ料」の支出決裁書類(在米大使館分)
3)  外務省が、「秘密指定解除」などとして開示した文書の一覧表(一部)