2005年 3月 8日 
特定非営利活動法人
 情報公開市民センター
情報公開法改正を求める意見書

 この意見書は、情報公開法附則に規定する、施行後4年が経過する2005年3月を目途とした見直しに対し、情報公開市民センターが活動の中で経験した事例にもとづき、法を改正すべき事項を取りまとめたものである。情報公開活動を活性化するための、その余の多数の論点については、「情報公開クリアリングハウス」他の、志を同じくする団体からの指摘・提言に同意するものである。

 総務省の「情報公開法の制度運営に関する検討会」は、1年にわたる検討結果の報告書を3月にまとめる段階になっており、摘出された問題点について所要の改善措置を講じ、または引き続いて検討する必要性を指摘している。指摘にもとづく法の改正および運用の改善が実現できるように、この「検討会」を継承する新たな審議会等を設けて「施行後4年を目途とする検討」を継続させ、法の改正の実現を目指してもらいたい。
注:「訴訟」とは、情報公開市民センターが提訴し、東京地裁で審理継続中の 平成13年(行ウ)第150号 行政文書不開示処分取消請求事件 (通称:外務省報償費不開示取消訴訟)をいう。

1. 「知る権利」の明記 (第1条)
 情報公開市民センターでは、平成13年4月に、中央省庁に対して一斉の情報公開請求を行なったが、その結果、報償費(機密費)について全面不開示処分を行った外務省に対して不開示処分取消訴訟を提起している。外務省大臣官房と在アメリカ、フランスなど5つの在外公館の、平成12年2月、3月に支出した報償費等の支出証拠、支出決済文書等の開示を求めるものである(現在、東京地裁に係属中)。
 今日の情報公開制度のかなりの問題点が、外務省の対応やこの情報公開請求訴訟において象徴的、集中的に現れていると思われる。この訴訟を通じて起こっている問題を点検して、改善点を考えたい。結論として、制度改善を求める内容は、ヴォーン・インデックス制度やインカメラ制度の導入、5条3号、4号の行政機関の長の裁量条項の削除などが中心課題である。訴訟等に現れている具体的な問題を通じて改善策を検討したしだいである。

2. 「原則開示」の明文化 (第5条)
 法の趣旨は「行政文書は原則開示」であるが、これをよりいっそう明確にするために、例外の不開示情報は開示を禁止するものでなく、「開示しないことができるものとする」と明記すべきである。

 「訴訟」において外務省は、被告準備書面(1)および(3)の中で「不開示情報は開示を禁止されている」との主張を展開している。
3. 公務員の個人情報 (第5条第1号ハ)
 公務員については、現行法の「職及び職務遂行の内容」だけではなく、氏名も開示するように改正すべきである。
私人であっても、政府の依頼・委託を受けて政策に関与する職務においては、その職務が審議会委員・懇談会委員その他名称にかかわらず公務の遂行に係る者として、法においてその者の所属機関・職名・氏名を開示するように改めるべきである。

 当センターが2001年の情報公開法施行以来、継続して毎年実施してきた「中央省庁情報公開度ランキング」のための情報公開請求において、各省庁から政策に関与する私人を不開示とされた。

4. 国の安全・公共の安全等情報 (第5条第3号・第4号)
 「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国もしくは国際機関との信頼関係が損われるおそれ、又はおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」との第3号の規定は、行政裁量を広く認めすぎで濫用を生んでいる。第4号についても同様である。
 行政機関の長の一次的判断権を尊重してその裁量事項とする規定は削除し、「……おそれがある情報」と改めるべきである。またその逸脱・濫用の主張立証責任は、行政機関にあることを明文化すべきである。

 「訴訟」において外務省は、被告準備書面(1)などで、「行政文書に記載された情報が法第5条第3号に該当することについて裁量権を行使し、その充足を認めたことを主張した場合、裁量権の逸脱・濫用の立証責任は原告側にある」として、具体的な不開示該当性の主張立証を行おうとしない。
 この外務省の主張の文言にもあるとおり、その主張についての「立証」は必要がないとしているのである。すなわち、外務省は、不開示文書について、単に「法第5条第3号適用事案」と主張すれば、その余の点については、原告(請求者)が、実施機関の不開示処分の違法性までをすべて主張立証するべきであるとの態度なのである。外務省は、裁判長からの再三の要請をも無視して、何らの具体的な説明を拒絶している。裁判所の優柔不断な態度にも問題があるのであるが、法第5条第3号、第4号事案において、このような実施機関の態度を許すときは、情報公開制度は形骸化し、崩壊することになる。

5. 事務・事業に関する情報 (第5条第6号)
 「公にすることにより、次に掲げるおそれ、その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」という現行規定のうち、「支障」を、不開示の範囲を狭めるよう「著しい支障」と改めるべきである。

 立法の趣旨からは、第6号は厳格に解釈・運用すべきものであるにかかわらず、「訴訟」において外務省は、被告準備書面(1)において「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について、「類型的にみていかなる性質の情報が記録されているかという事実に基づき、経験則に照らして判断を行わなければならない」と主張して、不開示の範囲を広げるような運用をしている。

 厚生労働省は、社会福祉法人の労働基準法違反及び指導の概要のわかる文書、―期間を限定―、の請求に対し、実質的に存否応答拒否といえる取扱いをおこなった。日付欄、事業の名称欄、代表者職欄、是正期日欄、警告文欄、などを墨塗りし、請求文書の範囲から当然に判断できる内容まで不開示の決定を行い、厳格に解釈・運用すべき事項を、なんでも不開示、とするようなきわめて安易な運用を行っている。厳格な規定に改めるべきである。

 また外務省に対して行った、在外公館の交際費、飲食供応支出証拠、国会議員便宜供与ファイルについての種々の情報公開請求において、第5条第6号の不開示規定を過大に適用して不開示としている事例が多い。

6. 開示決定等の期限 (第10条第1項)
 開示決定等の期限については、現行の請求日から30日以内を、15日以内に改めるべきである。地方自治体の条例の多くは期限を15日以内としている。期限の特例として第10条第2項および第11条があり、本則を15日以内として無理なく決定等を行えるはずである。

 当センターが行っている種々の情報公開請求において、開示決定等の期限が長いため、活動に支障をきたしている。

7. 大量請求の期限の特例 (第11条)
 現行の「相当の部分」「相当の期間」を、例えば対象文書の1割以上、6ヶ月以内というように具体的に規定すべきである。
相当の期間を1年半〜2年とされた事例
行政機関 請求文書 延長決定 開示
外務省 大使館飲食供応支出証拠 01/12/27 03/11/14
在外公館渡切費内部調査 02/1/15 03/12/15
米大使館国会議員便宜供与 02/4/19 03/12/12
在外公館国会議員便宜供与 02/6/25 03/10/下旬


8. 不開示決定に際しての理由付記のあり方
 行政手続法第8条の適用によるのでなく、不開示部分ごとに、単に根拠条項を記載するだけでなく、各省の審査基準などにもとづいた具体的理由を明記することを、情報公開法に規定すべきである。

 「訴訟」において外務省は、被告準備書面(4)(平成14年4月24日)の中で、1,069件の文書について自らの持つ「開示決定等に関する審査基準」にもとづく不開示理由を示さず、不開示の要件とは無縁の報償費使用基準の3分類、すなわち、A 情報収集等の事務 B 外交交渉等の事務 C 国際会議への参加等の事務 ですり替えて不開示の理由としている。
9. 請求手数料の無料化 (第16条 施行令第13条第1項・第2項)
 開示請求手数料は無料にすべきである。
 もしくは、開示請求の件数カウントの運用を見直し、関連文書は1ファイルとみなす措置をすべきである。

 同一種類の文書であっても、所管部署・課が異なるごとに別件請求としてカウントする省庁が多い。1ファイルに編綴されていても、複数文書として認定され、当センターでは請求手数料の負担が過大となっている。
10. 手数料の引下げ (施行令第13条第2項)
 開示実施における複写の交付料は現行の1枚20円を10円に引き下げるべきである。また、政府の活動について知る公益を目的とする旨を請求者が記載した請求に対しては、開示手数料をさらに減免するよう改めるべきである。

 当センターは各種の開示請求に際して、費用負担が過重なため、@請求対象期間を限定する、A複写の交付のかわりに閲覧のみに止めるなどの制約を強いられている。
11. 納付方法 (施行令第13条第3項)
 開示実施手数料はどの実施機関においても、開示窓口で現金により納付できるよう、規定を改めるべきである。

 手数料・複写の交付料の納付方法は主官庁により、収入印紙のみ、口座振込のみ、収入印紙もしくは現金納付による、に分かれているが、利便性のため現金による納付を認めるべきである。
12. 審査会への諮問 (第18条)
 諮問までに長期間をかけている事例があり、簡易・迅速な救済に反するので、遅滞なく諮問すべきことを規定するべきである。
諮問庁が諮問に長期間をかけた事例
行政機関 請求文書 異議申立 諮問 答申
外務省 国家公務員倫理法の贈与等報告書 01/10/5 03/8
在外公館渡切費出納簿 01/12/5 03/7/10 03/11/7
在外公館飲食供応・便宜供与支出証拠 02/2/10
在外公館国会議員便宜供与ファイル 03/2/13 04/4/8

13. 訴訟におけるヴォーンインデクスおよびインカメラ審理(裁判所の調査権限)
 原告の申立て、あるいは裁判所の職権で、ヴォーンインデクスの作成要求、およびインカメラ審理ができるように明記すべきである。

 「訴訟」において当センターは、当初の原告準備書面(1)からインカメラ審理を主張した。また原告準備書面(8)(2004年6月30日)において、情報公開審査会がインカメラ見分を含む審査にもとづき「外務省報償費の一部を部分開示すべし」とした一連の答申(2004年2月以降)を不当であると主張した。同時に検証申出書(平成16年6月30日)でインカメラ審理の採用を申し立てた。
 しかし裁判所から決定書(平成16年12月21日)によって「情報公開法に明文の定めがない」ことを理由に却下された。「訴訟」は提訴以来4年近くを経過して、いまだ一審で審理中である。
 裁判所が適正な判断を行うため、また迅速な訴訟の実現のために、ヴォーンインデクス、インカメラ審理は不可欠の制度である。とりわけ、「4」の項で述べたように、現行の情報公開請求訴訟では、裁判官に何の情報も与えずに判断を迫ることになりかねないのであるから、この制度の導入を強く求めるところである。
14. 行政文書の管理 (第37条 施行令16条)
 文書の作成・保管・廃棄の規定は、現行では行政機関の政令事項であるが、それらの基準と廃棄記録の作成義務・罰則等を定める文書管理法を制定すべきである。

 行政文書の正確な管理は、情報公開制度の根幹を成す事項である。外務省の便宜供与件数統計表は、当センターが開示請求をし始めてから、平成13年分以降の食事回数の調査集計をやめたこと、一次資料の廃棄期限が早すぎること、また、重要事項を審議検討した会議録を作成しない事例があることなど、保存期限の適用を、業務遂行の必要性のみで決定しており、国民の知る権利を守る視点に欠けていることから発生している。
15. 開示請求しようとするものに対する情報提供(第38条)   
 請求にあたり、求める文書を特定出来ずに請求したことがほとんどであった。
このため、情報公開請求者に対する的確な利便の提供が情報公開制度を機能させる上で重要であることが認識されたが、情報公開担当部門の制度に対する認識不足や、配備された文書ファイルによっての文書特定はきわめて困難である、ことなど、制度の欠陥が現れている。
 このため、職員の情報公開制度に対する研修、文書検索のシステムの整備などを規定するべきである。

 情報公開請求にあたり、請求書に文書名を記述しなければ受け付けできない、と受付を拒否した事例、文書名を特定するよう請求者に要求し、請求受理担当者が文書特定にまったく援助しなかった事例がある。(厚生労働省 千葉労働局)
以上
(この「意見書」は、総務省の「情報公開法の制度運営に関する検討会」事務局などに送りました。)