住民による事務事業評価を拒む神戸市に明日はない!
1 事  案
2000年7月12日、神戸市長に対して情報公開請求
「ポートアイランドコンテナバース再開発事業の、用地費・道路など整備事業等の書かれている計画書または事業説明書」
同年同月26日、非公開決定通知書
非公開の理由:本件条例第七条第6号、7号該当
(1) 上記の情報は、予算等についての審議、検討等の意思形成過程に関する情報であって、公にすることにより、公正かつ適切な意思形成に著しい支障を生じると認められるため(第6号)
(2) これらの意思形成過程の情報を公開すれば、予算等に関する事務事業の目的を損ない、又は公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生じ、又は生じるおそれがあると認められるため(第7号)
同年9月、提訴
2 論  点
@非公開理由欄に記載されているのは非公開の根拠条文と根拠条文の一部抜粋だけ。7号については前段への該当性を全く指摘していない。条例が予定している理由の記載になっていない。 ⇒ 違法
※ただ、理由が記載していないことを理由に非公開処分の取消判決を求めると、判決は理由の記載がないことだけを争点にするので、勝訴して公開請求しても今度は非公開理由をしっかり書いた非公開処分を受けるということになりかねない。早く公開させたいときは、「理由の記載がなく違法だ」という指摘をしつつ、「非公開事由にも該当しない」という主張をして、裁判所には「後者を主な争点にするつもりだ」と答えればよい。
Aどの部分が6号に該当するのか、どの部分が7号に該当するのかについての説明がまったくない。請求者にも裁判官にも実際にどのような事項が記載されているのか正確な理解ができない。
まず文書の書式や記載事項を具体的に明らかにする必要がある。

B条文へのあてはめ
神戸市条例の考え方(1条)からして、非公開の解釈運用は例外的、厳格に。被告側が主張立証できないかぎり、非公開処分は取り消されなければならない。

(1)6号「市の内部又は市と国等との間における審議、検討、調査、研究等の意思形成過程に関する情報であって、公にすることにより、公正かつ適切な意思形成に著しい支障を生じると認められるもの」
「情報」に該当するか。 ⇒ 非公開決定通知書には「上記の情報は、予算等についての審議、検討等の意思形成過程に関する情報であって、公にすることにより・・」とあるが、条文への当てはめをきちんとやっていることを記載上明らかにするには、「上記の情報は、予算等についての審議、検討等の意思形成過程に関する情報であって、6号の『市の内部における審議の意思形成過程に関する情報』に該当する」と書くべきだ。
問題は6条後段の解釈と当てはめ。条文を丸写ししているだけで、どのように解釈し、その結果として6条後段に当てはまる、という説明を全くしていない。
「公正かつ適切な意思形成」とは何か。「公正」は本来公開されてこそ客観的に担保されるもの。公開されないことが「公正」を担保するというのは例外的。例えば試験の解答を事前に公開しないこと。情報公開することこそが「市民の市政への信頼と理解を深め」るという観点に立っていることからすると、閉鎖的な議論こそが「適切な意思形成」だと言うのは無理がある。
「著しい支障を生じると認められる」か。閉鎖的な議論がやりにくいということは、情報公開制度の運用を限定すべき「支障」にはならない。

(2)7号「市又は国等が行う取締り、監督、立入検査、争訟、許可、認可、試験、交渉、渉外、入札、人事その他の事務事業に関する情報であって、公にすることにより、当該又は将来の事務事業の目的を損ない、又は公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生じ、若しくは生じるおそれがあると認められるもの」
これは条文自体としても悪文だ。特に後段は「当該又は将来の」とか「損ない、又は」とか「公正若しくは円滑な」とか「生じ、若しくは生じるおそれ」と、いろいろな悪影響の内容と程度を考えているので、非公開処分をするときには、当てはめをちゃんとやってくれないと、通知を受け取った側はどういうことなのかさっぱりわからないということになってしまう。
「情報」に該当するか。 ⇒ 「取締り」から「人事」までには該当しない。「その他の事務事業」に該当するかどうかについては疑問がある。「取締り」から「人事」までの例示がいずれも特定の人の利害に関係する事項であるのに対して、本件は予算案関連の文書であって特定の人の利害には関係していないからである。「その他の事務事業」に該当するという解釈をしたとしても後段の該当性が問題になる。
本件の場合、非公開決定通知書の非公開理由欄で7条後段への当てはめをちゃんとやっていないので、以下のような疑問が出て来る。
・本件において「当該事務事業の目的を損なうと認められる」とはどういうことか。
・本件との関連で「将来の事務事業の目的を損なうと認められる」とはどういうことか。
・本件において「当該事務事業の公正な執行に著しい支障を生じると認められる」とはどういうことか。
・本件との関連で「将来の事務事業の公正な執行に著しい支障を生じると認められる」とはどういうことか。
・本件において「当該事務事業の円滑な執行に著しい支障を生じると認められる」とはどういうことか。
・本件との関連で「将来の事務事業の円滑な執行に著しい支障を生じると認められる」とはどういうことか。
・本件において「当該事務事業の公正な執行に著しい支障を生じるおそれがあると認められる」とはどういうことか。
・本件との関連で「将来の事務事業の公正な執行に著しい支障を生じるおそれがあると認められる」とはどういうことか。
・本件において「当該事務事業の円滑な執行に著しい支障を生じるおそれがあると認められる」とはどういうことか。
・本件との関連で「将来の事務事業の円滑な執行に著しい支障を生じるおそれがあると認められる」とはどういうことか。
実施機関(被告)側はこれらのうちのどれに該当するのかをまず説明する必要がある。被告がちゃんと答えないのであれば、裁判所から求釈明すべきだ。
3 裁判官に分かりやすくするために
 計画書・事業説明書の公開の必要性を説明する。
 計画書・事業説明書がある程度概括的であることは仕方ない。しかし実際はそのような次元ではなく、杜撰なもの、いい加減なもの、無責任なものがたくさんある。そういう計画は将来自治体に重大な経済的損害をもたらすおそれがある。損害は住民の税負担増、住民サービスの低下につながる。住民の目から問題のある計画を排除する。
 これからの地方自治体の運用は、地方分権と住民参加(「あれもこれも」から「あれかこれか」への変化)。住民参加は住民の責任であり、住民参加が有効に機能するには十分な情報を住民に提供することが必要不可欠である。
 他の自治体では公開が進んでいる事実を指摘し、公開することで行政実務に支障がないことを説明する。
2001・5・12 情報公開市民センター・清水 勉(弁護士)