2003年11月22日
情報公開市民センター
 
  安かろう、悪かろうではない低価格入札
  直轄工事は5千8百億円も節減可能か
−国土交通省 02年度「低入札価格調査」の分析
 
情報公開市民センターは、国土交通省が2002年度(平成14年度)に実施した直轄工事の入札のうち、低価格入札であるとして地方整備局(北海道開発局を含む)が調査を行った入札の調査結果を、情報公開請求などによって入手しその内容を調べた。(港湾空港関係を除く)
当センターが入手したのは279件で、調査が行われた低価格入札の全数496件に対するカバー率は56.3%である。(表1参照)

判明した主な事項は次のとおりである。

1.失格業者の有無 最低価格の入札業者が失格となったのは1件もなく、すべてが調査の結果、工事履行に問題はないなどとされて落札している。(同一価格入札の2社のうち1社が落札したものが2件ある。)
2.平均落札率 予定価格に対する落札価格の率(=落札率)は、平均で70.3%である。(表3参照) 
3.落札率の分布 落札率(分布状況は表5参照)が最も低い入札は北陸地方整備局の土捨場整備工事で、予定価格1千1百万円、落札価格5百万円(落札率43.9%)であった。落札率が40%台の工事が上記のものを含めて8件あった(予定価格はいずれも1億円以下)。落札率が50%台の工事は26件で、その中に巨額工事として予定価格19億円、落札価格9.85億円(落札率51.7%)の関東地方整備局の県道新設工事がある。そのほか予定価格1〜3億円のものが5件あった。
4.巨額の入札工事 上記の工事は予定価格が最大のものであるが、落札価格が最大の低価格入札は予定価格18億円、落札価格12.5億円(落札率69.0%)の中部地方整備局の高架橋工事である。
5.整備局別の特徴 整備局別では近畿地方整備局は低入札価格調査の件数がもっとも多く、その落札率も平均65.3%で、全国平均よりも5ポイント低い。(表2参照)
 
(参考)01年度の低入札価格調査結果
当センターは01年度分についてもデータを100件入手し分析した。(カバー率は26%) 判明した主な事項は次のとおりである。

1.低価格入札による失格業者が1件あった。近畿地方整備局の予定価格2,559万円の歩道整備工事で、2番札の業者が調査のうえ落札価格850万円(落札率33.2%)で落札した。
2.平均落札率は69.0%であった。(01,02年度を合わせた平均は69.9%)
3.巨額の低価格入札として、予定価格15.1億円、落札価格9.2億円(落札率60.9%)の中部地方整備局の地下駐車場機械設備工事があった。
 
情報公開市民センターの見解
国交省の直轄工事の全件についての平均落札率は、国交省の外郭団体である建設情報総合センター(JACIC)の統計によると約95.5%である。(表4参照)
多くの入札で落札率が高止まりしていることは、談合が行われていることの証左であること、また談合をなくすことができれば工事契約金額を75%から85%に削減できることは、日弁連の委員会(入札制度改革に関する提言と入札実態調査報告書 01年2月)、長野県の公共工事入札等適正化委員会(浅川ダム入札談合調査報告書 03年1月)、その他談合問題の専門家・識者によって指摘されているところである。
当センターは今回の調査で次のことが明らかになったと考える。
1.国交省の直轄工事は、談合によって落札率が高く維持されているが、一部の入札では、談合がなく競争が行われたもの、および談合破りが行われたものがある。(表6に典型例を表示) 低入札価格調査の対象となった入札がその代表例である。競争が行われれば落札率が大幅に低下することが示された。
2.国交省が低入札価格調査で出した結論で示しているように、予定価格より大幅に低い入札価格は、ダンピングによる不当なものでなく、入札業者の努力によるものである。工事の発注は本来、これらの入札のように、競争によって行われるべきであり、落札価格も業者の努力による競争力のある水準であるべきである。
3.国交省の予定価格は高く設定されすぎている。予定価格を積算・設定する基準を根本的に改めるべきである。
4.談合をなくせば、国交省の直轄工事を年に5千8百億円節減することができる。
国交省地方整備局の直轄工事契約金額合計は2兆3千069億円(JACICのデータ)である。これが低入札価格調査対象工事の平均落札率70.3%にまで25.2ポイント(全直轄工事の落札率95.5%マイナス70.3%)低減されると、年間の直轄工事削減額は5,813億円になる。
 
添付資料
表1 センターが入手した「低入札価格調査」の件数
表2 センター調査のカバー率
表3 予定価格を100%とした低価格入札の落札率の平均値
表4 直轄工事全件の落札率の平均値
表5 落札率の分布(予定価格帯別)
表6 入札額の典型例(談合タイプ別)
 
(参考)資料入手方法
1.国交省の直轄工事は、全国の9地方整備局(北海道は北海道開発局)とその管内の工事事務所(北海道は開発建設部)で大半の入札・発注が行われている。低入札価格調査もそれぞれの整備局・工事事務所で行われる。当センターは9地方整備局に2001年度と02年度の「低入札価格調査の実施概要」とその工事の「入札調書」を情報公開請求した。工事事務所の数が多く、どの整備局も工事事務所ごとでの請求しか受け付けないため、対象を整備局本局と、年度ごとに各整備局管内で調査件数が一番多い工事事務所1ヵ所(北海道は2ヵ所)に絞って請求した。
2.関東地方整備局については、本局分は閲覧室で閲覧し入手した。また国交省のホームページに掲載されている入札調書を閲覧し、低入札価格調査が行われた6件分も加えた。
3.02年度については関東、北陸、中部、四国、九州の5地方整備局がホームページで低入札価格調査対象工事のリストの掲載を始めたので、そのデータも利用した。
4.建設情報総合センター(JACIC)のデータはホームページ掲載の統計によった。同統計の01年度分は北海道開発局を含んでいない。