大阪府知事交際費最高裁判決
平成13年3月27日 第三小法廷判決 平成8年(行ツ)第210号,第211号 行政処分取消請求事件
解説 弁護士 清水 勉
【経  過】
 1985年(昭和60年),大阪府の住民が大阪府知事に対して,知事交際費に関する会計帳簿類の情報公開請求をした。交際相手の氏名や支出金額などの部分が,条例8条4号(意思形成過程情報),5号(業務執行情報),9条1号(プライバシー情報)に該当するとして非公開となった。
 住民は異議申立をしたが認められなかったので提訴した。一審・大阪地裁判決(1989年(平成元年)3月14日(裁判官:山本矩夫・及川憲夫・徳岡由美子)。判例時報1309号3頁以下)は原告の請求を全面的に認め,二審・大阪高裁判決(1990年(平成2年)10月31日(裁判官:中川臣朗・長門栄吉・諸賀恒雄)。判例時報1366号18頁以下)も同様だった。ところが,94年(平成6年),第一次上告審判決(1994年1月27日(裁判官:大堀誠一・味村 治・小野幹雄・三好 達・大白 勝)。判例時報1487号32頁以下)は広範な非公開を認める基準を示して破棄差戻し。大阪高裁判決(1996年(平成8年)6月25日(裁判官:井関正裕・河田 貢・佐藤 明)判例タイムズ911号279頁以下)はそれでも極力公開範囲を広げようとした。
 そして今年3月27日,第二次上告審判決(裁判官:千種秀夫・元原利文・金谷利廣・奥田昌道)に辿り着いた。
【問題点】
@ 第一次上告審判決が示した「相手方の氏名等の公表,披露が当然予定されているような場合」のみに相手方の氏名等を公開してよいという基準を確認した上で,多くの文書の相手方氏名の非公開処分を是認した。但し,第二次上告審判決は,現実社会で首長交際費の情報公開が進んでしまっていることを意識して,「第2次上告審である当裁判所は,第1次上告審のこの法律上の判断に拘束さえるのであって」(10頁)と苦しい弁解をしている。
A 「独立した一体的な情報」についての部分公開は実施機関の裁量判断であって,権利として請求することはできないという新たな見解を示し,歳出額現金出納簿,支出証明書,領収書,請求書兼領収書は部分公開しなければならないものではないと判断した。
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判決要旨:
1 住民の直接の賠償請求を廃止する制度根幹の改変
 1 交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関する情報は,大阪府公文書公開等条例所定の非公開事由に該当しない
 2 大阪府公文書公開等条例の部分公開に関する規定に基づき,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部のみを非公開とし,その余の部分を公開すべきものとすることはできない
内容:
件名 行政処分取消請求事件(最高裁判所平成8年(行ツ)第210号,第211号平成13年3月27日第三小法廷判決,一部棄却,一部破棄自判) 原審 大阪高等裁判所(平成6年(行コ)第7号)
主    文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 平成8年(行ツ)第210号上告人・同第211号被上告人の平成8年(行ツ)第210号被上告人・同第211号上告人株式会社岩崎経営センター並びに同熊野実夫,同小坂静夫,同川端悦子及び同植田肇に対する昭和60年10月29日付け各公文書非公開決定処分のうち原判決添付別紙知事交際費使途別一覧表記載の番号10ないし29,47ないし54,73ないし75の情報が記録されている歳出額現金出納簿中の部分及び上記情報が記録されている領収書を非公開とした部分を取り消す。
(2) 平成8年(行ツ)第210号被上告人ら・同第211号上告人らのその余の請求を棄却する。
2 平成8年(行ツ)第210号上告人のその余の上告を棄却する。
3 平成8年(行ツ)第211号上告人らの上告を棄却する。
4 訴訟の総費用は,これを5分し,その3を平成8年(行ツ)第210号被上告人ら・同第211号上告人らの負担とし,その余を平成8年(行ツ)第210号上告人・同第211号被上告人の負担とする。
理    由
 第1 平成8年(行ツ)第210号上告代理人井上隆晴,同青本悦男,同細見孝二,同飯尾慎太郎,同阪口嘉洋,同礒村勉,同永山光義,同田中克博の上告理由(五を除く)及び平成8年(行ツ)第211号上告代理人辻公雄,同森谷昌久,同松尾直嗣,同加藤高志,同井関和雄,同赤津加奈美の上告理由について
 1 本件は,平成8年(行ツ)第210号被上告人ら・同第211号上告人ら(以下「1審原告ら」という。)が昭和60年10月14日大阪府公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号。以下「本件条例」という。なお,本件条例は平成11年大阪府条例第39号により全部改正された。)に基づき本件条例の実施機関である平成8年(行ツ)第210号上告人・同第211号被上告人(以下「1審被告」という。)に対し昭和60年1月ないし3月に支出した大阪府知事の交際費についての公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求したところ,1審被告は,同年10月29日,同請求に対応する公文書としては経費支出伺,支出命令伺書,債権者の請求書,領収書等の交際費の執行の内容を明らかにした文書及び歳出予算差引表がこれに当たるとし,そのうち経費支出伺,支出命令伺書及び歳出予算差引表についてはこれを公開する旨の決定をし,歳出額現金出納簿,支出証明書,債権者の領収書及び請求書兼領収書(以下,これらを「本件文書」という。)については,そこに記録されている情報が本件条例8条1号,4号,5号及び9条1号に該当するとして,これを公開しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をしたため,1審原告らが本件処分の取消しを求めた事案である。
 第1審は,本件文書には本件条例8条1号,4号,5号,9条1号のいずれかに該当する情報は記録されていないとして,本件処分をすべて違法として取り消し,第1次控訴審もこれを支持して1審被告の控訴を棄却した。しかし,第1次上告審は,第1次控訴審の上記判断のうち本件文書に本件条例8条1号に該当する情報が記録されていないとした部分は是認したものの,同条4号,5号,本件条例9条1号に該当する情報が記録されていないとした部分には法令の解釈適用を誤った違法があるとして,第1次控訴審判決を取り消し,本件文書に記録された情報が本件条例8条4号,5号,9条1号に該当するか否かについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻した(最高裁平成3年(行ツ)第18号同6年1月27日第一小法廷判決・民集48巻1号53頁。以下「第1次上告審判決」という。)。
 2 第2次控訴審である原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 本件条例8条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,公文書の公開をしないことができる。」と定めており,その4号には,「府の機関又は国等の機関が行う調査研究,企画,調整等に関する情報であって,公にすることにより,当該又は同種の調査研究,企画,調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」,その5号には,「府の機関又は国等の機関が行う取締り,監督,立入検査,許可,認可,試験,入札,交渉,渉外,争訟等の事務に関する情報であって,公にすることにより,当該若
しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの」と規定されている。また,本件条例9条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,公文書の公開をしてはならない。」と定めており,その1号には,「個人の思想,宗教,身体的特徴,健康状態,家族構成,職業,学歴,出身,住所,所属団体,財産,所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され得るもののうち,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」と規定されている。
 (2) 大阪府知事の交際費の支出は,議会が議決した予算の範囲内で,資金前渡の方法により,経費支出伺,支出命令伺書によって毎月一定額の現金の前渡しを受け,これを資金前渡職員である知事室秘書課長が保管し,必要に応じて支払に充てるものとされていた。交際費の支出の基準について明確にしたものはなく,知事は,支出の要否及びその金額について,秘書課長らの意見を聞き,交際の相手方と府とのかかわり合いの濃淡,府に対する貢献度の大小をしんしゃくし,過去の例なども参考にして,その都度これを決定していた。
 (3) 大阪府知事は,昭和60年1月から3月までの間に原判決添付別紙知事交際費使途別一覧表の番号(以下「番号」という。)1ないし75の合計75件の交際費(以下「本件交際費」という。)を支出した。本件交際費のうち番号1ないし57の交際費に係る交際の相手方は個人であり,番号58ないし75の交際費に係る交際の相手方は法人その他の団体(以下「団体」という。)であるが,当該団体の中に会社は含まれていない。本件交際費の支出項目等は,番号1ないし9が祝金,番号10が生花料,番号11ないし29が供花料,番号30ないし46が香料,番号47ないし54がしきみ料,番号55及び56が見舞い,番号57が懇談会,番号58ないし63が祝金,番号64及び65がせん別,番号66ないし71が賛助金,番号72が援助金,番号73ないし75が会費である。その内容は,次のとおりである。
 ア 個人に対する祝金
 番号1及び2は大阪府政に協力,貢献した個人に対する出版祝い,番号3は大阪府政運営に協力した大学教授の退官祝い,番号4及び5は国会議員主催の会合に対する祝金,番号6及び7は公職選挙法所定の公職への当選祝い,番号8及び9は大阪府以外の都道府県の特別職(知事,副知事,出納長)への就任祝いである。これらのうち番号6及び7の交際費は物品の代金であり,交際の相手方には当該物品が贈られたが,その余はすべて交際の相手方に金銭が贈られた。
 イ 生花料,供花料,香料及びしきみ料
 番号10ないし54はいずれも交際の相手方に対し弔意を表すために贈られた生花,供花若しくはしきみの代金又は香料であり,このうち生花は死亡した公務員を弔問に訪れた際に持参したものである。これらの供花料としきみ料は地域の実情に合わせて決定され,その金額は一律でなく,また,香料もその金額は一律でなく,数万円のものから10万円を超えるものまで様々であった。供花,香料,しきみのいずれを贈るかは,大阪府とのかかわり合いで決められ,香料を基本として供花やしきみが付け加えられ,これらのすべてが贈られた事例も2件存した。
 ウ 見舞い
 番号55及び56は個人に対する見舞いの品の代金であり,交際の相手方にはその品が贈られた。
 エ 懇談会
 番号57は政財界人と意見を交換するための懇談会に係る知事1人分の負担費用である。
 オ 団体に対する祝金
 番号58ないし60は政界関係者の後援会,懇談会に知事が出席した際の祝金,番号61ないし63は報道出版関係法人,府民団体及び法曹関係団体に対する周年記念の祝金であり,これらはいずれも交際の相手方に金銭が贈られた。
 カ せん別,賛助金及び援助金
 番号64及び65は労働関係団体の海外調査団に対しせん別として金銭を贈ったものであり,その団体に大阪府の職員や議会関係者は関係していない。番号66,67,69ないし71は報道出版関係法人に対する賛助金,番号68は労働組合ではない労働関係団体に対する賛助金,番号72は府民団体に対する援助金である。これらのせん別,賛助金及び援助金は,相手方の活動の趣旨等によりその必要性や効果等を個別的に検討して決定される性格のものである。また,これらの賛助金及び援助金については,相手方から賛助又は援助の依頼があった。
 キ 会費
 番号73は知事がポスト指定として会員になっている官庁関係連絡会の会費,番号74は知事がポスト指定として会員になっている社団法人の会費,番号75は官庁関係団体の会費であり,これらの団体に知事が関係していることは特に秘密になっていない。
 (4) 本件交際費のすべてについて歳出額現金出納簿に記録があるほか,番号1ないし5,8,9,30ないし46,58ないし61,63ないし65の各交際費については支出証明書が存在し,番号6,7,10ないし29,47ないし56の各交際費については各物品の販売業者作成の領収書が存在し,番号62,66ないし75の各交際費については交際の相手方である団体が発行した領収書が存在し,番号57の交際費については当該懇談会の主催者が作成した請求書兼領収書が存在する。歳出額現金出納簿は,現金の出納状況を,年月日,摘要,金員の受払とその残額とに分けて記録したものであり,摘要欄には各交際費の使途と交際の相手方の氏名等が記録されている。本件交際費のうち番号57を除く各交際費については摘要欄に交際の相手方の氏名等が記載され,番号57の交際費については当該懇談会の主催者の団体名が記載されている。支出証明書は,祝金,香料等領収書が得られないような支出について,府の職員が支出年月日,支出金額,支出の相手方,支出の目的等を記録した書類であり,決まった様式はない。上記領収書のうち販売業者作成の領収書には,領収年月日,領収金額,物品名等が記載されているほか,交際の相手の氏名等が記載されたものもあり,もともと相手方の氏名等が記載されていなかったものには府の担当者によりメモ書き等の形で相手方の氏名等が記録されている。上記請求書兼領収書には主催者の団体名が記録されているほか,府の担当者によりメモ書きの形で交際の相手方である出席者の氏名が記載されている。
 3 第1次上告審は,次の理由により,本件文書に記録された本件交際費に関する情報はすべて本件条例8条4号,5号,9条1号に該当しないとした第1次控訴審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があるとした。
 (1) 知事の交際は,懇談については本件条例8条4号の企画,調整等の事務(以下「企画調整等事務」という。)又は同条5号の交渉,渉外,争訟等の事務(以下「交渉等事務」という。)に,その余の慶弔等については同号の交渉等事務にそれぞれ該当するから,これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか否かは,これらの情報を公にすることにより,当該若しくは同種の交渉等事務としての交際事務の実施の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か,又は当該若しくは同種の企画調整等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定される。
 (2) 知事の交際事務は,相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものであるところ,相手方の氏名等の公表,披露が当然予定されているような場合等は別として,相手方を識別し得るような文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされることになれば,懇談については,相手方に不快,不信の感情を抱かせ,今後府の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ,また,一般に,交際費の支出の要否,内容等は,府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるという性質を有するものであることから,不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。そのような事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損なうおそれがあり,交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに,これらの交際費の支出の要否やその内容等は,支出権者である知事自身が,個別,具体的な事例ごとに,裁量によって決定すべきものであるところ,交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,知事においても上記のような事態が生ずることを懸念して,必要な交際費の支出を差し控え,あるいはその支出を画一的にすることを余儀なくされることも考えられ,知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって,本件文書のうち交際の相手方が識別され得るものは,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって上記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き,懇談に係る文書については本件条例8条4号又は5号により,その余の慶弔等に係る文書については同条5号により,公開しないことができる文書に該当する。
 (3) 本件における知事の交際は,それが知事の職務としてされるものであっても,私人である相手方にとっては,私的な出来事といわなければならない。本件条例9条1号は,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが,知事の交際の相手方となった私人としては,懇談の場合であると慶弔等の場合であるとを問わず,その具体的な費用,金額等までは一般に他人に知られたくないと望むものであり,そのことは正当であると認められる。そうすると,このような交際に関する情報は,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものを除いては,同号に該当するというべきである。したがって,本件文書のうち私人である相手方に係るものは,相手方が識別できるようなものであれば,原則として,同号により公開してはならない文書に該当する。 4 原審は,本件文書に記録された本件交際費に関する情報はすべて交際の相手方が識別できるものであるところ,本件交際費に関する情報のうち,番号10の生花料,番号11ないし29の供花料,番号47ないし54のしきみ料,番号73ないし75の会費,番号4,5,58ないし60の祝金(会合祝い)及び番号61ないし63の祝金(周年祝い)に関する情報は,いずれも本件条例8条4号,5号,9条1号に該当しないが,番号1ないし3,6ないし9の祝金に関する情報は本件条例8条5号に該当し,番号30ないし46の香料及び番号55,56の見舞いに関する情報は本件条例9条1号に該当し,番号57の懇談会に関する情報は本件条例8条4号又は5号に該当し,番号64,65のせん別及び番号66ないし72の賛助金,援助金に関する情報は同条5号に該当するとした。
 5 1審原告らの所論は,各地方公共団体における知事交際費の公開に関する事例等を根拠に,第1次上告審判決の前記3の法律上の判断を修正すべきである旨主張するが,第2次上告審である当裁判所は,第1次上告審のこの法律上の判断に拘束されるのであって,1審原告らの論旨中第1次上告審判決が破棄理由とした上記法律上の判断の違法をいう部分は採用することができない。そして,第1次上告審判決の上記法律上の判断に従って検討すると,原審の上記判断のうち,本件文書に記録された本件交際費に関する情報はすべて交際の相手方が識別できるものであるとした部分,本件交際費に関する情報のうち番号10の生花料,番号11ないし29の供花料,番号47ないし54のしきみ料及び番号73ないし75の会費に関する情報が本件条例8条4号,5号,9条1号に該当しないとした部分,番号1ないし3,6ないし9の祝金に関する情報が本件条例8条5号に該当し,番号30ないし46の香料及び番号55,56の見舞いに関する情報が本件条例9条1号に該当し,番号57の懇談会に関する情報が本件条例8条4号又は5号に該当し,番号64,65のせん別及び番号66ないし72の賛助金,援助金に関する情報が同条5号に該当するとした部分は是認することができるが,番号4,5,58ないし60の祝金及び番号61ないし63の祝金に関する情報がいずれも同号に該当しないとした部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 第1次上告審判決は,知事の交際事務に関する情報で交際の相手方が識別され得るものであっても,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって交渉等事務としての知事の交際事務の目的が達成できなくなり,又は企画調整等事務や交渉等事務としての知事の交際事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められないようなものは,例外として本件条例8条4号,5号に該当しないとするものである。そして,同判決にいう「相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているもの」とは,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関する情報を意味し,同判決は,このような情報は,相手方の氏名等を公表することによって知事の交際事務の目的が達成できなくなり,又は知事の交際事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められないとして,同条4号,5号に該当しない旨を判示したものというべきである。したがって,このような交際に該当するか否かは,当該交際が,その行われる場所,その内容,態様その他諸般の事情に照らして,その相手方及び内容がそれを知られることがもともと予定されている特定の関係者以外の不特定の者に知られ得る性質のものであるか否かという観点から判断すべきである。そうであれば,知事と相手方との交際の事実そのものは不特定の者に知られ得るものであっても,支出金額等,交際の内容までは不特定の者に知られ得るものとはいえない情報は,上記の「相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているもの」に当たるということはできず,他に相手方の氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないような事情がない限り,同条4号又は5号に該当するものと解されるのであって,このことは,知事の交際事務に関する情報であって交際の相手方が識別され得るものが原則として非公開とされる上記の趣旨に照らしても明らかである。
 また,第1次上告審判決は,知事の交際に関する情報であって,交際の相手方が識別され得るもののうち,私人である相手方に係るものは,原則として本件条例9条1号に該当するが,その交際の性質,内容等からして,交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものは,例外として同号に該当しないとするものである。そして,同判決にいう「その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているもの」とは,交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関する情報を意味し,「私人である相手方に係るもの」とは,相手方が公務員であると否とを問わず,当該交際が当該相手方にとって私的な出来事であるものを意味するというべきである。
 もっとも,知事の交際事務に関する情報であって本件条例9条1号に該当するものについては,実施機関は,当該情報が記録されている公文書の公開をしてはならず,当該情報をみだりに公にすることのないように最大限の配慮をしなければならないものとされているが(本件条例5条),本件条例8条4号又は5号に該当するにすぎないものについては,実施機関は当該情報が記録されている公文書の公開をしないことができるとされているにすぎず,実施機関において,住民等の公文書の公開を求める権利が十分に保障されるように条例を解釈し運用しなければならないとする本件条例3条の趣旨をも踏まえて,その裁量判断によりこれを任意に公開することは,本件条例の許容するところであり,また,本件条例9条1号に該当するものが記録されている公文書についても,後に説示するとおり,実施機関において,上記の趣旨をも踏まえて,同号に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分のみを非公開としその余の部分を公開するといった態様の部分公開を任意に行うことは,本件条例の許容するところと解されるところである。したがって,住民等の公文書の公開請求に対し,実施機関において,その裁量判断により,本件条例8条4号又は5号に該当する情報が記録されている公文書を公開することはもとより,上記のとおり,本件条例9条1号に該当する独立した一体的な情報が記録されている公文書のうち特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除いたその余の部分を公開することも,本件条例に違反するものとはいえない。しかしながら,実施機関による上記のような運用が広く行われているとしても,そのことから直ちに当該条例の解釈として住民等が実施機関に対し上記のような公文書の公開ないし部分公開を請求する権利が付与されているとすることはできないのであって,このような権利を付与するか否かは専ら各地方公共団体がその条例において定めるべき事柄であり,上記のような規定を有するにすぎない本件条例の下においては,その規定を改めない限り,住民等に上記のような権利が付与されていると解することはできないといわざるを得ないのである。
(2) そこで,以下,本件文書に記録された昭和60年1月ないし3月の支出に係る本件交際費に関する情報のそれぞれについて,以上説示したところに従い,これらが本件条例8条4号,5号,9条1号に該当するか否かを判断する。
 ア 個人に対する祝金
 (ア) 番号1ないし3,8,9の祝金
 前記2(3)アの事実関係によれば,番号1,2の出版祝いに係る祝金,番号3の退官祝いに係る祝金及び番号8,9の就任祝いに係る祝金については,祝金の贈呈の事実やその内容(具体的金額)が一般に披露されるようなものであったとは考えられず,祝金贈呈の事実又は少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえない。そうすると,これらの祝金に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないようなものということはできない。したがって,これらの情報は本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 (イ) 番号4,5の祝金
 上記事実関係によれば,番号4,5の祝金は知事が国会議員主催の会合に対して贈ったものであって,当時この種の祝金の金額は府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されていたものと思われる。そうすると,これらの祝金の額が主催者の定めた会費相当額であったとの立証もない本件においては,たといこれらの祝金が知事が当該会合に出席した際に会費を支払わない代わりに贈ったものであって,知事がそのような会合に出席すること自体は秘密でないとしても,これらの事実のみからは,少なくともこれらの祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったというに足りない。したがって,これらの祝金に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,同様に,本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 (ウ) 番号6,7の祝金
 番号6,7の当選祝いについても,当選祝いとして物品を贈呈したという上記事実関係のみからは,当時これらに係る知事の交際がその相手方又はその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものというに足りず,これらの交際費に関する情報は,同様に,本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 イ 生花料,供花料,香料及びしきみ料
 (ア) 生花料,供花料及びしきみ料
 前記2(3)イの事実関係によれば,番号10の生花,番号11ないし29の供花及び番号47ないし54のしきみは,いずれも知事が交際の相手方に対し弔意を表すために贈ったものであるところ,これらの生花等は,葬儀に際し知事の名を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり,また,これらを見ればそのおおよその価格を知ることができるものである。そうすると,これらの生花等の贈呈の事実及びその内容が不特定の者に知られ得るものであったということができるから,これらの生花等に係る知事の交際は,その相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということができる。したがって,これらの交際に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものとして,本件条例8条5号に該当しないというべきである。また,これらの生花等に係る知事の交際事務は同条4号の企画調整等事務に当たらないから,これらの交際に関する情報は同号にも該当しない。さらに,以上説示したところによれば,これらの情報は,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものということができるから,本件条例9条1号にも該当しないというべきである。
 (イ) 香料
 香料に係る知事の交際は,その相手方にとって私的な出来事というべきである。そして,香料は,葬儀の際に一般参列者等にこれが贈られた事実やその具体的金額が披露されるようなものではなく,また,供花等が知事の名を付して飾られたことにより知事から香料が贈られた事実も合わせて一般参列者に知られるところとなったとしても,その具体的金額までが知られることは通常は考えられず,上記事実関係によってもそのようにいうことはできない。そうすると,香料贈呈の事実又は少なくともその具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえないから,これらの香料に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,その交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものということはできない。したがって,番号30ないし46の香料に係る知事の交際に関する情報は本件条例9条1号に該当するものというべきである。
 ウ 見舞い
 見舞いに係る知事の交際は,その相手方にとって私的な出来事というべきであり,交際の性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものということはできず,前記2(3)ウの事実関係によってもそのようにいうことはできない。したがって,番号55,56の見舞いに係る知事の交際に関する情報は本件条例9条1号に該当するものというべきである。
 エ 懇談会
 前記2(3)エの事実関係によれば,番号57の懇談会は政財界人と意見を交換するためのものであったというのであり,この事実のみからは,知事がこの懇談会に出席してその費用を負担した事実又は少なくともその具体的負担額が不特定の者に知られ得るものであったとは通常は考えられない。そうすると,それ以上の立証を欠く本件においては,この懇談会に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,この交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないようなものということはできない。したがって,この情報は本件条例8条4号又は5号に該当するものというべきである。
 オ 団体に対する祝金
 (ア) 番号58ないし60の祝金
 前記2(3)オの事実関係によれば,番号58ないし60の祝金は知事が政界関係者の後援会,懇談会に対して贈ったものであって,当時この種の祝金の金額は府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されていたものと思われる。そうすると,これらの祝金の額が主催者の定めた会費相当額であったとの立証もない本件においては,たといこれらの祝金が知事が当該後援会等に出席した際に会費を支払わない代わりに贈ったものであって,知事がそのような会合に出席すること自体は秘密でないとしても,これらの事実のみからは,少なくともこれらの祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったというに足りない。したがって,これらの祝金に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないようなものということはできない。そうであるとすれば,これらの情報は本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 (イ) 番号61ないし63の祝金
 上記事実関係によれば,番号61ないし63の祝金は報道出版関係法人,府民団体及び法曹関係団体に対する周年記念の祝いとして贈ったものというのであるが,これらの祝金は,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露されるようなものであるとは考えられず,祝金贈呈の事実又は少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえない。そうすると,これらの祝金に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものということはできない。また,上記のような祝金の趣旨や相手方である団体の性格にかんがみても,上記事実関係のみからは,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないような事情があるということもできない。したがって,これらの情報は本件条例8条5号に該当するものというべきである。
 カ せん別,賛助金及び援助金
 前記2(3)カの事実関係によれば,番号64,65のせん別,番号66ないし71の賛助金,番号72の援助金は,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露されるようなものであるとは考えられず,せん別等の贈呈の事実又は少なくともそれらの具体的金額が不特定の者に知られ得るものであったとはいえない。そうすると,これらのせん別等に係る知事の交際は,少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないようなものということはできない。したがって,これらの情報は本件条例8条5号に該当するというべきである。
 キ 会費
 前記2(3)キの事実関係によれば,知事が番号73ないし75の会費を支払った事実は一般に知られ得る状態にあったものということができ,また,これらの会費の額はその相手方である当該団体が定めるものであって,知事が府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定するものではないと考えられる。そうすると,これらの会費に係る知事の交際に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記(1)のおそれがあるとは認められないようなものということができる。したがって,これらの情報は本件条例8条5号に該当しないというべきである。また,これらの会費に係る交際事務は同条4号の企画調整等事務に当たらないから,これらの交際に関する情報は同号にも該当しない。さらに,これらの交際の相手方は団体であって,特定の個人が識別され得る情報ということはできないから,本件条例9条1号にも該当しない。
6 以上によれば,原審の前記判断中,本件交際費に関する情報のうち番号10の生花料,番号11ないし29の供花料,番号47ないし54のしきみ料及び番号73ないし75の会費に関する情報が本件条例8条4号,5号,9条1号に該当しないとした部分は,正当として是認することができ,この部分に関する1審被告の論旨は採用することができない。また,原審の前記判断中,本件交際費に関する情報のうち番号1ないし3,6ないし9の祝金に関する情報が本件条例8条5号に該当し,番号30ないし46の香料及び番号55,56の見舞いに関する情報が本件条例9条1号に該当し,番号57の懇談会に関する情報が本件条例8条4号又は5号に該当し,番号64,65のせん別及び番号66ないし72の賛助金,援助金に関する情報が同条5号に該当するとした部分も,正当として是認することができ,この部分に関する1審原告らの論旨は採用することができない。しかしながら,原審の前記判断中,本件交際費に関する情報のうち番号4,5,58ないし60の祝金及び番号61ないし63の祝金に関する情報がいずれも同号に該当しないとした部分には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。この部分に関する1審被告の論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち番号4,5,58ないし63の交際費に関する情報が記録されている歳出額現金出納簿中の部分,番号4,5,58ないし61,63の交際費に係る支出証明書,番号62の交際費に係る領収書についてこれを非公開とした部分に違法はないというべきであるから,この部分については第1審判決を取り消して1審原告らの請求を棄却すべきである(なお,これらの文書について本件条例10条に基づき交際の相手方の氏名等が記録されている部分以外の部分を公開しなければならないものと解することができないことは,次に説示するとおりである。)。
 第2 平成8年(行ツ)第210号上告代理人井上隆晴,同青本悦男,同細見孝二,同飯尾慎太郎,同阪口嘉洋,同礒村勉,同永山光義,同田中克博の上告理由五について
 1 本件条例10条は,「実施機関は,公文書に次に掲げる情報が記録されている部分がある場合において,その部分を容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,その部分を除いて,当該公文書の公開をしなければならない。」と定め,その1号には,「第8条各号のいずれかに該当する情報で,当該情報が記録されていることによりその記録されている公文書について公文書の公開をしないこととされるもの」,その2号には,「前条各号のいずれかに該当する情報」と規定されている。
 原審は,番号1ないし3,6ないし9,30ないし46,55ないし57,64ないし72の交際費に関する情報が記録されている歳出額現金出納簿中の部分,番号1ないし3,8,9,30ないし46,64及び65の交際費に係る支出証明書,番号6,7,55,56,66ないし72の交際費に係る領収書,番号57の交際費に係る請求書兼領収書について,交際の相手方の氏名等交際の相手方に関する記載部分を除いた部分は本件条例8条4号,5号,9条1号により公開しないことができるものとは認められないから,実施機関である1審被告は,本件条例10条に基づき,交際の相手方に関する記載部分を除いた部分を公開すべきであり,本件処分のうち当該部分を非公開とした部分は違法であるとした。
 2 しかしながら,これらの文書について,実施機関は本件条例10条に基づき交際の相手方に関する記載部分を除いた部分を公開すべきであるとした原審の上記判断部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件条例10条は,1個の公文書について本件条例8条各号又は9条各号のいずれかの事由(以下「非公開事由」という。)に該当する情報が記録されている部分をその余の部分から容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,非公開事由に該当する情報が記録されている部分を除いたその余の部分を公開することを実施機関に義務付けるものであって,同条所定の要件に該当する限り,実施機関は同条所定の公文書の部分公開をしなければならず,本件条例7条各号に掲げる者(以下「住民等」という。)は,実施機関に対して,本件条例10条所定の部分公開を請求することができるのである。しかしながら,同条は,その文理に照らすと,1個の公文書に複数の情報が記録されている場合において,それらの情報のうちに非公開事由に該当するものがあるときは,当該部分を除いたその余の部分についてのみ,これを公開することを実施機関に義務付けているにすぎない。すなわち,同条は,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を非公開とし,その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも実施機関に義務付けているものと解することはできないのである。したがって,実施機関においてこれを細分化することなく一体として非公開決定をしたときに,住民等は,実施機関に対し,同条を根拠として,公開することに問題のある箇所のみを除外してその余の部分を公開するよう請求する権利はなく,裁判所もまた,当該非公開決定の取消訴訟において,実施機関がこのような態様の部分公開をすべきであることを理由として当該非公開決定の一部を取り消すことはできない。
 もっとも,住民等の公文書の公開請求に対し,実施機関において,本件条例3条の趣旨をも踏まえて,その裁量判断により,本件条例9条1号に該当する情報が記録されている公文書のうち氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分(個人識別部分)のみを非公開とし,その余の部分を公開するなど,非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化してその一部が記録されている公文書の部分のみを非公開とし,その余の部分を公開するといった態様の部分公開を任意に行うことは,本件条例の許容するところと解される。そして,実施機関がこのような態様の部分公開を任意に行った場合には,これに不服のある住民等は,非公開とされた部分をも公開すべきであると主張して,訴訟手続により当該部分に係る非公開決定の全部取消しを求めることができ,裁判所は,当該非公開決定が違法であると判断したときは,これを取り消すことができるものと解される。しかし,前記のとおり,住民等が実施機関に対して上記のような態様の部分公開を権利として請求することができるか否かはまた別であって,住民に地方公共団体の機関の保有する公文書の公開を請求する権利をどのような要件の下にどの範囲で付与するかは,専ら各地方公共団体がその条例において定めるべき事柄であり,上記のような規定を有するにすぎない本件条例の下においては,住民等が実施機関に対して上記のような態様の部分公開を請求する権利を付与されているものとまで解することはできないのである。これを本件のような知事の交際事務に関する情報であって交際の相手方が識別され得るものが記録されている公文書についていえば,当該情報が本件条例8条4号,5号又は9条1号に該当する場合においては,実施機関は,当該情報のうち交際の相手方の氏名等交際の相手方を識別することができることとなる記述等の部分(以下「相手方識別部分」という。)を除いた部分を公開しなければならない義務を負うものではなく,実施機関がその裁量判断により相手方識別部分を除いてその余の部分を公開するものとした場合はともかく,そのような部分公開が相当でないと判断して相手方識別部分をも含めて非公開決定をした場合には,裁判所は当該決定を取り消すべき理由はないのであって,裁判所が,更に進んで,非公開とされた相手方識別部分を除き,その余の部分について非公開決定を取り消すなどという裁判をすることはできないものといわざるを得ない。
 本件文書についてこれをみると,前記第1の2(4)の事実関係等によれば,歳出額現金出納簿については,各交際費の支出ごとにその年月日,摘要,金員の受払等の関係記載部分が当該交際費に係る知事の交際に関する独立した一体的な情報を成すものとみるべきであるから,当該記載部分を更に細分化して相手方識別部分等その一部のみを非公開としその余の部分を本件条例10条に基づいて公開しなければならないものとすることはできない。支出証明書については,各交際費の支出ごとにこれに対応する支出証明書に記録された情報が全体として当該交際費に係る知事の交際に関する独立した一体的な情報を成すものとみるべきであるから,同様に,これを更に細分化してその一部のみを非公開としその余の部分を公開しなければならないものとすることはできない。領収書及び請求書兼領収書については,各交際費の支出ごとにこれに対応する領収書又は請求書兼領収書に記録された情報が府の担当者によるメモ書き部分をも含めて全体として当該交際費に係る知事の交際に関する独立した一体的な情報を成すものとみるべきであるから,同様に,これを更に細分化してその一部のみを非公開としその余の部分を公開しなければならないものとすることはできない。
 3 以上によれば,原審の前記判断には法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。この違法に係る1審被告の論旨は理由があり,原判決中上記判断に係る部分は,その余の点について判断するまでもなく,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分のうち番号1ないし3,6ないし9,30ないし46,55ないし57,64ないし72の交際費に関する情報が記録されている歳出額現金出納簿中の部分,番号1ないし3,8,9,30ないし46,64及び65の交際費に係る支出証明書,番号6,7,55,56,66ないし72の交際費に係る領収書,番号57の交際費に係る請求書兼領収書についてこれを全部非公開とした部分に違法はないというべきであるから,この部分については第1審判決を取り消して1審原告らの請求を棄却すべきである。
 よって,裁判官元原利文の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
裁判官元原利文の補足意見は,次のとおりである。
1 法廷意見が第2の2において説示する本件条例10条の解釈について,理解に資するため更に意見を補足しておきたい。
 同条を字義に即して読めば,同条にいう2箇所の「その部分」は,「次に掲げる情報が記録されている部分」を指すことが明らかであり,「次に掲げる情報」とは,本件条例8条各号のいずれかに該当し,そのゆえに公文書の公開をしないこととされるもの及び本件条例9条各号のいずれかに該当する情報を指すことも明らかである。すなわち,本件条例10条の規定上は,1個の公文書を,本件条例8条各号又は9条各号のいずれかに該当する情報が記録されている部分(非公開事由該当部分)とそれ以外の部分とに分離した上,非公開事由該当部分の全体を非公開とし,それ以外の部分を公開すべきことを定めたにすぎないものであって,1個の公文書のうちの非公開事由該当部分を更に細分化して部分公開の対象とすべきことまでを定めているとはいえないのである。本件のような知事の交際事務に関する情報であって交際の相手方が識別され得るものが記録された公文書の場合,その情報は,通常,交際の相手方の氏名等交際の相手方を識別することができることとなる情報部分(相手方識別部分)とその余の部分(年月日,金額,支出原因等)とから成るところ,相手方の氏名等の相手方識別部分のみを他の情報と切り離してみれば,それ自体は情報として意味のあるものではなくなり,それのみで本件条例8条4号,5号,9条1号に該当するとは到底いえず,その余の部分を合わせて初めて知事の交際事務に関する情報として意味のあるものとなり,その全体が交際の相手方が識別され得る交際事務に関する情報として,上記各号に該当することになるのである。当該公文書中の金額部分についても同様に考えられる。
 したがって,本件条例10条の規定からすると,本件のような知事の交際事務に関する情報で交際の相手方が識別され得るものが記録された公文書の場合,相手方識別部分だけではなく,この部分を含めて知事の交際事務に関する情報が記録された部分の全体が,本件条例8条4号,5号,9条1号の非公開事由に該当する部分ということにならざるを得ない。そうだとすると,本件条例10条に基づいて部分公開をしなければならないときには,相手方識別部分だけではなく,その余の部分をも含めた知事の交際事務に関する情報が記録された部分全体を非公開とし,それ以外の部分のみを公開すべきものということになる。
 平成11年に制定され,同13年4月1日から施行される行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)6条は,その1項において,「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない。」として,本件条例10条の定めとほぼ同旨の部分開示に関する原則規定を置きつつ,その2項において,不開示情報が記録されている文書のうち特に同法5条1項のいわゆる個人識別情報だけを取り出し,「開示請求に係る行政文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を適用する。」と定め,個人識別情報に限って,部分開示の一態様として,特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分のみを非開示とし,その余の部分を開示するという開示の方法を特に定めているのである。
 情報開示法6条1項にいう「部分」は,1個の行政文書の部分を意味し,同条2項にいう「部分」は,1個の行政文書に含まれる情報(同法5条1号の情報のうち特定の個人を識別することができるもの)の部分を意味することは,その文理からみて明らかである。また,同法6条2項は,特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分(個人識別部分)を除いた部分は同法5条1号の情報に含まれないものと「みなして」同法6条1項の規定を適用すると定め,特に「みなして」という文言が使われているところからみると,同法は,5条1号のいわゆる個人識別情報は,個人識別部分に限らず,これを除いたその余の部分も同号に該当すると考えているものと解される。すなわち,同法は,5条1号のいわゆる個人識別情報については,6条1項のみでは個人識別部分だけを除くという態様の部分開示を義務付けることができないとして,特に同条2項の規定を設け,上記のような態様の部分開示についての法的根拠を与え,最大限の開示を実現しようとしたものと解される。
 このような情報公開法の規定をみれば,同法6条2項に相当する定めを欠く本件条例10条の解釈としては,個人識別部分ないし相手方識別部分のみを非公開とし,その余を公開するといった態様の部分公開をすべき旨を実施機関に義務付けているとまでは到底解されないのである。したがって,裁判所としては,個人識別部分ないし相手方識別部分のみを非公開とし,その余を公開すべきことを実施機関に命ずることはできないといわざるを得ない。ただ,条例の解釈を離れて,実施機関が,個人識別部分ないし相手方識別部分のみを非公開とし,その余を公開するといった態様の部分公開をその裁量判断により任意に行うことは,本件条例の下でも差し支えのないことは,法廷意見が説示するとおりである。
2 近時,情報公開は,これを更に拡大する方向に進みつつあり,この傾向は,国民の「知る権利」をより一層確保するために尊重されるべきことはいうまでもない。また,情報公開法の制定を機に,同法6条2項と同旨の規定を置き,情報公開の内容を更に充実するための条例改正の動きも各地で起こりつつある。ただ,本件は,法廷意見が第1の5の冒頭で説示するとおり,昭和60年当時の本件条例の解釈に基づき実施機関がした処分の効力につき,第1次上告審の判示に従って判断した原判決についての再上告であるとの制約があることを重ねて付言しておきたい。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)