訴  状
平成14年1月9日
東京地方裁判所 御中
原告訴訟代理人 弁護士 大  川   隆  司
                     外 12名
           〒xxx-xxxx 川崎市xx区xxx丁目xx番xx号
            原 告          高  橋   利  明
〒100-8919 東京都千代田区霞が関2丁目2番1号
被 告  外務大臣  田  中   眞 紀 子
不作為の違法確認請求事件
  訴訟物の価額  3,800,000円
  貼用印紙額   26,600円
請求の趣旨
1 原告が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第3条に基づき、被告の保有する別紙文書目録記載の各行政文書について、平成13年7月6日付で行なった開示請求に対し、被告が同法第9条第1項または同条第2項に基づく決定をしないことは違法であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。
請求の原因
1 当事者
 (1)原告は、情報公開法及び情報公開条例の健全な運用と民主的な行政の推進に寄与することを目的とする、特定非営利活動法人(NPO)情報公開市民センター(東京都新宿区三栄町10番地)の理事長の地位にある者である。
 (2)被告は、別紙文書目録記載の各行政文書(以下において一括して「本件行政文書」という)を保有する行政機関である外務省の長である。
2 原告による本件行政文書開示請求
 (1)原告は、平成13年7月6日付で行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下において「情報公開法」と略称する)第3条に基づき、被告に対し本件行政文書の開示請求をした(甲1号証)。
 (2)ちなみに原告の代表するNPO情報公開市民センターは、平成13年4月2日付で被告に対し、外務省大臣官房および一部在外公館(在米日本国大使館等)において平成11年度中に支出された報償費に関する支出証拠となる文書等の開示請求を行なったが、この請求について被告から同年6月1日付で全部不開示の決定を受けたので、同月15日御庁に対しその取消を請求する訴訟を提起した。この訴訟は、平成13年(行ウ)第150号事件として御庁に係属している(以下においてこれを「別件訴訟」という)。
 (3)「報償費」は「国が、国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務を状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により、
  機動的に使用する経費である」と定義されている(予算決算及び会計令第12条に基づく各年度の「一般会計、特別会計歳出予算目の区分表」による)。しかしながら外務官僚の一連の不祥事を通じて、報償費のうちの相当部分が国会議員や各省庁公務員の外遊に際し、送迎や会食などの便宜供与のために費消されていることが判明した。
 (4)これら便宜供与のための支出は、本来ならば交際費や職員旅費などの科目からなされるべきものであり、従ってこれらの科目に相応する透明性の確保が客観的に要請される。
 しかるに別件訴訟において被告は、これらの科目に本来属すべき支出をも含めて、報償費支出の全部を不透明のままにすることに固執しているので、原告としては報償費支出の実態を解明する一助とするため、その一部にあたる便宜供与事務の概要を把握する目的で、本件開示請求をしたものである。
3 開示請求に対する行政機関の長の応答義務
(1)開示請求に対して、行政機関の長は、請求にかかる行政文書の全部又は一部を開示するか、もしくは全部を開示しないかを決定し(以下「開示決定等」という)これを請求者に対して通知することを義務づけられている(情報公開法第9条第1項、第2項)。
(2)この決定は、開示請求があった日から30日以内(本件の場合は平成13年8月6日まで)に行わなければならないものであり、例外的に「事務処理上の困難その他の正当な理由があるとき」に限り、この期間を30日以内に限り(本件の場合は平成13年9月4日まで)延長することが許されている(同法第10条第1項、第2項)。
(3)例外中の例外として、「開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため、開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合」には、上記(1)および(2)の制約を免れるが、その場合にも、
   @「開示請求に係る行政文書のうちの相当の部分」については、上記(1)又は(2)の期限内に開示決定等を行う義務、および
   A残りの行政文書についても、相当の期間内に開示決定等をする義務
 は免れることができない(同法第11条第1文)。
 また、この第11条を適用する場合には、その適用理由とあわせて、Aの残りの行政文書について「開示決定等をする期限」を明示することが義務づけられている(同条第2文)。
4 本件開示請求に対する被告の対応
(1)本件開示請求に対し被告は、平成13年8月6日付で原告に対し「開示決定等の期限の延長等について」と題する通知を発した(甲2号証の1〜4)。同通知の内容は、本件請求については情報公開法第11条を適用し、
 「平成13年9月4日までに可能な部分について開示決定等を行い、残りの部 分については、平成13年10月4日までに開示決定等をする予定です」
 というものであった。
(2)しかし実際には、9月4日の法定延長期限はもとより、10月4日の特例延長期限に至っても、本件行政文書についての開示決定等は全くなされなかった。
(3)そして開示決定等の代わりに、平成13年10月4日付で「外務省大臣官房総務課情報公開室」名義の「開示決定に関するお知らせ」と題する文書(甲3号証)が原告に送付された。
 この「お知らせ」の内容は、単に「開示決定を行うための事務処理に想定外の時間を要すること、予測し得ない事務の繁忙が生じたこと等、事情の変化により、既にお知らせした期限までに開示決定等を行なうことができなくなりました。可及的速やかに本件に係る事務処理体制を整備し、開示決定等の新たな期限を通知する所存です」というものであって、あらたな開示期限を明示するものでは全くなかった。
 (4)その後、原告の再三の要請にかかわらず本件開示請求に対する被告の応答はなく、また、応答の期限を明示する通知もないまま今日に至っている。
5 被告の不作為の違法性
(1)本件行政文書、すなわち「便宜供与ファイル」とは、わが国の在外公館が、当該国に渡航した国会議員らに対して行なった便宜供与(空港への送迎や、酒食の提供など)の概要を1件ごとに記載した文書の綴りである。
(2)便宜供与の件数は(その内訳としての送迎回数や食事回数とともに)、本省総務課において197ある在外公館すべての分が毎年集計されているところであり、当然ファイルの内容たる文書の様式も定型化されている。
(3)そして便宜供与の対象となる関係者は、「その用務が公共性を有する」ものに限られる(別件訴訟における被告の準備書面(2)の3頁記載の主張)という共通性を有している。
(4)既にメディアの請求に対して開示された「便宜供与件数統計表」(甲4号証)によれば、平成11年(1月〜12月)の1年間における便宜供与件数は、本件請求にかかる4公館の分について見れば、次のとおりである。

 在フィリピン日本国大使館  292件(内 議員関係20件)
 在 仏    日本国大使館 1690件(  同    105件) 
 在 英    日本国大使館 1387件(  同    165件)
 在 米    日本国大使館 1035件(  同     43件)
(5)上記件数自体はたしかに少ないとは言えないが、本件文書は前述のとおり定型性、共通性のある簡潔な文書が集積されたファイルに過ぎないから、所定の期限内に全ての文書についての開示決定等をすることが事務上の支障をもたらすという前提を仮に認めるとしても、期限内に「相当の部分」について開示決定等を行なった上、その決定実績を勘案して、「残りの文書」についての判断期限を算定し、これを明示することは極めて容易なことである。
(6)従って、本件請求に対して被告が平成13年10月4日までに請求に係る行政文書に対する開示決定等を全く行なわず、かつ開示決定等をする期限を明示しなかったことは、情報公開法第11条に明らかに違反するものである。
6 結論
 以上のとおり、本件開示請求に対して、被告は情報公開法第11条の特例の適用を受ける要件を欠いたまま同法第10条所定の応答期限(同条2項により、遅くとも平成13年9月4日)を徒過した。
 情報公開法第10条の応答期限を徒過したことは、とりもなおさず行政事件訴訟法第3条第5項の「相当の期間」を徒過したことを意味するというべきものであるのに、本件の場合はそれから更に4ヵ月を超える月日が漫然と経過しているのであり、被告の不作為の違法性は極めて悪質である。よって司法によるその違法性の確認を求めて本訴に及んだ次第である。

立証方法
甲1号証の1〜4 開示請求受付書
甲2号証の1〜4 開示決定等期限延長通知
甲3号証     「開示決定等に関するお知らせ」と題する文書
甲4号証     平成11年便宜供与件数統計表
甲5号証     新聞記事(平成13年6月27日付神奈川新聞)
 以上のほか、口頭弁論期日において必要に応じて提出する。
以上
(別 紙)1.平成11年度の在フィリピン日本国大使館における便宜供与ファイル
2.平成11年度の在仏日本国大使館における便宜供与ファイル
3.平成11年度の在英日本国大使館における便宜供与ファイル
4.平成11年度の在米日本国大使館における便宜供与ファイル