2000年度包括外部監査の「通信簿」
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監査対象事項分類表
第1章 はじめに
1.  平成11年度より全国の47都道府県、12政令指定都市、25中核市の地方公共団体(以下、「自治体」)において外部監査制度による外部監査と報告書の提示がスタートした。全国市民オンブズマン連絡会議は、これらが全国の自治体の行財政の刷新と改善にどれだけ役立つのかに注目し、全国各地のオンブズ団体の協力を得てその評価を行った。外部監査人は市民のための自治体の「お目付け役」となれるか、従前の監査委員の「屋上屋」や「税の無駄遣い」になるのか、それは外部監査人の姿勢・努力と行政当局の対応によることは言うまでもない。しかし、それを担保するのは市民自身の「監視」の力である。そこで、昨年、包括外部監査報告書について、市民オンブズマンにより"通信簿"を公表した。

 それは、専門家である公認会計士、弁護士らによる莫大な報告書を、専門家ではない市民の眼で評価するという大変な作業であった。ほとんど初めてに近い専門家の監査報告であり、報告書自体にテキストやモデルもない。全国の監査報告書を入手し検討する作業も、簡単ではなかった。評価班は、評価方法、基準を検討することから始め、その作業でけんけんがくがく、他との比較も含め、特に〆切前1週間は不眠不休の作業になった。

 幸い、その労あって、昨年の「包括外部監査の『通信簿』(1999年度)」と題したA4版145頁の通称「イエローブック」は、マスコミにも注目された。全国紙だけでなく、一部の地方紙では社説で取り上げる等の大きな反響があった。そして、行政や監査人はもとより、専門家に広く読まれた。日本公認会計士協会から意見交換の申入がある等、監査当事者からも反響があった。このように、「通信簿」は、外部監査を広く市民に注目させ、その社会的意義を高めることにも貢献した。

 もとより、初めての外部監査を、初めて市民が評価したもので、「その評価に誤解がある」とか、「過大な期待からの不当な非難である」との「批判」も受けた。しかし、専門家集団の公認会計士協会からも、個々の評価は別として全体としてよく理解し、批判・検討されたものであると評価された。

2.  今回も、昨年に続き「平成12年度外部監査報告書」を評価した。昨年は、個別評価は全国の47都道府県(82対象)、12政令指定都市の59自治体について評価をし、25の中核市も調査・検討したが、今年は中核市に旭川市、松山市が加わり、さらに5つの条例市区(八王子市、文京区、豊島区、四日市市、倉敷市)も含め、全て評価対象とした。その結果、47都道府県、12政令指定都市、27中核市、5条例市区の合計91自治体の全報告書について、個別評価を行い、総合評価した。



第2章 制度の概要
1. 外部監査の意義

  •  内部監査は、自治体がルールに基づいた運営や事務を行ったかどうかを確かめる目的で行われる。建前は、監査を組織の内部事情に精通した担当者が行うことで、不正や誤謬の早期かつ容易な発見をするというものである。
     自治体の監査委員監査は、自治体に身分を属する監査委員と、補助として監査作業を行う監査事務局等の職員によって行われ、監査委員には議員や自治体OB、地元有識者(弁護士、会社経営者、公認会計士、税理士)などが就任している。しかしながら、これまでの市民オンブズ活動で、私達はこれら監査委員の監査が行政を是正する能力を失っていたり、時には、監査委員・監査事務局が不正を行っていることも知った。このため私達は、これら現行監査制度運用、監査委員の人選等について抜本的な改革を求めてきた。

  •  外部監査(新設制度)
     外部監査は、住民・市民の立場に立って、外部の経済的、精神的に独立した監査人が行うものである。これは、私達が活動してきた官官接待・裏金・カラ出張の是正や、第三セクターの破綻など、行政の公正・効率化につき世論の批判と財政状況の厳しくなった今日、内部監査の限界が指摘され、自治体の行政に対する市民のより厳正な適法性監査や、その効率性、経済性のチェックをすることが求められるようになったために設けられた。そして、地方分権が進められる中で、その意義・重要性はより増大している。

2. 包括外部監査

 包括外部監査とは、自治体が地方自治法2条14項と15項の趣旨を達成するため、外部監査人の監査を受けるとともに監査の結果に関する報告の提出を受けることを内容とするものである(同252条の27第2項)。平成9年6月24日改正法公布、政令により平成10年10月1日施行日となる。

地方自治法2条 14項: 地方公共団体は、その事務を処理するに当っては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。
15項: 地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。

 「通信簿」は、この包括外部監査報告書について調査検討した。

 この外部監査は合規性監査のみと考える意見もあるが地方自治法の目的に添い、全法令的見地からの合法性の監査と、英国で採用されるVFM監査(Value For Money)、あるいは米国の3E−有効性(Effectiveness)・効率性(Efficiency)・経済性(Economy)−監査を含むものとして位置づけられるべきである。監査対象となる事件の選定は監査人が主体的に選定し、監査契約は毎年度更新される。

 これに対し、個別外部監査と呼ばれるものがある。これは、長・議会・住民からの個別請求に基づくものである(法252条の39〜43)。



第3章 昨年度「通信簿」に対する批判・意見について
 昨年度の「通信簿」について私達が知った批判と、これに対する私達の見解を示しておく。

1.  日本公認会計士協会は、「監査人は第三者として監査しているのであって市民の立場に立つものではない」といわれる。これを善意に理解できないものではない。しかし、外部監査の受益者は誰かという視点に立てば、それは「行政当局者」ではなく、市民全体のためであることは当然であろう。そういう意味で監査人は、やはり市民になり代わって監査を行うという姿勢をとるべきである。市民に係り度の低くかつ関心のないテーマを取り上げるべきではないという点は、公認会計士協会にも異論はないだろう。もちろん、市民がまだ気がついていない問題に切り込むということもあってよいが、その場合も結果的に市民に問題点をアピールできなければ意味はない。

2.  「オンブズマンのためにやったのではない」という川崎市(昨年C評価)の監査人の意見
 その意見自体は当然の言である。しかし、色々な立場から色々な批評があっていいのではないか。通信簿の評価を受けつけないという態度では公的な監査人とはいえない。採点されることが不愉快というのでは問題にならない。内容について自信があるのであれば、堂々と論争してほしい。

3.  秋田市(昨年D評価)監査人の意見は、自分の包括外部監査にあたっての基本姿勢は以下のとおりであるといわれる。

@ 内部監査事務局が気づかないこと、言えないことを指摘する。
A 監査報酬9,828,357円を超える、市費の次年度予算の支出削減をはかる。
B 形式的な選定理由や監査手法など、またいたずらに紙数を増すだけの誰も読まない報告書のための報告は、書かないし作らない。
C 特定の事件の選定は監査結果指摘事項がありそうなものを選ぶ。

 そして、「本年度の結果報告書は、上記@Aを達成することができた」と。

 @とCはとりあえずよい(Cについては優先順位がそれでよいのかという疑問はあるが)。しかし、Aについては、あまりにも近視眼的かつ不十分と言わざるを得ない。もちろん、包括外部監査においても費用対効果の視点は必要であるが、それは単純に当面の監査報酬を超える節約といった次元のものではないはずである。むしろ、より根源的な問題を摘出することによって、長期的には監査報酬の(あえて相対的な金額で言えば)数十倍、数百倍の効果が期待されるのではないだろうか。

 Bについては全く問題外である。「プロに任せておけば良い、素人はどうせ言ってもわからない」という傲慢さも垣間見える。同外部監査人は、全国ただ1人の会計検査院OBであるが、根源的に、行政の姿勢を正すことができるのは一握りのプロではなく自覚した市民であるという本質に気がついていない。(なお、秋田市の包括外部監査報告書について「秋田市単独補助金の執行事務及び財政援助団体について」のテーマの他に「公営企業会計等について」があったところ、総括表の記載に脱漏があったことは私達のミスでありお詫びしたい。)

4.  鳥取県(昨年D評価)の行政側の見解について

 「意見部分を公表しなかったことが減点になっているが最初から公表していた」と、私達の公表直後に行政は主張した。

 しかし、それは不実である。担当職員は、私達からの監査結果報告書開示の求めに対し、担当職員は「意見部分は渡せない」と言った(担当者の名前もわかっている)。通信簿の公表後に対応を変え、公表に切り替えたのである。しかし、意見部分を加えて採点すると、監査報告書の採点が上がったことは事実である。むしろ、意見書には監査について県が非協力的だったことが記述されているところがあって、それが当初非公開にした理由ではないかと思われる。

5.  福岡市のA評価に対する市民からの批判について

 これは、「下水道事業について委託費等の原価アップの根本原因にメスを入れないまま使用料値上げがやむを得ないかのように誘導する結論を導いているのは、悪く言えば値上げを図る行政当局の先導役を努めるものであり、善意に解釈しても問題の本質を見過ごしたと言わざるを得ない。このような報告書をA評価とすることは納得できない」というものであった。

 確かに言われる批判は当っている点がある。この点、評価班としても、今年の通信簿の採点にあたってはご指摘の点を考慮に入れた。ただ、一方で通信簿のランク付けは相対評価であって、A評価であるから何も欠陥がない、という意味ではないことはご理解いただきたい。

6.  横浜市のA評価に対する市民からの批判について

 これは、「横浜市の病院事業のレポートは監査ではない、単なるコンサルティングではないか」というものであった。

 これも、もっともな指摘ではある。しかし、同じ病院を対象とした多くの監査報告書の中で、横浜市のものが群を抜く水準に達していたことは事実である。単なるコンサルティングという見方もあるかもしれないが、市民のニーズを丹念に分析した点などは、施策の有効性の観点に立ってもそれなりに監査の目的を達したものとして評価できるものとなっている。

7.  報告書について多面的な評価があり得るのは当然である。福岡市A評価に疑問を寄せられた方は、横浜市のA評価に関しては納得できると述べておられる。私達評価班メンバーも、外部監査人の報告書が絶対でないのと同様に、オンブズマンによる評価が絶対とも思っていない。むしろ、前述したように、多様な立場から多様な評価が提示されることによって、結果的に包括外部監査が実りあるものになり、ひいては行政の健全化に資するものと考えているものである。むしろ、監査人自身からの本"通信簿"への反論を期待している。



第4章 今回の包括外部監査の「契約者」(監査人)「報酬」「監査対象事項」等
1.  契約者(監査人)

 外部監査人としての契約者は、平成11年度は公認会計士が43都道府県、11政令指定都市、21中核市、1条例市(四日市市)の合計76人、弁護士は4府県(山梨県、大阪府、島根県、徳島県)、3中核市(堺市、岡山市、福山市)の合計7人であった。税理士は1政令指定都市(京都市)、1条例市(八王子市)の合計2人、会計検査院OBは1中核市(秋田市)の1人であった。

 平成12年度は、公認会計士が41都道府県、11政令指定都市、24中核市、5条例市区の合計81人、弁護士は5府県(山梨県、大阪府、島根県、徳島県、沖縄県)、2中核市(堺市、福山市)、の合計7人、税理士は1県(広島県)、1政令指定都市(京都市)の合計2名、会計検査院OBは1中核市(秋田市)の1人であった。また、43都道府県、11政令指定都市、24中核市で昨年と同一の監査人と契約しており、監査人が交代したのは4県(宮城県、群馬県、広島県、沖縄県)、1政令指定都市(札幌市)、1中核市(岡山市)、1条例市(八王子市)の合計7人である。

 その監査報告が今回の評価対象であるが、昨年同様、報告書の質と量は監査人とその対象により著しい差が見られる。もっとも、同様の監査対象を取り上げていても、調査した範囲や深さなどがかなり異なるものがあり、これらを今回の評価において考慮していることはいうまでもない。

2.  監査人報酬

 昨年度の監査人の報酬は、633万円(姫路市)〜3,000万円(東京都)であった。なお、総務庁が、平成12年5月1日付で、全国の84自治体の実施した包括外部監査の実態調査をしている。平成13年3月30日公表したこのまとめでは、全都道府県から中核市までを含む平成11年度の平均報酬額は、1,784万1,458円であった。今年度は、718万3,050円(姫路市)〜3,000万円(東京都)である。

3.  監査対象事項

 昨年度(平成11年度)と今年度の監査対象事項は、後掲「監査対象事項分類表」として、年度別・種類別に分類した。なお、昨年度と今年度とでは、一部分類を変更している。



第5章 今回の包括外部監査の評価と評価方法
1.  今回の評価も前回と同様、市民に公表・提供される監査結果報告書(意見書を含む)をもとに評価した。

 したがって、監査人の主観的な努力や監査対象機関の協力度などの差異はあっても、それが監査結果報告書・意見書から伺える場合でのみ判断するものである。仮に、外部監査人の意思とは別の理由から監査に支障があっても、私達はその内容は知り得ないので、公表されている範囲で判断した。

 もちろん、監査結果に意見を多く書き込んだタイプのもの、監査結果は簡単で意見書分析を含め記載されているタイプなど様々で、一体として公表されている限りは書式の如何を問うものではない。

2.  評価にあたっては、昨年と同様、評価班で統一的な評価基準を定めて、担当班員が第一次的に評価した。担当者は、まず報告書を精読し簡単に評価表にまとめて評価班に報告をし、評価班はそれを基にしつつも、他の監査報告書との相対比較、対象の難易度を含め、批判的に評価し、かつ各報告書を複数人が読み、評価の客観化に努めた。

 一自治体の複数の個別テーマの監査結果については、個別報告ごとにA〜Eの評価をして、最終的にはその中で優れた報告書を尊重しつつ総合して評価した。

 関係自治体の地元オンブズマンからも評価の意見をもらった。しかし、今回も、これらの評価を参考としながらも、最終的には評価班の基準と判断で行った。したがって、地元の評価とは必ずしも一致していない。

3.  評価の視点ないし基準は、次のとおりである。

  • 対象の選定は適切で監査結果は活用度があるか
@ 具体的な目的根拠があって対象が選定されているか。
A 監査テーマと結果が首長(自治体)が採用する有効性を持っているか。
B 行政の改善の方向が具体化されているか。
  • 監査が充実し、評価が適切であるか
@ 新しい問題意識・発見があるか。
A 適法性の監査について充実・適切か。
B 3E監査について具体的な対象への適用とチェックがあるか。
C テーマの数だけでなく質の高さがあるか。
D 行政結果の追認に終わっていないか。
  • 報告書・意見書は判りやすいか
@ 市民が読んで判る記述になっているか。
A 問題点や意見要点が明確に指摘されているか。
B 専門用語などは解説・註があるか。
C 表やデータが判りやすいものか。

4. 前回は、次の4段階評価であった。
A: 良い監査として評価に値いする。
B: 改善を希望し、今後に期待する。
C: 不十分な点が多く、監査方法や内容を改める必要がある。
D: 不可。自治体・市民にとって有益なものと評価できない。

 このうち、BとCについては、見方によっては微妙なものもあり、Aに近いBとDに近いC、そしてBとCの中間的なものがあり、BとCの峻別よりもA・Dの明確化について注目した。なお、前回のAは、初回の外部監査ということもあり、問題はあっても敢えてAとしたものもあるので、Aと評価したものでも問題点がないという意味ではない。

5.  今回のA〜E評価

 昨年度は、ほとんどの自治体や監査人が初めて経験する外部監査であった。

 よって、監査内容や結果そのものに「試行性」があり、報告書が専門的で理解できないこと等からくる「非難」もあった。また、私達市民の眼も不慣れで、多大な期待からする「失望」もあった。

 そして、行政当局など監査を受ける側の「協力度」と外部監査人の「努力度」の関係があるとも考えられたが、結局無視することにした。

 本年度は、この点、次の点が指摘できる。

@  外部監査人も監査を受ける行政当局も、先例あるいは他の自治体の例に学ぶことができること(私達としてはよき監査・報告書に学び、それらの成果を取り入れたものであることを期待している)
A  外部監査人が経験を積み、私達の"通信簿"を含む社会的評価も参考とできることでその機能、能力成果のアップがあってしかるべきであること

 よって、今回の評価については、外部監査人(行政当局を含む)の「学習努力の効果度」評価もあってしかるべきと考慮した。したがって、報告書の同じテーマで内容が昨年の水準にとどまっている限りは、評価も相対的に低くした。

 かくして、今回の評価区分は、昨年のA〜D評価より少し厳しく「相対評価」するため、Eランクをつくり、次の5段階とした。

A: 良い監査として評価に値する
B: 努力と成果は認めるが、なお改善を希望し、今後に期待する
C: 不十分な点があり、監査対象の選び方や、方法内容等を改善する必要がある
D: 外部監査として欠陥があり、自治体・市民にとって、投じた費用に対するだけの有益なものと評価できない
E: 不可。外部監査として意義を認めがたい

 昨年Bの上位水準に相当するものはBに、昨年Bの下位水準相当分とCの上位水準相当分はCに、昨年Cの下位水準の一部をDに、昨年のD水準はEとした。全体としては、Cが平均的で最大多数になるよう相対評価した。あえて100点満点でいえば、Aは90点以上、Bは70点以上、Cは50点以上、Dは30点以上、Eは30点未満、という区別になる。

第6章 総評
1. 監査対象について

 今年は、昨年より少しテーマの幅も広がっているが、後掲「監査対象事項分類表」のとおり、一定類型が多い。しかも、昨年の傾向に安易に乗じている点もあり、テーマの中には選定の必要性を感じられないものもある。

 昨年同様、H病院関係が多いが、監査人となった公認会計士が、民間病院等での経験を公営病院に置き換えて検討することが有効と考えられたためであろう。ここには、監査法人本部の影響も強いと思われる。ただ、病院が新視点なく行われるといった問題もある。

 E補助金・負担金、F出資団体・財政援助団体、G公社、J公金支出・需用費は、社会問題化している「塩漬け土地」問題や、「外郭団体」「第三セクター」とそれらへの公金支出を問題視する世論を反映している。同様のテーマでも監査内容に差があった。

 @税の賦課・徴収、A公有財産・物品管理、D貸付金・債権管理は、一段と危機感を増す自治体財政の下での自治体の広い部局にわたる収支状況や財産の取得・管理を、監査テーマとして適当として選んだものである。昨年に続くものが多く、新しさは少ない。

 I特別会計・公営企業も、財政危機下にあって、病院事業とともに民間との対比や独立採算制、さらに会計基準と運用にかかわって選ばれたと思われる。大きな問題で力不足になりがちなテーマである。

 C契約(入札)、委託、土木建築は、公共工事を含む契約の適正化、行政の外部委託化についての重要性が認識されたものである。適法性監査の視線が入りやすい。

 また、都道府県より政令指定都市・中核市のほうが、市民生活に密接するテーマを対象として選んでいる傾向は昨年と同様である。

2. 監査報告書・意見書について

 外部監査には、定型の様式というものが定められていない。昨年は初めてのことでもあり、外部監査人が手探りで報告書を書いた結果、実にバリエーションに富んだ報告書が各地で公表された。そのこと自体は悪いことではない。定型的な様式が固まってしまうと、形式さえ整えればよいという悪弊が生じることが容易に想像されるからである。

 本年度は、全体的に見てまとまった形式を整えている。しかし、昨年度も指摘したが、最低限押さえなければならない要点というのがあるはずである。@外部監査人の氏名と資格、A補助者の氏名と資格、B監査テーマとそれを選定した理由、C監査の視点、D監査範囲、E監査手続、F監査日数、G監査結果、問題点と改善を求める事項、H監査人の意見、I利害関係等は、少なくとも報告書自体に書くべきである。このAF点をはじめ、昨年の指摘にもかかわらず、なお改善されていないものは遺憾である。

 補助者名が記載がなされていない報告書は、昨年に続き多くみられたが、特に、群馬県・兵庫県(公報)・京都市については、監査報告書に外部監査人の名前が記載されていない。別途調査すればわかるとはいえ、基本的な説明責任が報告書で尽くされていないことになる。その報告書に監査人が「私は地方自治法252条の29の規定により記載すべき利害関係はない」と記載しても、名前の記載がないのでは、当該自治体と誰との間の利害関係がないのかわからない。

 なお、秋田県・群馬県・東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・山梨県・京都府・島根県・札幌市・千葉市・いわき市・岡山市・熊本市・文京区は利害関係の有無についての記載がない。利害関係があれば当該監査が行えないのだから、監査している以上利害関係がないという前提かもしれない。しかし、外部監査人(父母・祖父母・配偶者・子・孫・兄弟姉妹)の一身上に関する事件または自己もしくはこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については監査することができない旨を定めた法の趣旨を尊重して、報告書にその有無を明記すべきである。

 昨年は、テーマ選定の理由が述べられていない報告書もあったが、今回はそのような報告書はほとんど見られない。しかし、説明が形式的でおざなりなものはある。監査の視点や監査手続もほぼ書かれるようになった。監査の対象と視点の目的意識が明確でないと、ただ結論として「問題なし」「指摘事項なし」「適法」「合規」とあっても疑問が残る。監査の手法と手続、そしてデータ(出典を含む)とその根拠、個別的検討がわからないのでは、読者としては判断に迷う。

 また、上記の項目をすべて書いてあっても、具体的な検討結果が明確に書かれていなければその報告書は説得力に欠ける。これまで市民オンブズマンが告発したカラ出張やカラ飲食、さらに不必要な公費支出、不当な随意契約や談合による契約でも、形式的には合規性を備えた書類は作成されていたのである。形式ではなく、実質的に必要・適正かが問題である。また、今回の監査報告書でも、既にマスコミ報道等で不正があることが明らかなのに、全くあるいは十分に検討をしていないものがあった。

 少なくとも、重要な監査結果、監査意見については、判断の根拠となった具体的事実や監査手続を記述すべきである。今回の評価で一見同じような監査結果や意見を付していても、B・C・Dと評価が分かれた(A及びEは逆に特徴がある)。その手続や記述が、どれだけ調査の作業の裏づけや信頼性があり、具体的事実に基づいているかによる。評価班では、報告書のボリュームを評価の要素にはしなかったが、以上の点を満足するには、あまりにも少ない紙数では不可能である。昨年、全文でA4版10頁程度の監査報告書は低い評価となったが、その点、今回は全体に増頁している。

 もちろん、監査報告書の価値は、監査の活用度や有効性にあり、字数・紙幅で決まるものではない。しかし、700万円以上もの報酬を得た監査報告書としては、形式的に必要な説明事項を除き、10〜20頁以上の指摘事項、改善意見が必要ではあろう。監査報告書にはそれ自体に「説明力」が要求される。それは、監査人の「説明責任」である。

 なお、昨年、鳥取県のものは、我々の評価時点で、意見書が公開されず、極めて簡単な「監査結果」に基づいて、Dと評価したが、今回の鳥取県の「監査結果」は簡単な要望努力を求めているも、「重要又は重大な合規性違反とすべき事項はなかった」となっている。その検討過程は、監査報告書に添付される別紙の約50頁の意見書に記載されている。我々は、形式のみを重視しないが、このような監査結果のみが伝えられ、「一人歩き」することには問題がある。また、地方自治法252条の38第6項の「監査の結果として参考として措置を講じたとき」の監査結果には意見書を含めるべきと考えるが、意見書はあくまで意見と解する行政側のルーズな対応を許さないため、純粋な意見以外は「監査の結果」に含める形式が相当である。他の報告書にもほとんどが別添の意見書になっているものがあったが、将来的には見直すよう求めたい。

3. 対象テーマの広狭度・深浅度の難易について

 対象選定によって、今回も外部監査そのものの内容や水準が大きく左右されたと思われる。すなわち、比較的やさしい初歩問題は点検もしやすく、判りやすく評価して報告にまとめられる。しかし、前例のないテーマや複雑困難な問題は、調査も困難であり、処方を示すことも難しいと思われる。今回は監査人の先例の有無、学習度が大きなポイントになる。

 被監査側の行政当局との"協力度"も監査結果に大きな影響をもたらした可能性もあると思われる。いわゆる"デキレース"の噂も聞くことはあった。

 行政当局にとって、既に作成しているか公表して当然の事項については協力も容易で、監査人の調査も容易であったと思われるものもある。これで紙幅を増加しているものもあった。しかし、その一方で、分析・検討作業も多く、多大な時間と労力を要したと思われるものも少なくない。

4. 監査人が公認会計士の場合

 今回の外部監査でも、91自治体中81自治体で公認会計士が監査人に選任されている。これは、まず、従前からの継続によるものだが、監査の専門家としての公認会計士に大きな期待が寄せられた結果であろう。しかし他方で、公認会計士協会をはじめ、行政への採用の働きかけの結果でもあろう。かくして選ばれた公認会計士は、よくその期待に応えたといえるであろうか。

 今回の監査をみても、多くの公認会計士は、補助者のスタッフを得て、狭い意味での合規性に関しては、経験を活かして手堅く監査を実施したと見られる。しかし、なお書類上で形式的な合規性を満たしていればよしとする傾向があり、広い意味での適法性にまで踏み込んでいないケースが多かった。

 この点、弁護士が監査人に選任された場合は、補助者に公認会計士を起用するが(平成11年度の総務庁の前記調査によると7自治体の弁護士外部監査人すべてが公認会計士を補助者として採用している)、その逆のケースでは、弁護士を補助者に起用してこの点を十分に検討させた例は少ない(総務庁の同調査では、公認会計士外部監査人全76自治体のうち4県、1政令指定都市、3中核市の計8自治体にすぎない)。また、総務庁の右調査では、包括外部監査に従事した補助者の総数は549人で、弁護士22人、公認会計士423人、税理士15人、実務経験者6人、会計士補27人、監査法人職員34人、医師3人、技術士1人、情報技術者6人、大学(助)教授2人、コンサルタント10人で、公認会計士、会計士補、監査法人職員を合計すると484人となり、補助者全体の88%を占めている。

 適法性監査が外部監査として必要不可欠であるにもかかわらず、この2年間での公認会計士の外部監査人による包括外部監査では実質的な適法性監査が不十分であったことを考えるならば、適法性監査の側面における能力のある弁護士補助者との積極的な連携を検討する必要がある。

 3E監査に関しては、一部には無視されたものもあったものの、当然のことではあるが効率性・経済性についてほとんど言及されていた。昨年よりも、この点を意識したものが多かった。

 その内容は、なお一般論に終始しているものが多かったが、昨年に比べると、自治体が活用し得る見識と具体的意見を備えた報告書が増加した。しかし、有効性について見るべきものは少なかった。行政の本質や公共性・公益性の評価に係わり困難な面があることも事実である。

 昨年、監査法人所属の公認会計士が外部監査人に選任された場合の監査法人のかかわり方の問題を指摘した。特に、大都市圏で大手監査法人所属の公認会計士を選任するケース(政令指定都市では12市中11市)が目立ち、大手監査法人は本部に外部監査チームを設け、組織的に対応していることである。

 大手監査法人が組織的に対応した場合は、監査実務の一定の水準確保、他の自治体との比較の容易性、特定分野の専門家の補助者起用等のメリットはある。しかし、そのメリットを十分に活かしたと思われる報告書はなお少ない。逆に、大手監査法人ゆえの監査結果や意見で、改善点をはっきり指摘しない、曖昧さ・弱さを残すといった傾向はデメリットである。大手監査法人の公認会計士が外部監査人に就任した場合、コンサルティング的、経営助言的な側面からの監査に重点をおくことで、適法性監査の側面からの批判的視点が不十分になっている点は問題である。監査の対象となる自治体と外部監査人との間には強い緊張関係が要求される。住民の視点に立ち、批判的視点と助言的視点双方のバランスの取れた監査を行うことが必要である。

5. 監査人が弁護士・税理士・会計検査院OBの場合

 今年度、弁護士が外部監査人となっているのは7自治体に過ぎず、全体的傾向をいうには昨年同様数が少ない。昨年、監査人の独自性が、監査対象、監査結果、意見に比較的強く出ていると指摘したが、行政の外部委任をテーマとした堺市を除き、補助者として公認会計士のスタッフを抱えるなどしており、監査人が公認会計士の場合と変わりがなくなっている。そして、専門の適法性監査とともに、有効性・効率性・経済性に踏み込んだ評価が期待されたが、その点は今回も監査人が公認会計士の場合と同様である。

 税理士は2名、会計検査院OBは1名であり、昨年同様、相対比較し難い。

6. 報酬の妥当性について

 今回の評価は、報酬の高低を直接問題にしていない。昨年同様の1,500〜2,000万円程度という水準は、監査内容・実務により安いとも言え高いとも言えるからである。ただ、今回総合A・Bとされたものでは報酬に見合う仕事はしていると考える。なお、欧米では、監査を行うことにより監査報酬額の5〜10倍の行政経済効果が期待されて当然、という考えがある。これは、行政当局に監査報告を活かす意思がないと実現しないが、経済的な目に見える監査効果の目安として参考になる。

 なお、総合A〜C評価のものは、報酬額によって直接評価を変えるようなことはしていない。しかし、総合D・E評価については、そのランク付けからして報酬額と監査結果のバランスも考慮した。これらは、実報酬に対して報告書内容が市民に説明できている成果物とはいえないと考える。市民の声を代弁すれば、専門家として尊敬され選ばれた者が十分な調査検討をする関係でいえば、プロフェッショナルとしてのボランティア精神を求めたい。



第7章 総合評価
1.  ランク付けの決定方法について

 A〜Eのランク付けにあたっては、個別テーマごとにA〜Eの評価をした。その上で、例えば、3テーマの監査報告がある自治体で、各テーマの評価がそれぞれA・B・Cである場合、その中で最も良いAを採用した。このやり方は、B・C・D・Eについてもほぼ同様である。

 但し、例えば、2テーマの報告がある場合に、それぞれの評価がBとEの場合とCとDの場合では不公平な評価になるというもっともな批判も生じよう。しかし、評価班では、原則として複数テーマがある場合は、監査人が最も良い評価となったテーマを中心に監査を行ったものとして、以上のようなランク付け方法を採用したものである。

2.  今回の総合A評価は、都道府県では宮城県・長崎県・沖縄県、中核市の福山市、それに条例市の八王子市の監査報告書5つである(以下、自治体名で評価を付すが、それは当該自治体の監査報告書のことである)。長崎県は1テーマでA、その他は複数テーマのうちの1つでA評価を獲得し、総合評価でAとした。宮城県・沖縄県は、今回監査人が変わっている。福山市・八王子市は、昨年評価をしなかった監査人のものである。これらの監査結果は、すみやかに行政上措置をとってしかるべき(そうでない場合は住民監査請求の対象となるぐらい具体的な)ものがある。

 長崎県は、県の外郭団体に対する委託費等の支出が不当に高額であること、随意契約に根拠がないことを、具体的な事例を挙げて鋭く追及している。また、県の反論を紹介し、その反論に対しても理由にならないことを論証している点は、高く評価できる。

 沖縄県は、今各地で問題になっている第三セクターの問題について、特に需用過大予測に焦点を当て、その原因をモノレールの計画決定の過程を追いながら具体的に解明している。

 宮城県は、今年もよく調査し検討されていた。監査人が変わってもA評価という点は、監査人の能力や努力によるのはもちろんであるが、市民オンブズマン活動も盛んであり、知事が市民オンブズマンを「必要な敵」と言い、自ら耳の痛いことを指摘してもらってよいという姿勢で、遠慮なく具体的な指摘や意見を言いやすいところにもあるとも思われる。

 福山市は、個別A評価とした委託も、個別B評価とした補助金も、適法性監査の良い例を示している。有効性を含む3E監査にもよく踏み込んでいる。

 八王子市は、報酬額は都道府県のレベルと比べると格段に低い(836万3,250円)が、内容的に優れておりAであった。経費的にも努力されていることが伺える。費用額が監査の内容・質の言い訳にならない証拠である。2つのテーマのうち補助金については、309件の補助金等すべてについて3Eの観点からも監査を行い、問題点を類型化し、市に必要な措置を講じるよう求めていて活用度は高い。監査人の指摘を受けて、補助決定を取り消したものも現れている。また、市の保有土地に関するテーマも、土地開発公社についてさまざまな角度から問題点を指摘し、公社の存在意義やディスクロージャに対する意見は参考になる。監査結果に対しいずれのテーマも市の積極的な対応が問われており、活用度の高い監査として評価した。

 今回のA評価についても、私達は手放しで評価するものではない。班内でも評価について異論があったものもある。しかしながら、@外部監査人として誠実な職務遂行がはっきり認められるもの、A行政現状の追従や一般的な改善意見だけでなく独自の見識が認められるもの、B今後の外部監査例として他の参考になり得るもの、C自治体にとっての活用性などを考慮し、圧倒的多数の評価でA評価とした。

3.  総合B評価は、北海道、埼玉県、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、島根県、広島県、高知県、福岡県、鹿児島県、仙台市、横浜市、京都市、大阪市、福岡市、北九州市、長野市、静岡市、浜松市、豊橋市、堺市、和歌山市、長崎市、文京区の計29自治体である。

 これらの監査の中には、個別テーマによってはD・E評価の含まれるものもあり、これらについては今後特に改善を求めたい。また逆に、総合評価はBとしたが個別評価としてはAに近い努力の認められたものがあった。

 病院で言えば、昨年A評価の横浜市の監査例があり、今年病院を対象としたものはこれに及ばなかった。この意味で、病院については、特別の新視点がないとAにならないのは厳しすぎるという意見と、先例に学ぶことができるのだからという意見がある。

 今回の自治体の中でも2番目に報酬の安い文京区は、行政サービスコストの検討をテーマに、対象となる施設ごとに個別の損益分析を行い、施設ごとの運営状況を対比し、個別に改善点を指摘していて活用性も高い。コストの削減に伴う施設の統廃合だけでなく、効率的運営による図書館の夜間開館や日曜開館の可能性にも言及している点は評価できる。行政サービスにおけるコスト対効果の観点からの指摘は、今後の業務改善を考える上で参考になる。

 昨年D(今年のE)評価であった京都市は、2つの対象ともB評価となった。同じ監査人であるが、著しい向上のあとが見られるし、その作業の労も判る。私達の厳しい批判に実践をもって応えられたことは、誠にうれしいところである。

 鹿児島県は、今年地方自治法改正で問題となった政務調査費を取り上げ、議会各会派の会計処理の杜撰さを明らかにしている。情報公開に触れていない点が減点となった。

 長崎市の二つのテーマのBのうち一つは、衛生公社について採算は難しくても廃止できないことを踏まえて、直営化、委託制、補助金制、完全民営化の4パターンを比較検討したユニークな提言を行っている。

 島根県は、貸付金業務に対象をしぼり、豊富な問題事例をあげて、実務的に活用度の高い具体的な提言や、制度の根本に迫る提言を多数行っている。

4.  総合C評価は最も多い。33自治体である。

 その評価の根拠は総括表に記載したが、総じて言えることは、@具体的な調査を尽くす(そのテーマと範囲、深さを考慮する)、A調査の結果に基づく現行行財政の是非を明確にすること、Bその上でどう改善するかの方向性を示す、という点で不十分であった。また、一部のA・B評価のものにも言えるが、市民が読む報告書としては、より判りやすくする工夫と改善を求めたいものである。

 なお、個別C評価の中にもBという意見のものがかなりあった。例えば、鹿児島市のゴミ問題に関するレポートは、内容は非常にユニークでその心意気を買ってBとする意見も有力であったが、委託契約の問題点の追及が「予定価格の積算さえしっかりすれば税金のムダは起きない」などとの記述は認識不足である等と指摘され、Cとなった。

 山口県の監査のうち、5つの特別会計を対象としたものの中の下関漁港管理特別会計を対象とした分は、監査内容、提言ともに充実していて、この分に限れば、B評価に値するが、対象を広げすぎ、他の4会計についての部分が不十分なために、C評価にとどまった。

5.  総合D評価は19自治体である。D評価は、対象選定が不適切であったり、対象への調査も不十分で、一定の調査をしていてもはっきり問題点を把握して指摘していないか、言葉を濁して、行政当局へのはっきりした改善の指摘も認められないものであった。

 もっとも、前述のランク付けの方法からすると、同じ総合D評価でも、群馬県・岡山県・宮崎県は2テーマの個別評価がDとEで総合D、金沢市は3テーマでD・E・E、岐阜市は3テーマでD・D・Eと、Eに近いD評価も含まれている。完全な(?)D評価のものは、栃木県、富山県、岐阜県、奈良県、鳥取県、愛媛県、大分県、札幌市、郡山市、姫路市、岡山市、高松市、大分市、倉敷市であった。

 それぞれの評価は総括表に記載しているが、例えば、群馬県は、監査対象は病院と多くの出資団体とされているが、報告書の総頁数も56頁と少なく、広く浅く数字の羅列に終始しており、監査人独自の分析が見られない。

 昨年D評価(今回のE評価にあたる)の宮崎県は、2つのテーマでそれぞれDとE評価であった。昨年の私達の指摘にもかかわらず、向上が見られない。昨年は制度の解説に終始し監査とは言えない内容の報告書であったためDとなったが、今年も土地をテーマにした監査は、県に提供を受けた資料を並べ、事務手続きについて意見を述べるだけで、E評価となった。もうひとつの農業開発公社を取り上げた報告書も外郭団体に対する問題意識が全く感じられず、Eに近いD評価である。

 岡山県の後楽園はEで、その意義を認め難い。その文化的・社会的意味をも考慮して検討しないと、何のための監査か目標を失う。もうひとつの監査報告も対象選定が広く浅きに失っている上、現に破綻した第3セクターを含めながら、その破綻原因について分析しておらず、また経営不振の他の第3セクターは対象から除外されている。

 岡山市は、対象選定が著しく広く浅く、しかも監査に当たっての「現在」である平成11年度が対象にされていない。「現在」を意図的に除外することは理解に苦しむ。

 鳥取県は、適法性に疑問のある事実を明確に確認しながらも、その判断をあえて避けている。

 倉敷市は、極端な欠陥はないかわりに、すべての面において力不足である。

 大分市の2つはいずれも分析が甘く、大事なポイントが抜けている。会計処理の誤りを指摘する場合はその結果の影響金額を明記するべきである。まじめに監査を行っている形跡があってEを免れた典型的なD評価のタイプである。

 大分県の場合は同じDでもさらに評価は低い。貸付金を取り上げた報告書は数多いが、水準にほど遠く、しかもテーマは一つだけである。大きなテーマや他に前例のないテーマならともかく、前例も多数あってその水準に達しないのであれば一つに絞った意味がない。

6.  総合E評価は、福井県、秋田市、いわき市、新潟市、豊田市の5自治体である。

 福井県は、昨年に比べると、量的に多くなっているが、監査対象の説明や行政データの引用が大半で、独自の分析による適法性監査、3E監査は不十分である。一般的な要望意見もあるが、その裏づけが読み取れず、行政の追認になっている。昨年のD(今年のE)評価に続き、厳しい評価をせざるを得ない。どうも、監査人自身が昨年の監査報告書で十分とする考えのようで、他の監査例や昨年の私達の指摘は考慮されていないようである。

 これ以外は、中核市の監査報告例であった。

 秋田市は、監査の方法、監査結果、意見の理由・根拠等は示されておらず、結論のみである。外部監査人には市民に対して説明責任がないと考えているのであろうか。監査の内容面においても、表面的であり調査も十分なものと評価できない。

 いわき市は、意見書を含め12頁であるが、54億円以上という欠損金のある病院事業の監査としては、粗略にすぎ、その内容を市民が理解できない。結論のみで、考察過程がわからない。

 新潟市は、外部監査に必要な情報と認識が欠落している。入札価格について指名競争入札の落札価格が予定価格の98・5%という状況は、談合を強く疑わせ、改善が必要であるにかかわらず、入札により1・5%の工事費を節約し、入札は価格面で効率的であったと思うという。このような認識で行政の適法性をチェックすることはできず、現に、必要な調査、検討はほとんど行われていない。また、公社については会計処理に関する個別的指摘はなされているが、適正な会計処理を行った場合の財務の全体状況は明らかになっておらず、財務分析も行われていない。

 豊田市は、市税の収納状況を実質1頁に満たない記述で「ほぼ適正」と断じ、「課税もれを防ぐことが望まれます」「長期滞留分の整理が望まれます」「今後さらに管理の徹底が望まれます」「期限内申告の向上に努めることが望まれます」などと4頁の要望意見を付しただけのものであり、1,155万円もの監査費用を要した報告書とはとても思えない。報告書を見る限り、全国の中で最悪のものと言わざるを得ない。

 これらE評価の報告書は、多額の費用を負担する地元の市民がこれを読み、了とするとは全く思えない。

7.  まとめ

 以上のとおり、各自治体の監査報告書を評価したが、全体として何点か指摘しておきたい。
  • 今年は、採点は昨年より「辛め」にしたが、一般的には自己及び他の監査経験を生かされ、また私達市民オンブズマンの指摘も反映したと思われ、一般的には監査報告書の内容は向上している。
  • また、実施2年を経て、包括外部監査はより定着しつつあり、中核市・任意実施都市も増えている。

 包括外部監査の実施2年目は、より広範な対象テーマが取り上げられている。そのテーマは一応分類したが、重複する分野も多い。自治体の問題領域は広く、今後の新課題は尽きない。既に取り上げられたテーマについては新視点を加え、先例の監査の成果に上乗せして取り組まれることが期待される。

 監査の対象の選定について、前年度に引き続き、病院事業が高頻度に選定されている。取り組みやすい部門として選ばれている感があり、同様の監査手法により、同様の監査意見が全国で繰り返されるのは、行政全体を監査対象とする観点からは妥当ではない。財産管理、契約、課税のあり方など他の自治体の監査で指摘された点でも採用できるものが多い。他を含めて行政側の学ぶ姿勢が望まれる。



第8章 外部監査の今後の課題
1.  前記のとおり、今回調査した多くの外部監査報告書を平均すると、昨年度よりは向上している。しかし、なお十分な適法性監査、3E監査とはいえない。

 まず、監査にあたって、実質的な「適法性」ではなく、形式的な「合規性」を確認することを視点として監査を行い、「適正に執行されていると認められる」と結論付けている監査報告が多い。しかし、手続規定に準拠して手続書類が作成され、手続が進められているかどうかという外見的、書面確認的な監査は、外部監査の基本作業として当然に必要なものであるが、それだけにとどまらず、契約、支出、補助金交付などの執行行為、手続の目的、金額、内容、必要性、相当性等の内容ついて調査し、検証することが外部監査には求められる(例えば、違法な食糧費の支出、補助金の交付、不当に高い土地取得契約の締結や、さらには本来入札に付すべきものを小額に区分して随意契約にしている等とされてきた事例も形式的な書類は合規に整えられている事例である)。

 適法性に問題がある場合は、指摘する報告も散見されるが、実質的な監査を行う調査の過程で、適法性に疑問のある事実が確認されているにもかかわらず、あえて適法であるのかどうかという判断を避けている例が依然多い。「通常必要とする数量より購入量が多いが、数量の管理を行っていないため、紛失の事実が確認できないとのことであり、物品の管理に対する意識の向上が望まれる」とした例や、談合を推定するに足る事実を指摘しながら、「重要または重大な合規的違反とすべき事項はなかった」「自然であるとは断言できない傾向が散見されるようであり」とした例(鳥取県)など問題事実を確認しながら、外部監査人としての意見、判断を示さない監査報告や、また、「改善を検討されたい」「見直しを要望する」という検討、要望意見だけをつける報告は少なくない。

 しかし、公有財産の貸付、随意契約、保証金の支払等には内容と手続両面での法的要件、根拠が必要であり、指摘されている事例は違法と判断すべきものも少なくないはずである。

 さらに外部団体での契約、運営の適法性をチェックし、そこでの「適法性」を問題にすべきである。公金は外部団体に出ても適正な公金として活かされねばならない。

 外部監査は、職員の非違行為を摘発したり、職員の責任追及を基本目的とするものではないが、行政内部に長年の悪しき慣行として定着している不適法な手続や会計処理について一般的な改善を要望するだけでは、真剣に改善が検討され、実施されていくと期待することは甘すぎる。外部監査人が、違法な事例を指摘することの結果として担当者の責任が問われることのないように配慮したり、さらには自治体との緊張関係を生じることを心配して、詳しい調査をしなかったり改善点の指摘を控えたりするようでは、従来の身内に甘い監査委員の監査と同じとして批判される事態となってしまう。

 調査の過程で明らかになった事実が違法である可能性が少なくない場合には、外部監査人としては、その違法性の有無について、事実関係を詳細に調査し、関係法令も精査し、関係判例等の調査を踏まえ、厳正な判断を行う職務があることを忘れてはならない。

 さらに、昨年同様今回の調査でも、行政提供データに追随し、十分な調査・検討のない、広く浅くの監査が多数認められた。このような監査は、過去の行政に対する「お墨付き」の効果を与えるだけで問題点が多く、反省を要すると考える。

 具体的にいうと、福井県の41の個別貸付金の例、秋田市の23の貸付金の例で、具体的な検証が示されず、「おおむね適正」「おおむね良好」という監査の例である。また、本文より多い資料の大半が公刊物、新聞記事の切り貼り、行政データで占められている例(岡山市)もあった。

2.  有効性・効率性・経済性(3E)監査については、まだまた、課題が多い。安く(経済的)、効率のよいという視点と自治体の目的、有効性の視点は個別のテーマによっては大きく相違、さらには相反することもある。3Eすべてが単純に一致するとはいえないが、自治体の使命とは何かということを問い続けることを忘れてはならない。



第9章 外部監査を活かすために
1.  外部監査は、監査の結果が提出され、公表されることによって終わるものではない。

 いかに鋭い監査が行われ、いかに住民にとって有益で有効な意見が監査報告書に提示されても、監査を受けた自治体の長、議会、あるいは指摘された関係団体やその責任者が、監査の結果を真摯に受け止め、指摘された点について原因を究明し、監査意見に示された是正、改善提言を実際の行政に活かしていかなければ、外部監査制度は全く役に立たない。

 初年度である昨年の外部監査は、これを実施した監査人にとっても未経験のことであり、的確な問題の指摘と改善意見を示したものは多くなく、全体的に適法性あるいは有効性、効率性、経済性の監査としては成功していない。しかし、昨年の外部監査によって、自治体内部に潜んでいた問題、欠陥、損失、負債、リスクなどがディスクローズされ、市民に初めて明らかになったものも少なくない。今年の外部監査においても、一般的には情報公開されない部分がまとまって整理して公開されるなどして、役立つものが多い。したがって、総合A・B・C評価の監査報告書であれば、行政にとって参考にならないとはいえないはずである。

2.  今回の通信簿にあたっては、昨年度の外部監査がどう活かされたかについても調査した。

 地方自治法252条の38第6項によれば、監査結果の報告の提出を受けた長、対象団体、各種委員会またはその委員は、監査結果を参考として措置を講じたときは、その旨を監査委員に通知し、監査委員はこの通知事項を公表しなければならない。したがって、その措置の有無や内容についても調査した。その措置のとられていない自治体があることに驚く。例えば、奈良県は措置を取らずに、したがって公表もされていない。自治体が報告書を参考にする気がないか、参考にすらできない監査報告であったというのか、そのいずれかであろう。

 法的には、監査報告書の指摘事項や意見に対しては逐一措置すべき義務はなく、行政・議会・関係団体の努力に委ねられている、という解釈であろうが、これでは「行政責任」は果たせない。もちろん、市民への「説明責任」も果たすことができない。

 また、措置を講じでも、比較的きめ細かい対応をした自治体と、おざなりで形式的な対応しかしなかった自治体との差があることも指摘される。監査対象となった担当部局、団体について、承服しがたい点があるならば、監査人からの指摘点に対しての「反論」「反応」もほしい。

 とられた措置の公表によると、自治体によって公表された措置の量と質にも大きな違いがある。公報紙面で比較しても、1〜2頁程度のもの(群馬県、大阪府、大阪市)から16頁の鳥取県まで様々であるが、多くは5〜7頁までのものが多い。もちろん、措置内容は、監査報告における是正措置等の指摘が十分かつ適切かにもより、なお自治体が実質的にとった対応や改善措置の内容が大切であるから、公表内容だけで是非をいうことはできない。しかし、この公表内容から自治体が監査報告に具体的に対応し尊重しようとする姿勢の差は見てとれる。

 一部の自治体では、6項の措置の有無にかかわらず、指摘された点の検討を部局にさせ、かつ今後の行財政改革に活かそうとしているとの報告もある。

 自治体が指摘された点や意見に丁寧に対応しないのでは、監査人の労に報いるものではない。また、市民に対しての行政の説明責任を欠くもので、非難に値する。監査報告を受けた自治体は、監査結果を真摯に受け止め、迅速かつ確実に改革を実行していくことを強く求めるものである。

3.  ところで、前記総務庁の調査結果は、雑誌地方自治642号にも掲載されている)。

 その内容は、監査委員・補助者の選任、監査テーマなど、事実的・統計的なものが中心であるが、政府のまとめたものとしては唯一である。これによると、議会からの包括外部監査の説明要求または意見の陳述を求められたのは、都道府県では大阪府のみ、都道府県以外では岡山市のみとなっている。このように、議会の関心もいまだ十分ではないことが判る。議会、議員の活用が望まれるところである。

 また、監査の結果・意見についての自治体の評価が寄せられている(後記資料「監査の結果に関する報告及び意見に対する地方公共団体の評価」参照)。京都市のように無回答の自治体もあるが、回答内容をみると、概ね「専門的な知識を有する者からの新しい視点からの監査」「有意義であった」というものである。しかし、具体的な評価については、私達の昨年のA評価と一致するもの(横浜市・福岡市)、私達の評価と同様の指摘をしているもの(テーマが広範すぎるとして対象を限定することを求めた愛媛県の例等)がある一方、制度論や政策的意見(宮城県)という評価もあり、私達がD評価とした監査報告(青森県・福井県・鳥取県・宮崎県)を私達とは反対に好評価を与えているものもある。

 外部監査人には、私達の評価だけでなく、これら自治体の評価も踏まえ、今後の研鑽を求めるとともに、積極的に行政の対応を求め、監査結果の実現について市民とともに監視していくよう要請したい。

4.  外部監査の結果がマスコミに報道され、特にその中で具体的な是正措置が社会問題化した場合は、報道と世論による改善効果も大きい。監査人は、マスコミ関係者にもわかりやすく自ら説明できるよう配慮が期待される。行政当局に公表の取扱を任せているところが多いが、直接インタビューに応じなくとも、概要書などの文書で要点を明確に指摘してほしい。マスコミが急所を報道すれば行政としても無視できないであろう。

5.  私達市民は、これらの外部監査によって、行財政の諸問題を学ぶとともに、自治体が自らより一層正常化するよう見守っていかなければならない。

 本通信簿の作成を通じての作業を含め、私達市民オンブズマンは市民自身も本包括外部監査を活用することが必要であると痛感する。

 今回A評価となった報告書は、自治体での緊要な課題の取扱っており、大いに参考にできよう。また、監査人が具体的に改善を指摘し、違法・不当としている点を行政側が速やかに改善しない場合、市民自身がこれを検討し、さらに情報公開請求をしたり、住民監査請求という法的な手段をとることもできるし、市民団体の要求対象とすることが有効である。

 現に和歌山市のオンブズマンは、本年度包括外部監査の指摘事項を契機に住民監査請求し、これを内部監査でなく個別外部監査人によって審査することを求め、この請求は受理されている。実態調査をもとに、包括外部監査報告書にその内容が詳しく指摘されていれば、このような取り組みも可能である。

 私達が、税が行政の目的に有効・公正・効率的に使われるよう監視するために、包括外部監査を活用しなければならない。



総括表はこちらです (新しいウィンドウで開きます。開くのに少し時間がかかります。)
監査対象事項分類表