はじめに  −情報公開請求訴訟判例を紹介します−

住民の求める情報は多岐にわたるが、ここでは裁判例を、
「公費支出に関係する文書」(第一群)と、
「それ以外の文書」(第二群)の公開請求事案とに二分して整理をしました。

「公費支出に関係する文書」の典型的なものとしては、首長の交際費、懇談会費、出張旅費の経理文書などがあり、契約文書や入札手続における入札結果調書などもあります。また、情報公開事案ではないが、情報公開の遅延を理由とした損害賠償請求事件も、ここに併せて掲載しました。

一覧表で明らかですが、第一群の請求訴訟の住民勝訴率はかなり高くなっています。第二群の判決結果と比較すると、いっそう明確です。今日、首長が管理する「公費支出に関係する文書」の公開請求訴訟では、下級審裁判所は原則として全面公開を命ずるといえるまでになりました。情報公開の実施機関になっていない議会や公安委員会(警察)の所管文書については、下級審でも判断は分かれていますが、実施機関になっていない機関のものであっても、経理文書の管理責任は知事にあるとして、住民からの請求に「不存在」とか「不受理」と対応することは許されないとの判決が出るに至っています(第一群の43事件の控訴審、58事件の控訴審、60、66、83事件など)。

しかし、知事部局における支出関係文書についても、全面公開の流れに竿さす判決も少数ながら存在しています。地裁段階では、新潟(49)、広島(51)の判決がそれで、懇談会参加者の個人氏名は非開示にしてもよいとしたのです。これらの判決は、すでに控訴審段階で取り消されているのですが、この3月29日、仙台高等裁判所で、個人情報は「みだりに公開されると悪用され、プライバシーの侵害を惹起する」とし、個人情報は「原則非開示」とする、きわめて後ろ向きな判決が現れました(69事件の控訴審)。

このような状況で注目されるのが最高裁の動向です。第一群の表に収録した限りでも、26件もの事件が最高裁に滞留しています。これまで、住民勝訴の判決に対する実施機関側の上告申立が、「上告理由なし」として却下された事例はありますが、最高裁が積極的に情報公開制度の意義を説いたことはなく、ながい沈黙を続けているのです。

情報公開請求訴訟の第一群の概観は以上の通りですが、住民の公開請求に対して積極的に応える下級審裁判所の姿勢が、都道府県知事の背中を押して情報公開を促し、さらには、司法上の基準をこえた公開・公表制度にも踏み切らせるなど、自治体行政の透明化に大きな役割を果たしてきたことは疑いのない事実です。わが国の裁判所が、行政訴訟では「国や自治体のいいなり」と、各界から批判される中で、情報公開訴訟で見せた裁判所の姿勢は目を見張るものがありました。この分野に限っていえば、裁判所は行政の友人ではなくなったのです。それで、ようやく裁判所の役割が果たせるようになったのです。

この下級審の作り上げた成果を、よもや最高裁が打ち壊すことはないと思われますが、それをやれば最高裁の自殺行為にも等しいものです。そして、最高裁にこれを思いとどまらせることができるのは、それは市民の監視、市民の情報公開制度に対する関心の盛り上がりをおいてほかにないと思われるのです。

なお、この判例紹介に漏れている事件などございましたら、下記事務所宛にご連絡ください。また、お気づきの点もご連絡ください。
(弁護士 高橋利明 同清水勉。判例収集 出口かおり)
さくら通り法律事務所
FAX 03−5363−9856